追放された最強のかませ犬に転生した俺、ヒロインと共に欲望のままにダンジョンを攻略する〜主人公パーティーが仲間集めに苦労しているらしいけど……多分、俺のせいっす
第2話 表彰式バックレたらヒロインがうちに来た
第2話 表彰式バックレたらヒロインがうちに来た
「よう、勝ったのに負けたみたいな顔してんな」
入退場ゲートまで重い足取りで辿り着くと係員のおじさんにばちんと背中を叩かれる。
「何が不服だ?」
「……べつに」
「へっ、何でもいいがな。下ばっか向いて歩くなよ、俺のためにも。何のためにこの仕事やってんのか分かんなくなっちまう」
おじさんがS字に曲がった俺の背骨をぐいぐいと押し込んでくる。
残念ながら知らねえよ、そんなの。
今の俺は自分のことで精一杯だ。
それなのにおじさんはニカっと笑い、最後に思いっきり俺の背中を叩いてみせた。
もちろんダメージはないし、おじさんのパワーで矯正されることもない。
「このゲートで前途ある若人の背中を押すのが俺の役目。で、お前らの役目は輝かしい景色を俺たちに見せること、頼むぜ〜!」
「……」
勝手に役目を押し付けんな、とは思う。
でも、この背中の温もりには少なからず応えねばならないような、そんな気分にはなった。
「……あー、ありがとうございました。行ってきます」
「おう! 行ってきな!!」
押されまくった背中を自分で摩り、小恥ずかしい感じで応じつつ考える。
表彰式出るの辛いなぁと。
「帰ろ」
♧♧♧♧♧♧
「よい、しょ……と」
表彰式をバックレたので空が赤らむ前に山小屋に着いた。
酒樽をごろごろ転がし扉の前に置いて、その上に仰向けで寝転がる。
山の香りに身を委ねながら、ゆったりと時間に浸る。
こうしていると自分という存在が大自然の中に溶けて、些細でどうでもいいことは考えられなくなるのでとても心地がいい。
最悪の未来も回避したことだし、ゲームのシナリオに介入してしまったことだけが心残りだが……まあ些細なことだろう。
「な〜にが最高の景品だ。怪しい壺の間違いだろ」
ガバッと酒樽から飛び降り、蓋を開けて顔面を突っ込んでゴキュゴキュと喉を鳴らす。
安酒で薄味……ったく、なんで俺ぁ特別好きでもない酒にここまではまり込んでんだろうな。
でも今日は、いつもよりは格段に美味く感じる。
勝利の美酒ってやつか。
これで十分だ。やっぱり景品の女なんていらないね……まともに話せないだろうし。
ところで何だろうか。
大地がほんのり揺れている。
地震かな……って、何だあれ?
「……嘘、だろ」
俺のいる山小屋から見て下方。
翼のない下位ドラゴン──レッサー・ドラゴンがこっちへドタドタと向かってきてる。
おかしいな。一帯の魔物からは生態系の頂点のように見られていて、率先して狙われるようなことは無くなったはず。
不思議に思い、ふらふらと下ってみると……疑問は氷解した。
簡単な話、俺以外が狙われているだけのことだった。
「あ!! エルくーーーん!!! 来ちゃったぁああああ!!!!!」
自分でも頬が引き攣るのが分かった。
「おいおいおいおい……っ」
まったく困ったことに、
あの人、なんであんなに楽しそうなんだ?
久しぶりの人肉にありつけそうでルンルンなレッサー・ドラゴンに襲われてるんだぞ?
強いし余裕あるのか──なんて一瞬でも思ってしまったのが大間違い。
何とも無残に彼女は頭からレッサー・ドラゴンに丸呑みされてしまった。
「……あ〜、マジか」
まさかパーティーに加わったら弱体化するシステム残ってる感じか?
致し方なし。
丸呑みなのは不幸中の幸いだ。
「腹ァ裂いて……引っ張り出すか」
酒樽を蹴り飛ばして破壊、飛び散った酒を大剣に付与。
ドラゴントレインに千鳥足で突っ込んでゆき、今更ながら俺のテリトリーに足を踏み入れていたことを理解して明確な恐怖をあらわにした奴らの内一頭──ククルを呑み込んだレッサー・ドラゴンの股下からスマッシュ。悲痛な断末魔が盛大に上がる。もちろん止めない。
酒が摩擦により着火し炎属性を得た俺の大剣がバターのようにレッサー・ドラゴンを顔面まで斬り上げて、中身をご開帳。
燃え盛る紅蓮の中。
太陽のような美少女──キャッキャと拍手しながらククルが俺を出迎えてくれる。
正直俺にとっちゃ眩しすぎる。
「やっ、表彰式来なかったから
あぁ……やっぱ溶けてしまいそうだ。
蜘蛛の子を散らすようにして逃げていくお仲間のレッサー・ドラゴンを視界の端に捉え、俺は引き攣った頬をククルに見せつけ早鐘のように暴れ回る心臓を必死に抑えながら震える声で言い放つ。
「……悪いが帰ってくれないか?」
「んじゃっ、おうちお邪魔しまぁ────」
「帰ってくれ」
「え…………えぇ?」
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