第8話 子供が出来ればなお可です!!
「あああ……いったい……いったいどうすれば……!?」
「色仕掛けが通じない! 唯一の取り柄であるはずの色仕掛けが! なんで!?」
もしかしてジップって……男色の気があるのかな? いやでもこの18年間でそんな様子はなかったし……わたしの胸が出てきてからは、度々胸に視線を集中させていたし……
あるいは……もしかして性欲薄い!?
興味はあれど、いろいろと準備が出来ないってこと!?
わたしも詳しくは知らないけれど……男性は、アレをするまでに立ってなくちゃいけないっていうし。でもアレをするのはベッドだっていうのに、立ち上がらなくちゃいけないとはどういうことなのだろう? ベッドの上に立ち上がってアレに及ぶのかな?
あっ……!
そ、そういえば!
今朝、ジップが驚いて起き上がったとき、ベッドの上に立っていた!
ということはあの体勢は、実はオッケーのサインだったというの!?
口ではイヤだイヤだと言いながらも好きのうちだったということか!
確か、お母さんに聞いたことがある。
男性は、ときに、心と体で真逆のことをするって……!
し、しまった……!
なら今朝は、あのままアレをしてれば、今頃は責任を取ってもらえてたのに!!
そうすれば、例えレベッカとパーティを組んだとしても、わたしは将来安泰だったのに!
子供が出来ればなお可です!!
でもわたしは、そのチャンスをみすみす見逃してしまった……!
「あああ……いったい……いったいどうすれば……!?」
思考が振り出しに戻って、わたしは頭を抱えてジタバタするのみ。
するとそこに、ドアベルが聞こえてきた。今日はお母さんがいるから、わたしが出る必要もないか……と考えていたら、リビングからお母さんの声が聞こえてきた。
「レニ〜〜〜、ジップが来たわよ〜〜〜」
「!?」
お母さんの声を聞いて、わたしはガバッと起き上がる。
も、もうレベッカとの話し合いは終わったの!?
いくらなんでも早すぎない? あのレベッカが素直に進学するとは思えないけど……あ、ということは……
交渉は決裂して、むしろジップはパーティに入ることになってしまったと!?
ま、まずい……
まずいよ!
このままじゃ、ジップに見捨てられちゃう!!
「おーいレニ、入ってもいいか?」
わたしがワタワタしていると、私室の扉越しに、ジップがノックをしながら声を掛けてきた。
「ちょ、ちょっと待ってて!?」
わたしは目を回しながらも、髪を整えたりして身支度を調えた。
「は、入ってきていいよ……」
それからわたしが答えると、ジップが扉を開けて──
「──のわッ!? お、お前!? まだそんな格好してたのかよ!?」
「ううん、違うよ。いま脱いだの」
「なおタチが悪いわ!!」
服も下着も脱いで、クッションの上に正座した上で、でもやっぱり恥ずかしかったから、上半身と下半身の大切なトコロは両手で隠した上でジップを出迎えると、ジップは真っ赤になって目を逸らした。
「早く服を着ろよ!?」
「ねぇ……ジップ、その前に……ベッドの上に立って?」
「な、なんで!?」
「いいから」
「立ったら服を着るんだな!?」
「うん、着るから」
ジップは耳まで赤くなりながら、部屋の中央にちょこんと座るわたしを避けるように迂回すると、ベッドの上に立ち上がった。
ちなみに、わたしを見ないようにしているつもりなのだろうけど、その視線はチラチラとわたしを盗み見ている。やっぱり、男色というわけではないらしい。
「ほら、立ったぞ! 早く服を──って、おい! 何をする気だ!?」
わたしはゆっくりと立ち上がり、引ける腰をなんとか動かして、ベッドの上に寝っ転がる。ジップの股下に脚をくぐらせて、けどやっぱり恥ずかしいから、シーツで半身を隠してから言った。
「はい……どうぞ?」
「なにが!?」
「ふふ……知ってるよ? 男性はまずベッドに立たなくちゃ、
「立つのはベッドの上じゃねぇよ!?」
「そ……そうなの……?」
じゃあ、いったい何に立たなくちゃならないんだろう……?
わたしが不思議に思って眉をひそめていると、ジップはベッドから降りてしまう。
「ほら、コートを着てくれ! そうじゃないとオレは帰るからな!?」
そう言って、自分が着ていたコートを差し出す。
コートを着ないと本当に帰りそうだったので、わたしはしぶしぶ、裸体の上からコートを羽織った。
それでようやく人心地ついたのか、ジップはわたしを見据えてきた。
「もう二度と、こんなことはしないでくれよ……」
「けど……二度あることは三度あるっていうし……」
「自ら行動しているのにその理屈はおかしいだろ!?」
ジップは盛大にため息をついてから、まだ真っ赤な顔で言ってきた。
「それで、だ。今朝も言ったが、いまさっき、レベッカを説得してきたわけだが……」
「……どうだったの?」
「ダメだった」
予想していた結果だったとはいえ、わたしの気持ちはズドンと沈む。だからわたしは、震える声でジップに聞いた。
「なら……もしかして……パーティに……」
「ああ……パーティを組むことになったよ。放っても置けないし……」
「そ、そんな……」
わたしは、よれよれと両手を床に付ける。体に力が入らなくなって、今にも床にへたりそうになった。
「なぁレニ。お前は思い違いをしてるって」
「………………どぉいうこと?」
「オレがレベッカとパーティを組んだって、付き合ったり、いわんや結婚したりだなんて分からないだろ? そもそもパーティは三人一組が基本なんだから、あと一人勧誘しなくちゃだし」
「……だからなんだというの?」
「残り一人のメンバーは男の可能性が高いから、レベッカはそっちとくっつくかもしれないじゃん」
「………………」
確かに、冒険者パーティの基本編成は三人。前衛・中衛・後衛と分かれて戦う。
前衛はほぼ盾使いなどの防御担当で、中衛は剣士や槍使いなどの攻撃担当、そして後衛は回復魔導師などの回復担当が配置される。
ただし、攻撃担当が攻撃魔導師だった場合は、中衛は存在せず、前衛1・後衛2という場合もありうる。さらに三人以上なら何人でもいい。
いずれにしても、防御・攻撃・回復の三大役割は満たさなければならないのだけど……
レベッカとジップの場合、レベッカは攻撃魔導師だから後衛になる。そしてジップは、意外だけどその適性は回復系だった。けど身体能力も抜群に高いジップの職業は剣士。回復魔法を扱える剣士という珍しい存在だった。
もっとも……ジップの場合は、回復魔法だけではなく、ありとあらゆる魔法を使えるっぽい。本人は隠しているようだけど。
いずれにしても、そんなわけだから、レベッカとジップがパーティを組んだら、防御系の能力が足りない。そうしたら盾使いが必要で、確かに盾使いはいかつい男性が多い──まぁわたしみたいな例外もいるけど。
そうなると、男性がパーティに加入する可能性は高いけれど……
あのレベッカが……他の男性に見向きするわけない……
どう見たって、ジップを見るレベッカの瞳は、憧れや尊敬以上の感情が滲み出ていたし。
わたしはあんまり学校に行っていないから、レベッカのことはそこまで詳しくないけれど、でもちょっと見ただけで丸わかりだった。
なのにジップは、どうして気づかないのだろう……っていうかわたしの気持ちにも今朝まで気づいていなかったし……ジップって相当にぶい?
まぁ、いずれにしても。
レベッカが他の男性とくっつくなんて話は、まったくもって可能性がないのだ。
「なぁ……レニ」
わたしが考え事をしていたら、ジップが諭すかのように言ってくる。
「そろそろ、オレ頼みの人生設計……というか妄想からは離れて、自立できるように考えてみないか?」
「………………」
「別に、冒険者になれなんて言わないよ。っていうかそれは反対だ。でも、学校を卒業してなんにもしないってわけにもいかないだろう? ずっと食っちゃ寝しているわけにはいかないんだから」
「………………じゃあ……ジップが結婚してくれるなら、家事も覚える」
「え……? いやその……」
「それに、唯一の取り柄な体を崩すわけにはいかないから、定期的に運動もするよ……?」
「う、う〜ん……」
わたしの譲歩に、ジップは頭を抱え始める。
……ん? 今の提案は……なぜか効いているような……
だからわたしは畳みかけた……!
「ちゃんとお掃除するよ? お料理も覚えるよ? ジップがダンジョンから帰ってきたら、優しく出迎えて『ご飯にする? お風呂にする? それともわ・た・し?』って確認するよ?」
「…………!?」
「わたし、別に食っちゃ寝なんてするつもりないもの。ジップがダンジョンで頑張れるよう、誠心誠意サポートするから……だから……」
わたしの懇願に、ジップが激しく思い悩み始める。そんなジップに、わたしは三つ指ついて頭を下げた。
「だから……わたしをもらってください。お願いします……」
少しの間、ジップの呻き声だけが聞こえてくる。
そしてジップは、意を決したかのように言ってきた。
「レニ……顔を上げてくれ……」
「うん……」
わたしはおずおずと顔をあげると、ジップを見つめる。
ジップは、なぜか苦しそうな表情で言ってきた。
「それなら……」
「それなら?」
「今からさっそく、
「………………え?」
「あとこの部屋から掃除もしよう。最初はオレも手伝うから」
「………………………………は?」
「そんな生活を一年くらい続けて、ちゃんと身に付いたなら、そのときは……」
「あ、えーと……その……」
真剣に言ってくるジップに、わたしは思わず目を逸らす。
するとジップが剣呑な感じに変わった。
「………………をい」
「………………はい?」
「今は、目を逸らすタイミングじゃないだろ?」
「そ、そぉかな〜〜〜?」
「オレと結婚したら、家事、がんばるんだろ?」
「う、うん……」
「なら今から練習しなくちゃダメだろ?」
「う、うん……?」
「ということで、このあとすぐやろうっていってんだ」
「……………………」
しばらくは、気まずい沈黙が降りた。
わたしの頬を、一筋の冷や汗が流れていく。
ジップは、わたしから視線を離してくれそうにない。
「あ、あのね、ジップ……」
「なんだ?」
「そういうのは明日から──」
「まったくヤル気ないだろ!?」
こうして──
──わたしのプロポーズは、またも失敗した。
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