第8話 エルフ姉妹の温泉事情 無礼講

第八話 エルフ姉妹の温泉事情 無礼講



 そんなかんだで賑やかに風呂を済ませ、浴衣で二人のために用意された広い和室で寛いでいた。


『お風呂上がりに失礼致します。お食事の準備ができたのですが、こちらにお運びして宜しいでしょうか?』


 雛野の改まって聞く姿はとても泣き言を言っていた様には見えない。


『はい、じゃあお願いします。』


『かしこまりました。』


 パンパン


 雛野が手を鳴らすと同時に豪華な食事がそこに出現した。


 そう、それは昨日の記憶。


 朝日が窓から入り込み、瞼を照らす。頭痛とともにはだけ切った寝巻きで目を覚まし、辺りを見回すとエルフの姉妹が微笑ましく並んで眠っている。


『あー、頭痛い。なんで私はこんな畳の上で眠ってるんだっけ?』


 頭痛に耐えながら懸命に昨日の記憶を辿る。


昨日の夜


『では、こちらが今夜の食事になります。』


パンパン


 雛野が襖で手を叩くと部屋の中の長机に2人分の食事が並ぶ。釜飯にお吸い物、川魚の揚げ物に、山菜を惜しみなく使った一人鍋、山菜の天ぷら、おひたし、一口サイズの田楽、鹿の一口ステーキに冷奴そして極め付けは円柱状の竹の器で竹の葉で蒸された何かが一層興味を引く。


『わぁ、綺麗!こんなに綺麗な料理見たことない!』


『本当ね〜』


 キラキラと目を輝かせて子供のように喜ぶ妹と布団と戯れていた隣の部屋の姉もどんな料理か見に来た。一品一品が宝石の様に照り輝き、食べてしまうのが勿体ない。そこまで思わせる料理なのだ。


『では、ごゅっくり...』


『ちょっと待って、菊野さん!』


『はい?』


『実は今日、足の治療をしてもらった時のお礼で私たちが作ったワインを持って来ているんです。良かったら、旅館の皆さんと呑みたいんですけど、ダメですか?』


 蒼い潤んだ瞳を向けられれば、落ちない男などいない。それは女性相手でも同じ事だ。


『い、今、従業員2人しかいないんですけどそれでも良いなら....』


『はい!是非!』


『では、呼んで参ります。』


『いってらっしゃい〜。』


襖をピシャリと閉め、台所へと向かう。


『姉さん、今の人とかなり親しげだったけどどういう関係?』


『半年ぐらい前にね。山菜取ってた時に足を怪我してここに辿り着いたの。それでさっきの人はここの女将さんで雛野さんって言ってわたしを介抱してくれた一人なの』


そんな説明をしている内に再び襖が開く。そこには二人の女性が並んで座っていた。


『私の様な板前にまで気を掛けてくださり、ありがとうございます。今宵の食事を担当させて頂きました、雛菊と言います。お怪我が治った旨自分のことの様に嬉しく存じます』


 深々と頭を下げ礼を尽くす。普段の天真爛漫さは一切感じさせない淑女っぷりだ。


『お二人とも顔をあげて中に入って下さい。この前のお礼がしたいのでこの前みたいに砕けて話して下さい』


『分かりました。では、入らせて頂きます。』


 菊野から頭を上げて部屋の中に入り、空いているスペースに座る。エルフ姉妹のカンナとナズナ、雛野と雛菊が対面し、四面を埋める。


『じゃあ、妹を紹介します。私の真前に座っているのが...』


『ナズナです。よ、宜しくお願いします。』


『ナズナったら、急に萎縮してどうしたの?人見知りって訳じゃないでしょうに...』


『だって、その雛野さん達の言葉遣いが綺麗だから緊張しちゃって』


『あら、その事なら大丈夫。半年前に来た時は二人とも不良で今の言葉遣いとはかけ離れていたから。』


『『その話はおやめください。』』


 顔を赤くし、雛野と雛菊が顔を赤くして声を揃えて抗議する。


『だって、私はこの部屋の中では友人として話して欲しいのに、改まったままですし私に出来ることと言ったらお二人が観念するまでそのお話をすることしか...』


『わかった!分かったから。この場合は仕方ないよね?雛野?』


『ほら、この前油断して敬語で話さないから雛菊のせいで弱み握られちゃった』


『しょうがないでしょ!あの時は正直取り乱しちゃって敬語を使う暇なんてなかったんだから。って、どちらかと言うと雛野、あんたの方が酷かったからね!』


 そこには今朝の様に言い合う仲のいい二人が居た。


『お二人の素はそっちだったんですね。』


 ナズナが意外そうに言うその言葉で恥ずかしさが込み上げてきた。


『まぁ、雛野はともかく私は教養とは程遠い家に生まれたからね。言葉遣いだって素はこんなんだし、私なんかと一緒に食事なんてするもんじゃないよ。』


 そう言って立ち上がろうとする手をカンナがを引き留める。


『何言ってるんですか?ご飯を食べる時に教養なんて必要ないです。一緒に食べましょう?』


『でも...』


『それとも私達が頑張って作ったワインみたいな下賤なお酒は飲みたくないんですか?姉さん、私、悲しいわ』


『わーかった!一緒に食べるから。貴方達やっぱり貴方達二人は姉妹ね』


『そんな事言って本当は嬉しくて照れてるくせに。』


『照れてない!あんまりふざけたこと言うとあしたの雛野の朝ごはん作らないよ。』


『はいはい。そんな事言ってないで私達も一緒に食べちゃおう』


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