第15話「ピクニック」
さて、少し予定がずれてしまったが、ピクニックに行こうと思う。
ベルさん達が村に移住して来るまで待っていたのだ。
どうせなら皆で楽しみたい。
滝を見に行くので当然川がある。
夏と言えば水遊びだろ!
「それじゃあ、出発おしんこー!」
「「「おー!」」」
留守を熊五郎に任せ出発。
この世界の人はタフだ。
夏に歩くなど苦でもないみたい。
子供達も元気に歩いている。
それに、そんなに暑い訳ではない。
森の中は風が通るし、日陰も多いので日射病にならないで済む。
「ラン……水をくれ……」
「もうバテちゃったんですか? ラクト様」
俺はダメだ。
疲れた。
あと半分もあるのかよ……。
「だらしねえぞラクちゃん! 帰ったら体力増強トレーニングだな!」
げぇっ……想像しただけで吐きそう。
「殿! お下がり下さい!」
疲れている所に魔物が現れた。
バテている場合ではない。
気を引き締めないと。
これが子供達の初実戦だ。
現れたのは、#黒毒蛇__こくどくじゃ__#という真っ黒で大きな蛇型の魔物だ。
「みんな! 巻きつかれないように距離を取って戦うんだ! フォローは俺とベルさんとミャルがするから、安心して――」
「ラクちゃん……終わったみたいだぞ」
終わった。
子供達は無茶苦茶強かった。
ランとアイが遠距離から弓で威嚇射撃をして動きを止め、リサが素早い動きでヘイトを稼いでいる間に、ヤナが一刀両断。
連携も含め、素晴らしい戦い方だった。
魔法を使う間もなく圧倒的だ。
うちの子凄い。
この日のために、武器も町で新調して来た甲斐があった。
弓や鉤爪は難なく揃ったのだが、刀だけは中々手に入らず難儀した。
なんとか鍜冶士に頼み込み、二倍の値段で作って貰った。
ただ、少し形が歪なのが心残りだ。
「ラクちゃん。あの子達をどうする気だ? もしかして、世界を転覆させる軍団でも育成する気か? 俺の娘達は巻き込むなよ!」
そんな怪しげな軍団は作ってないです。
「我等!」
「乙女団の前に!」
「敵う敵は!」
「いない!」
おー、カッコいい口上だ。
いつの間に考えたのやら。
「パパ! 私達も」
「お姉ちゃん達の乙女団に入りたい!」
ベルさんの娘さん達が目をキラキラさせている。
「ラクちゃん」
「ラクトさん」
ベルさんとシンディさんに睨まれた。
大丈夫、入れませんから。
これはあくまで、子供達のおままごとの延長……だよな?
「私達が強くなればラクト様も安泰です」
「そうね。ラー様をこんな所で治まる器にしたくないもの」
「強い雄には強い雌!」
「殿には一国の主になって貰わねば!」
子供達はなにやら野望を抱えているようだ。
将来が非常に不安である……。
その後もピクニックは順調だ。
物資や水も事前に町で買い揃えていたので、水や食べ物もバッチリ。
川に入るので水着も用意した。
町で布を買って持ち帰り、ダンジョンで買った物を参考に作って貰った。
作成はアイが中心になって行っていた。
電動ミシンに感動したアイは、水着以外の服も沢山作ってたな。
ただ、俺が最初に渡された水着がブーメランパンツだったのはビックリした。
流石に恥ずかしいので普通のを作って貰ったが、その代わり家で履いてくれとせがまれて困った。
お、そうこうしている内に目的地へ着いたな。
ここまで現れた魔物は三体。
どれも子供達が圧倒的戦力で倒してしまった。
「さあみんな、楽しむぞー!」
キャンプ道具を持ってこれないのが残念だが、元冒険者のベルさんによって焚き火が準備され、飯も作れそう。
焚き火は石で土台を作り、その上に町で買った鉄板を置いた。
肉も鉄板で焼けるし、焚き火の周りに串を刺して焼いても良い。
まずは肉を焼いて腹ごなしだ。
「うむ、やっぱりコカトリスは美味いな」
「美味しいです!」
ベルさんや子供達がコカトリスを焼いて食べている。
どれ、俺も食ってみるか。
「美味……さすが百万円」
「ご主人様! このビッグボアのお肉も美味しいですよ!」
ビッグボアとは、俺が最初に遭遇したデッカイ猪の事だ。
今回のピクニックのために、コカトリスやビッグボアを狩ってギルドで捌いて貰った。
お陰で報酬もたんまり貰った。
そこそこお金も貯まってきたから馬車を買っても良いかもな。
町と村を往復するのには必須だし。
一応ベルさんが乗ってきた馬車と馬もあるが、馬は一頭だけだし馬車も古くてガタがきていた。
後でベルさんと相談してみるか。
「ラー様! 早く川で遊びましょうよ!」
「殿! 水が冷たくて気持ちいいですぞ!」
「ミャア~」
よし、水着に着替えて川遊びだ!
ミャルも水辺で涼んでまったり。
川の水深は深い所で俺の膝上ぐらいなので、安心して子供達も遊んでいられる。
久々に童心に返って子供達と楽しんだ。
気づけばお昼を過ぎて夕暮れも近くなってきた。
暗くなる前に帰らないと。
子供達の初実戦とピクニックは、大成功で終わる事が出来た。
その日の子供達は、風呂に入ったらすぐにグッスリ眠ってしまった。
晩は大人達で晩酌に勤しむ。
「素敵なところに移住出来て良かったです。誘って下さりありがとうございました。お陰で娘達ものびのび過ごせています」
「いえ、こちらこそ子供達に勉強を教えて貰って感謝してます。移住を決断してくれてありがとうございました」
「お前ら堅すぎるぜ? もっと気楽にいこう!」
「あなたは気楽過ぎますけどね」
「そうですね。ベルさんはちょっとユルいです」
「お前ら……」
ベルさんはもちろん、シンディさんとも良好な関係を築けている。
「そう言えば、このワインは貴族の頃でも呑んだ事のない美味しいワインですわね」
「確かに、こんな美味い酒が呑めるだけでもこの村に来て良かったと思うぜ」
「はは、お酒ならいっぱいありますから期待してて下さい。なにか記念の日には良いお酒を出しますよ」
「おお! そりゃ楽しみだ!」
その後も酒と談笑を楽しみ、夜はふけていった。
そして次の日、事件は起こる。
昨日の疲れと酒が残っていた俺は、リビングでゴロゴロしていた。
「殿! 大変でございます!」
ヤナが慌てた顔をしてやって来た。
「どうした?」
「ゴブリン族が殿とお目通りしたいと!」
ゴブリン? 緑の魔物の?
え、魔物が攻めて来たって事!?
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