第6話 パワー系ダンジョン攻略でボスエリアへ

「こんなもんかぁ。大したことねえな」


 ここはAランクダンジョン『ファントム』第一層。


 ガスを魔力の核で繋ぎ止めた──ガス生命体系の魔物が多く出現するダンジョンだ。


 霧で視界が悪く、ぼやけて見える木々も不気味で気味が悪いのが厄介ポイントだが俺は耳が良いから意識していれば微かな音をキャッチして敵の方向を把握できる。


「魔物が弱いからねー。三層構造のダンジョンはだいたいSランク指定されるんだけど、ここは魔物が弱いから例外的にAランク。だから実戦訓練ってよりも独特な環境の変化に慣れる意識でいこう」


 全身モザイクみたいな人型魔物を大剣の一振りで核ごとぶっ飛ばす。

 手応えなんてのは何もない。

 空気を切ってるようなもんだ。


 戦闘は作業。

 でもダンジョン攻略自体は意外と簡単にはいかない、というか快適じゃない。


 単純に霧のせいで視界が悪いのがよくない。

 『ファントム』自体は攻略されて久しいダンジョンだけど、未だにルートの完全開拓が終わっていないのはこれが原因だ。


「めんどくせーけど、練習には悪くねえかもな」

「でしょでしょっ」


 常に音を拾いながら歩き続ける。

 大剣で大地を叩き、微かな変化も見逃さない。

 魔物の強度、魔力密度の変化、風の流れ、匂い……全てがダンジョン攻略に繋がる、らしい。


 ゲームだと俯瞰で全体を見渡せるから霧みたいなフィールド効果はそこまでうざくないし、昔ソロだった頃はがむしゃらに潜ってただけだし、パーティー組んでた頃も俺の役割じゃなかったからやらなかった。

 

 『ウロボロス』に挑むにはそれじゃダメらしい。

 役割関係なく一人一人が全神経をダンジョン攻略に傾けても尚足りないくらいとのこと。

 情報共有が盛んなオンラインゲームで制覇者がいないくらいの鬼畜難易度だから当然っちゃ当然だな。

 今は死んだら終わりだからもっと慎重にならないといけない。


 そう、慎重に慎重にパワーで魔物を薙ぎ倒していると──魔物がボロンとなんか落とした。


「アイテムか……はっ、やっぱゲーム的だよな」


 転生していること、ゲーム世界であること。

 これらを知るまでは何も不思議に思わなかった現象だ。


 ガス系の魔物が落としたのは魔力の込められた短剣だ、ギャグっすか?

 

「ガスイーターは殺した探窟家のアイテムを体内に取り込む習性があるらしいよ。で、ゲームってなんの話?」

「さぁな」


 ゲームには無い理由付けが姑息にも存在する。

 これから先、明らかに物理法則を無視したアイテムドロップが発生するだろうけど……まあ、メタ視点で突っ込んでいくのはうん、疲れるからやめとこう。


 アイテムボックスを持っているククルに回収してもらい、攻略を再開する。


 俺が前衛でククルも前衛。

 脳筋アタッカーコンビでガンガン魔物を蹴散らしていると、やがて景色が変わる。


 


「代わりに池……ですと。しかも毒池っぽいぜ」

「ここでボートが活躍するんだぜ〜。じゃじゃーん!」


 ククルが効果音とともにどこぞの猫型ロボットよろしくボートをアイテムボックスから取り出して池に投げ込んだ。

 見れば他の探窟家達もボートを使って先に進んでるようで、


「さっきショップで会った奴らもいるぜ。ボスエリアにはパーティーごとにしか入れねえし……」

「そうだねぇ、どうする?」

「抜かしゃいい」


 ダンジョンの最奥はボスエリアだ。

 そこには一組ずつしか入れないので混み合うと余裕で日が暮れる。


 じゃあどうするか。


 ククルとボートに乗り込んだ俺は、後方の毒池に大剣を寝かせてセットして──


「スマッッッッシュ!!!!」


 後ろに他の探窟家パーティーがいないことは確認済み。

 盛大に毒の飛沫を巻き上げながら猛進する。

 

「キミ、さいっこうね!!! いけいけぇ!!」


 時間にして一分くらいで向こう岸に激突すると、ブレーキなんて効くはずもないボートと共に天高く舞い上がる。

 ククルの屈託のない笑顔を見ながら空中浮遊する時間は、とても長く感じ────実際にめちゃくちゃ高く打ち上げられていたので咄嗟に彼女を抱き抱えて地面に両足で着地した。


「わーお、お姫様だっこってやつだ」


 速攻でククルを下ろす。

 

「……言ってろ」


 ここでキザなセリフの一つでも言えたらなぁと思いつつ、15メートルくらい上空から受け身も取らず着地を成功させ全ての衝撃を受け止めた両膝の耐久力に驚愕する。


 ──調整ミス級のステータス。


 これが俺の強さの要因だ。

 どうせすぐに退場する上、ククルの引き立て役ということで各ステータスを雑に高く設定されているので、めちゃくちゃなことになっている。

 確かカンストしてたっけ? かませ犬のステータスなんてしっかり覚えてないけど。


 まあ、つまり、俺が強くなったのは鍛錬の成果──ではなく残念ながら神の手違い。おかしいと思ったぜ、ある時からいきなり格上の魔物とか倒せるようになったんだからな。成長曲線も適当らしい。


 強さがあまり自信に繋がらないのはこの辺も関係してるだろうな。


「まーた浮かない顔してる。ほら、止まってると他の人らに抜かれちゃうよ」


 ククルの言葉に引かれ振り返ってみればごぼう抜きされて焦りまくる探窟家達。

 見てるとなんかこう、優越感がふつふつと湧き上がってくる。

 またニヤケそうになってきたので、再び頬を叩いて前へ向き直る。


「わりい、行かねえとだな」

「ねぇ、さっきからそれなに?」


 ククルが俺の真似して自分の頬をペチンとぶってみせた。


「自分への喝。スッキリするんだ」

「自己完結するの好きだねぇ、わかるよ」

「一人で悩むのは慣れてっからな」

「ふーん、でもわたしがいる事は忘れんなよー」

「……わーってるよ。マジで死にそうになったら言う」

「できれば溜め込む前に言ってほしいんだけど〜」

「大袈裟に言っただけだよ。でもマジで死のうと思うことはもう無いと思うぜ…………く、ククルのおかげでな」

「えへへ〜っ、嬉しいこと言ってくれるじゃん」

 

 軽口を叩き合っていると唐突に霧が濃くなり始めた。

 三層に到達したみたいだな。

 霧は足元に溜まっている感じで、視界が遮られてはいない。

 他の変化といえば……ちょっと寒くなったくらいか。

 べつに防寒着を着込むほどじゃない。


 身体能力バグってる俺がイカれてるんじゃなくて、ククルも寒そうにしてる感じはないから問題なさそうだ。


「先客はいない感じだね」


 前方。

 霧に隠れて見えにくいが──確かにそこにある死体を見てククルは言った。


 後ろを見れば、俺たちを外部から隠すかのように不自然に霧のカーテンが降りている。

 ボスエリアはパーティーが一組足を踏み入れたと同時にのだ。

 これはゲームの……じゃなくてダンジョンの防衛機能によるもの──


「来るぜ」

「うん」


 大剣を振り下ろし、速攻で『スマッシュ』をぶっ放す。


 このダンジョンで初めての確かな手応え。


「……あ〜、うん。エルくんやっちゃえ!」

 

 右と左に分断され絶叫しまくるどう見ても瀕死な巨大ゴーレムとのボス戦が始まった。

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