第23話「尾行」

 捕らえていたバロンズの私兵を逃がすと、一目散に走っていった。


 少し時間を置いて空へ飛び立ち、逃げた私兵を上空から探す。


 見つけた。


 見つけたのは良いが、その後ろからウルフ系の魔物が迫っている。


 私兵はまだ気づいてないか。


 疲弊してる様子だし、あれじゃ喰われるな。


 仕方ない。


 ここで死なれたら計画が台無しなので助けるか。


 上空から滑空して魔物の背後へと降り立つ。


 魔物は【デスウルフ】という森の掃除屋さん。


 大層な名前だが、弱った獲物や死肉を狙うハイエナみたいなやつだ。


 背後に降り立った俺を警戒して唸っている。


 逃げる前に足を氷付けにして動けなくした後、背中の剣を抜き、デスウルフの頭を切り落とした。


 死体を処理したいが、あまり派手にやると前を走るやつに気づかれるかもな。


「これを処理しといてくれるか?」


「えっ……!? は、はい!」


 やっぱりいた。


 多分小鬼の斥候部隊だ。


 という事はリサも来ているのか?


 うん、リサの匂いがする。


「リサ! 森の外からは着いてくるなよ」


「うぅっ、ご主人様にバレた……」


 前の俺じゃ全然気づかなかっただろうな。


 レベルが上がった俺なら、五感も感度が上がって僅かな気配を察知出来るようになった。


 やつの気配も今どの辺りを走っているか手に取るように分かる。


 ちっ、あいつまた魔物に狙われてるな。


 まぁ、魔物も食べなきゃいけないし、弱った生き物が走ってれば追いたくなるか。


 その後も魔物を何回か退治して、ようやく森の外に出たのは次の日だった。


 あいつも良く走ったもんだ。


 異世界の住人はタフとは言え、よっぽど逃げたかったんだな。


 森の外から半日ほど歩くと長閑な村がある。


 あいつはここで休んでいくようだ。


 村長は顔見知りなのか、ペコペコしていた。


 あいつが傍若無人な態度で村人に接するのを見ていると、思わず拳骨を落としたくなるが、ここは我慢だ……。


 村で一日休んだあいつは、次の日の早朝に村を出た。


 そこから更に一日歩くと、ようやく町が見えてくる。


 町が見えてホッとしたのか、あいつは安堵したような顔をしていた。


 精々今の内に安堵しておけ、バロンズ伯爵共々、罪を償わせてやる。


 この世界の常識はベルさんから色々聞いていた。


 当然、奴隷についても。


 この世界の奴隷は、二つに分けられる。


 一つは"戦闘奴隷"と呼ばれる専属の傭兵みたいな感じだ。


 戦闘奴隷になる者は、獣族や戦に負けた鬼人が大半を占める。


 要は強い者だ。


 この戦闘奴隷は、奴隷と言っても生活はそんなに酷いものではないそうだ。


 主人を守る責務さえ果たしていれば、衣食住は保証されていた。


 お金に困った腕の立つ者などは、自ら戦闘奴隷になる者もいるらしい。


 そして二つ目は、"職業奴隷"。


 名前の通り、仕事をして主人に利益をもたらす奴隷の事。


 例えば、借金で首が回らなくなった職人などが、内職奴隷として主人が斡旋してきた仕事をこなし、衣食住を確保したりする。


 職人でなくても、土木作業だったり、女性なら家事や育児を代行するなど多岐に渡る。


 なんだか、こう聞くと奴隷制度もそう悪いものではない気がしてくる。


 しかしだ、法律で禁止されてる奴隷がある。


 要は"違法奴隷"というやつだ。


 性的な事を強要する"性奴隷"等が代表として挙げられる。


 そして一番重罪なのが、子供(十五歳以下)を奴隷として働かせたり、奴隷契約を強要したりする事だ。


 そう、バロンズ伯爵は、まさに違法奴隷の斡旋に手を染めている重罪人なのだ。


 だが、言うなれば、それほどリスクを犯すだけの利益があるという事。


 特に幼い女の子を買うクソ貴族が結構いるのだ。


 バロンズは決して、自国での斡旋はしない。


 足が着きにくい他国の貴族を相手に、商売をしているのだ。


 今まで、どれだけの幼い子供達が売られたのかを考えると、腸が煮えくり返ってくる。


 売る方も売る方だ。


 折角きちんとした奴隷制度があるのに、何故自分が犠牲になろうとしない。


 何故、子供達に泥を被らせるんだ。


 俺がバロンズを成敗した所で、同じ穴のムジナが出て来るのかもしれない。


 それでも、今の俺に出来る事は、バロンズから今まで売った子供達の所在を聞き出し、助ける事。


 そして、今後こんなふざけた事が起こらないように監視する事だ。


 待っていてくれ子供達。


 そして、首を洗って待っていろ。


 クソ貴族ども。


 町に入った私兵を尾行。


 門兵のおっちゃんにやつの事を軽く聞いたら、バロンズのお気に入りで、町では威張りちらしているという情報を得た。


 酒場ではつけで飲みまくり、人間以外の種族を馬鹿にして楽しんでいるとか。


 女性や子供にも容赦がなく、弱い者いじめが快楽だと、酔った勢いで暴露していたんだと。


 予想を裏切らないクズっぷりに感心さえする。


 ここまでいくと、何の遠慮もいらなくてある意味良かった。


 お、キョロキョロしながら辺りを伺っていた私兵は、ようやく屋敷に入って行った。


 町で一番大きな屋敷。


 バロンズの屋敷はここかなとは思っていたが、やっぱりそうだった。


 後は、抜き足差し足忍び足……。


 小鬼達に教わっておいて良かった。


 警備の目を掻い潜り、屋敷へ潜入。


 やつの声が二階の一室から聞こえて来る。


 そのまま屋根裏に忍びこみ、声のする部屋の上までやって来た。


「報告は聞いておる。お前は捕まっていたのではないか?」

「なんとか抜け出して来たのです!」


 嘘ばっかり……。


「で、私に歯向かう集団がいるそうだな。そやつは私の奴隷達も奪ったのか?」

「は、子供が四人ほどおりました。しかし、やつはドラゴンを飼い慣らしているようで……」


「ふっ、本当に、ドラゴンを飼い慣らすやつがいると思うのか? お前達は騙されたのだ。恐らく幻術にでもかかったのだろう」

「確かに、ドラゴンは最初女の姿でした。はっ、あそこには小鬼達もおりました!」


「なるほど、では小鬼達が裏で糸を引いている可能性が高いな。あやつらは素性が知れぬ」

「バロンズ様! もう一度私めにチャンスを! 今度こそ、軍勢を率いて滅ぼして参ります!」


「うむ、この私も自ら出向こう。奴隷をお待ちのお客様が待っておる。そやつから商品を取り返さねばなるまい」


 どうやら話が纏まったみたいだ。


 バロンズは、金髪つり目の如何にも性格が悪そうな面をしていた。


 獲物がわざわざ向こうから出向いてくれる。


 それなら、村で待ち構えているとするか。


 という事で一時撤退。


 出立は軍勢を用意してかららしく、明後日と言っていた。


 そこから村まで三日ほどかな。


 よーし、村のみんなで精一杯の"お・も・て・な・し"をしちゃうぞ~!

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俺だけのダンジョン機能で世界最強~スローライフがしたいダンマスは、世界を平和にしてしまうようです~ 瑞沢ゆう @Miyuzu-syousetu

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