第22話「バロンズの影」

 伯爵の手先がやって来た。


 いずれ来るとは思っていた。


 自分の商品を保管する場所からなんの音沙汰もないんだから気になる筈だ。


 実は尖兵が奴隷村の様子を見に来ていた事は知っていた。


 その近くに村を見つけ報告したんだろう。


 俺はそれを黙認していた。


 もちろん、泳がせるためだ。


「これはこれは。ようこそラミオ村へ」


「お前が長か?」


 私兵の数は百人ほど。


 警告にやって来たにしては少し数が多いな。


 多分だが、俺達を捕らえて奴隷村がどうなったのか吐かせる気だろう。


「ええ。私、ラクトと申します。所で、今日は伯爵様はいらっしゃらないのですか?」


「ふっ、こんな辺鄙な所にバロンズ様が来る訳ないだろ。それに、お前には関係のない事だ。それより、覚悟は良いな?」


「覚悟とは?」


「惚けるな! バロンズ様の領地で勝手に村を作った罪だ! これは立派な反逆罪だぞ」


「そんな……反逆なんてこれっぽっちも思っていませんよ」


「言い訳など聞かぬ! 大人しくお縄につけ! お前には聞かないといけない事もあるしな……」


 子供達をチラチラ気にする私兵。


 恐らく、こいつも奴隷村に一枚噛んでるとみた。


 それなら、こっちこそ大人しく捕まる訳にはいかない。


 こいつには聞かないといけない事もあるしな。


「俺もお前に聞きたい事がある」


「なっ、貴様口の聞き方に気を付けろ! 私は――」


「黙れ下衆が。貴様こそ殿に対する口の聞き方を改めろ」


 今まで黙っていたヤナが剣先を私兵の喉元に突き立てた。


 きっとこいつが奴隷村の関係者だと気づいたのかもしれない。


「落ち着けヤナ」


「このガキ!!」


 俺がヤナの刀を下げさせた瞬間、私兵の男は剣を振り上げヤナに敵意を向けた。


「おい、それは許せんぞ?」


「なんだ、この鬼人のガキはお前の奴隷か? それは失礼した。折角の性奴隷を傷つけたら興が削がれるよな! ハッハッハッ」


「撤回しろ」


「あん? 聞こえんぞ。そこの子供らもお前の穴奴隷か? それなら少し貸してはくれんか? まあ、一度借りたら壊してしまうかもしれんがな!」


 こいつは少し口が過ぎるな。


 お仕置き、しちゃうぞ♪


「お前、いい加減に――」


「グオオオォォッッ!!」


 あれ、メルちゃんなんでドラゴンのお姿になっているのかな……。


 おいおい、ここでブレスはダメだよ?


「ヒ、ヒエェェェェーッッ!!」


 ほら見ろ、バロンズ伯爵の私兵が逃げちゃった。


「おた、お助けをっっ」


 あ、一人残ってた。


 しかも先頭で偉そうにしてたやつ。


 メルのドラゴン姿に腰抜かして立てなくなったみたいだ。


「それなら旦那。ちょっとお話しようか?」


 番熊の熊五郎を呼び、そのまま男を引きずって貰って地下へ連れていく。


「ヒィィッッ! グローリーベア!?」


 私兵は気を失ってしまった。


 そうそう、村に何ヵ所か地下倉庫を作った。


 地上からダンジョンの地下へと続く階段を設置したのだ。


 コアルームへと繋がる場所とは別の独立した部屋。


 もちろん、全てを繋げる事は出来るが、コアルームへの入り口は自宅以外には置かない事にしている。


 地下倉庫は全部で三ヶ所。


 村の物資を保管したりする場所として活用している。


 小鬼達が来て村も拡張した。


 全員が満足する量が必要だから畑も増やしたし、その分保管場所が必要だったのだ。


 畑は外に出荷するために育てている小麦畑と、村で食べる用に分けている。


 村で食べる用は野菜、果物、小麦が主だ。


 小鬼達が来て人手も増えたので、アイが先頭に立って指示しながら育てている。


 村の中央には温泉小屋も配置した。


 ちゃんと男湯と女湯で分けている。


 温泉は昼も夜も湧きっぱなしなので入り放題。


 村の衛生観念は着々と進化している。


 まあ、配置してあるだけでDYを消費するんだけどね。


 それでも今のDY収入に比べれば微々たるもんだ。


 これもミャルとメルのお陰です。


「それで、お主はバロンズ伯爵のどんな秘密を握っておる?」


 あ、そうだ。


 今は尋問の途中だった。


 さすが私兵だけあって中々吐かない。


「吐かぬならこのドラゴン様に足の先から食って貰うぞ」


「そうでしゅ! さっさと吐かぬと、爪を一枚一枚剥ぎましゅ!」


 尋問はヤナとロリさんが率先して行っている。


 鬼はこういうのが好きなのか?


「あんまり酷い事はするなよ」


「そうだ! 私に手を出せばバロンズ伯爵が黙っていないぞ! 必ず応援が来てお前達を捕らえる! その後は小娘達を死ぬまで犯してやるからな!」


 前言撤回。


 こいつには情をかける価値がなかったみたいだ。


「ヤナ、体を固定して額の上に水滴が垂れるようにしろ。それで一日放置だ」


「殿、それで拷問になるのですか?」


 うーん、どうだろう?


 ま、物は試しというし。


 結果は次の日に出た。


「殿、洗いざらい喋りました。しかし凄い拷問を思いつきますな。最初はなんて事なかったのですが、半日経った頃から様子が変わりまして――」


 拷問中の様子を鮮明に語るヤナ。


 自分で指示しただけに聞かない訳にはいかず、徐々に発狂していく様が脳裏に浮かんで来る。


 恐るべし水責め。


 でも肉体的にはなんの被害もないので、そこまで罪悪感に襲われる事もなかった。


 元々あいつは悪いやつだし。


 それはヤナの報告を聞いて良く分かった。


 今回捕らえたバロンズ伯爵の私兵は、奴隷村を管理していた輩との橋渡し的なポジションを担っていた。


 しかも奴隷村はここだけではなかった。


 領地の誰も来ないような場所に、奴隷を管理出来る所を作っているそうだ。


 聞けば聞くほど許せない。


 奴隷のほとんどは様々な種族の少女。


 それを他の国の貴族や金持ちに売り捌く悪どい商売をしているらしい。


 さて、そのバロンズ伯爵とやらの面を拝みたくなってきたな。


「とりあえず奴を逃がすか」


「逃がすのですか!?」


「ああ、囮に使う。俺は奴が逃げるのを上空から見張ってバロンズ伯爵の元へ向かうのを確認する。その後、バロンズを捕らえてここに連れてくるさ。吐いて貰いたい事もあるしな」


「殿お一人で行かせる訳には!」


「大丈夫だろ。今の俺に敵うやついる?」


「そ、それはそうですが……」


「安心しろ。ちゃんと帰ってお前達を抱きしめるから」


「殿……本当に、すけこましです」


 すけこましは余計だから。


 さて、それじゃ、バロンズ捕縛作戦の開始だ。

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