第5話 ※ガキくせえ復讐
「やぁ、俺はフリッツ。サポーターとしてパーティーに入らないか?」
その爽やかな声に引っ張られ反射的に振り返る。
「わーおイケメンさん。ごめんなさいね〜、先客がいるのよ」
「おっと、それは失礼した。でも……それは困るなぁ、今すぐにでもメンバーが欲しいんだ。どれくらい出せば優先して雇われてくれるかな?」
俺の耳が鋭敏になりすぎて拾ってしまったが、彼──このゲームの主人公である『フリッツ・ドラコシア』は人混みの向こう側で女性
あいつ……そういえばこの時期だと仲間集めに躍起になってるんだっけ? ゲームでの話だけど。まさかこの街にまで足を運んでるなんてな。
女性メンバーの『ラム』にビンタされて仲違いする──っていう割とショッキングな展開があって……今はその後の話だ。どうしてビンタされたのかは明かされていない。
ともかく本来ならここであの人にスパッと振られて機会を失い、何やかんやあって謎の運命力でククルと磁石のように引かれ合うわけだけど。
「うーん、無理ね。だってこの前知り合った彼……えぇ、恋人と組む予定ですもの」
「……なるほど。なら短期間だけで構わないぞ? それなら問題ないだろ」
「ちょっとあんた……それはおかしくない? 着いていったら浮気だって疑われちゃう」
「それこそおかしい、君は優秀なサポーターなんだろう? 誰に雇われたとて不自然じゃない。君の力で俺たちをAランクダンジョン踏破に導いてほしいんだ」
何やら下世話な話になっていた。
こうなると野次馬もゾロゾロと集まってくる。
ああくそ……気にしすぎだ。
俺はもう追放された身だし、プレイヤーのコントロールから逃れた
べつにこの世界にゃ魔王なんていないしな。
諍いに耳を傾けていると、やがて受付に着く。
提出したギルドカードのランクは最下位であるEランクにまで落ち込んでいたけど、ククルとパーティーを組んでいるのでランクに関係なく上位ランクダンジョンに挑戦できるようだ。
「ですが、挑戦する際は誓約書にサインをお願いします」
「わかりましたー」
要は死んでも文句言いませんよ〜っていう宣誓だ。
適正ランクなら面倒な手順を踏まず自由に出入り出来るので、さっさとランクを上げたいところだ。
「次はマジックアイテム買い揃えに行こっか」
「うぃ〜」
テンション高くなるククルと下がる俺。
彼女のショッピングに付き合うことがあれば、こんな感覚なのかなと野暮な幻想を抱きつつ、
「いいから来い! 金ならいくらでも払うって言ってるだろうが!!」
「いたっ!? 離しなさいよ!!」
出入り口に向かっている途中、再びあのやりとりをキャッチした。
まだやってんのかよ。
ヒートアップしてんじゃん。
野次馬の輪も大きくなっているし流石のククルも気になったようで不快そうに顔を顰める。
「弱い男。あんなのじゃなくてエルに出会えてホントによかった」
「……」
この時点のククルは
だからあんな大会を開いた。
もしも俺が負けていたら……もしゲームと同じように進行していくのなら、近い将来ククルの隣に立っているのはフリッツの方だった。
当のフリッツに目をやれば……ああ、ひどいな。女性探窟家の腕を強引に掴んで引っ張っていこうとしている。
あんなの主人公じゃない──とは思う。
でも、事実として、あれこそがプレーヤーが操作しない世界線のフリッツなんだ。
これに関してはゲームがどうとか全く関係ない。
これまで生きてきた時間こそが今の俺にとっての正解。
アイツは俺を腐らせた元凶。
それ以上でも以下でもない。
「……ったく、ガキかよ」
指を弾き、
音の爆弾は指向性を持ってフリッツの耳元まで飛んでゆき──爆発する。
「──っ、アア!?!? みみ、頭がッ!?!?」
突如、頭を抑え悶え始めるフリッツ。
これを見た女性探窟家は訳もわからず感謝を伝えて俺の横を走り去ってゆく。
「ハハ」
自らの口元をなぞってみれば性格の悪いことに、ほんの少し口角が上がっていた。
マジかよ。
ちいせえ復讐が決まって気持ちよくなってんのか?
もう少し待てば野次馬がフリッツを止めていただろうに俺は何てガキくせえことを……。
「悪い顔してるよ。どしたの?」
ククルが帽子を抑え、不思議そうに顔を覗き込んでくる。
俺は両手の人差し指で口角をずり下げて、パンっと頬を叩き、赤くなっているであろう頬を堂々と晒す。
「なにも? ダンジョン行こうぜ〜♪」
「お……っ? お〜!」
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