向背的レイクサイド2
14
「と、カッコつけて、言ってみたけれど、行ってみたけれど、それほど簡単に、何か見つかるということも無いよね〜」
池の
名前は河童ヶ池という。
つい先ほど、『人斬り河童』の話を聞いた僕としてはその名に違和感は無かったし、違和感が無さすぎるほどままである名を目の前で池を矯めつ眇めつする大学生に聞いた時、少し笑んだほどだ。
「それにしてもいい景色じゃない?最高じゃない?」
随分と楽しそうな奴である。
ある部屋に置いてきた少女の顔を思い出すけれど、あれとはまた違った楽観さを思う。
「おーい、おーい!そんな味気ない顔して、京介君、何か思わんのかね?何も思わんのかね?感想でもどうぞってあたしが振ってあげてるんだよ。答えて見せてよ。話して見せてよ」
「話せと言われても難しいな。まぁ、そうだな綺麗だなとは思うな。うん、驚くべき程に綺麗だと思う、綺麗すぎるほどに綺麗だと思う」
「そうだよね、綺麗すぎるよね。まるで、河童なんて居ないって主張するようにさ」
擬人的に、池を主語にして、主張させてまで、彼女は表現した。
河童ヶ池。意見すると、言わせてもらうと、打って変わって、違和感があると言わざるを得ない。
名と噂との違和感の無さに反する、違和感の根底にあるのは、そのおどろおどろしさに打って変わった、綺麗さにこそある。
綺麗すぎる。
おどろおどろしい名に対して、泥が無く澄み切った溜水、透明度が高く、そこの青が奥の奥まで続いて尚も青しか見えない。
本当に河童が住んでいるなら、随分と高給取りの奴なんだろうなと愚考を巡らす。
「河童とは、話はかけ離れるけれどさ。何事も見えない角度から、見ることって大事だよね」
「例えば、この旅館の形、大きく形どられた湖に、ボッチのように出っ張った円形のこの池。旅館はどのように
半円形に建った旅館。半円の中心部からかけて、数個の木の四角に分解されていくが、廊下から繋がっているそれぞれの池側についた部屋であることにすぐ合点がいく。
「その部屋の間には、あれ水車があるんだよね。廊下の窓から見えるようには作ってなかったと思うけれど、つまり、池側に大きく出張るように出来ている訳だったんだね」
音立てて、回る水車。表に小川も無かったし、水の流れは見当たらなかったが、地下にでもすぐ流しているのか。
他には、旅館の左の端と、右の端にそれぞれ何か空間があるのが見て取れる。立地からして、先ほどまで居た場所、食事場の場所こそが左端だ。
少しサイズ感が大きいがその足りない部分の答えも知っている。
食事場があるのだから、それが併設されていると便利なわけで、隣のスペースには調理場が備えられている。左端には食事場、調理場。右端には行ったことないな。
昨日の今日でというか、今日来たところで、何もかもを知っているとそれこそ、彼女のように調べるようでもないと、危ない奴だが。
まさか、こいつは知っているのかな。
「知ってるよ」
わぁ、知ってたよ。
興味関心の幅、造詣の広いのは良いのだが、もしかしたら、何から何まで調べているのでは無かろうか。
そんなことを考えていたが、答えは至極真っ当で、無粋は僕だった。
「風呂があるんだよ。風呂がね」
「でっかい
すーい、すーいと平泳ぎのポーズを空中で行う。お風呂で泳いだのか、こいつ、なんて奴だ、羨ましい。
そう、思いつつ、話を続ける。
「宿泊客、というとどれくらいか把握してるのか?」
「まぁ、大体ね。ほら、ここからも見える通りだけれど、宿泊スペースに使われる木の箱の部分は裏に七つだけなんだよ。」
「内装はどこの部屋も同じ。強いていうなら、真ん中の一つは違うのだけれど、あたし達とは、役割が正確には違うからね。扱いが違うのも頷ける」
この情報は後にとっておいてと、彼女は付け加える。
「さておいて、その部屋、七部屋には知っての通り、ベッドが二つ、詰めて泊まっても、一部屋四人家族ぐらいがマックスなわけでしょ」
「4×7で最高28人までなわけよ」
「待て待て、裏に七部屋は分かったけれど、表の部屋は何なんだ。部屋のスペースがあることだけは入る時点で察していたが」
「あれはどうやら、荷物部屋らしいよ。何でもない荷物部屋。もちろん、元々は宿泊部屋として使ってたんだろうけれど、カエラちゃんは知らないってね」
「さっき、計算したけれど、これももう少し正確にすると、あたし、カエラちゃん、団子ちゃん、京介君でこの四人は一人部屋だってことは分かってるよ」
「だから最高人数はもっと小さくなるだろうね」
なるほど、僕は二人部屋を正しく二人で予約しているけれど、ここで訂正するのも厄介そうなので、話に乗っかることにする。
「あれ、でも、あれだ。従業員の人はどこに寝泊まりしているんだ?」
「いや、だから、裏の七部屋の内だよ。カエラちゃんがその内の一つに泊まってるって言ったじゃん」
「カエラちゃんと言うのは、ここの従業員だったのか、いやに馴れ馴れしいから君の友達か、何かかと」
では、あれか。
朝食を僕の前まで運んできてくれた女性こそが、ここの従業員、かのカエラちゃんと言う事だったというわけか。
「カエラちゃんはここで初めて出会った友達。ちなみに団子ちゃんも、ここの従業員だよ。コックさんなんだよ」
「そうなのか」
つまり、僕は知らぬ間に、朝食を食う間に、カエラちゃんと言う人にも、団子ちゃんと言う人にも関わっていると言うことか。
なるほど、これが人は一人で生きれないと言う事なんだな。
うんうん、と人生の少しでも悟ったように、考えていると、ふと忘れ物に気づく。
「従業員、と一括りにすれば、彼女はどこに寝泊まりしているのさ。
「女将はね。表側だよ。表側の一室。まぁ、妥当と言えばそうだけれど、一室、表側が空いているとすれば、それを女将が使うのはいい選択でしょ?」
「何故?」
「何故って言えば、1番、お客から離れた存在だから。実質的な、いや、正確には違うのだけれど、オーナーだからね。経営統括だからね」
「この展望だから。いくら、表側が正面だと言っても、裏の水の流麗に敵う景色は無いだろうし、客に適う景色はこれだろうからね」
「お客様、第一。いい信条だと思うけれど」
確かに、あの女将ならそう言った信条を持っていてもおかしくは無いと思う。
「あと二部屋、そこに泊まっている人物には未だ、会ってないね。出会ってないね」
「挨拶でもしてないのか?君なら、しそうだけれど」
言っと直後いきなり、ピシッと指を鳴らし、こちらに向ける大学生。
「ちっちっち、全然、分かって無いね。あたしを分かって無いね」
「誰でも、話しかけるなんて、無いよ。引越しすぐの挨拶回りじゃ無いんだから」
いきなり…では無かったが、僕にとってはいきなり話しかけてきた奴が何を堂々と今更言うのか知らないが、言ってることはそれはそうだと言うものだ。
彼女の自由な感性に若干こちらがズレてきている。
正さねば、危うく、僕もヤッホーと誰かしらに話しかけない。
自制、自制と心に思う。
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