第16話「小鬼族」
魔物の襲来かと慌てて家を飛び出した。
「ランしゃま、ありがとでしゅ」
「いいえ、可愛い♡」
「これが噂に聞く小鬼族ですか。確かに、お人形さんみたいですわね」
「可愛い雌だ! お肉食べるか?」
小さいのが庭のテーブルでお茶飲んでる。
確かに可愛い。
見た目は幼女にしか見えない。
折角可愛い見た目なのに、服がボロいのが可哀想だ。
「あれが憎きゴブリン族です! 殿、我に殲滅のご命令を!」
なんでヤナはそんなに敵視してるんだ?
あんなに可愛いのに。
「いや、どう見ても敵とは思えないが」
「あっ、よいちょ。貴方がラクトしゃまでしゅね?」
椅子が高いから降りるのが大変なんだな。
トテトテ目の前まで歩いて来て幼女言葉。
うーん、おじさん保護しちゃおうかな。
「そうでしゅよ。今日はどうしたんでちゅか?」
「なんと!? ラクトしゃまは私達の言葉が喋れるんでしゅね! 嬉しいでしゅ!」
「可愛い……お嬢ちゃん、お菓子食べるかい?」
なんなんだこの生き物は!
誰だこんな可愛いの化身を生み出したのは!
「くっ、だから嫌いなのだ! その喋り方と行動が一々癪に障るやつらだ! 成敗してくれる!」
「や、やめいっ!」
刀を抜くな刀を……。
一体なんでそこまで毛嫌いするのか、ヤナに詳しく聞く事にした。
分かれたのは何百年か前で、考え方の違いによるものだった。
鬼人が好戦的でアウトドア派だとすると、小鬼は温厚でインドア派。
仲違いした二つの派閥は、お互い距離を置いて暮らす事に。
鬼人は争いを探しながら移動する遊牧民のような生活スタイルなんだとか。
一方小鬼は、森や山などの洞窟で細々暮らす仙人スタイル。
生活スタイルも考え方も違う二つの鬼だが、たまに交流するそうだ。
まあ、会っても喧嘩ばかりだと言う話だ。
鬼人は小鬼を毛嫌いするばかりに、ゴブリンなどと揶揄するという事か。
「森でラクトしゃまを見かけたとき、しょこの鬼人もいたので、同じ鬼の端くれとしてごあいしゃつをと思いましゅて」
「だからその喋り方を止めんか! イライラするのだ!」
「失礼な鬼人でしゅね! これでも私は小鬼の族長でしゅよ! 口の聞き方に気をつけなしゃい!」
「族長? 失礼ですが、おいくつで?」
「60しゃいでしゅ」
60歳!? この幼女が!?
さすが、異世界。
アンビリーバボー。
「そ、それは失礼しました。改めてご挨拶させて頂きます。私、このラミオ村の村長を務める楽人と申します」
「これはご丁寧に。私、この森で暮らす小鬼の族長をちゅとめる"ロリ"と申しましゅ」
なんだって。
「ロリさんで間違いないでしゅか?」
ダメだ、語尾が釣られてしまう。
「そうでしゅ! ロリでしゅ!」
うん、確かにロリだった。
その後、ロリさんとは長同士の会談をした。
聞けば、ロリさん達はこないだのピクニックで行った滝の少し先で暮らしているという。
通称、小鬼の里というらしい。
ここからまあまあ距離もある。
護衛も付けずここまで一人で来た事が信じられない。
「私達は、魔物に気づかれじゅに歩く特技を修得してるんでしゅ」
「忍び歩き的な?」
「そうです! 良くご存知でしゅね!」
なるほど、鬼人が武士で小鬼は忍者か。
「魔物に気づかれず後ろからぐしゃです!」
まるっきりクナイみたいな武器を出すロリさん。
「それは?」
「クナイでしゅ」
あ、クナイなんですね。
「手裏剣もありましゅ」
完全に忍者でしゅね。
「それはどこで手に入れたんですか?」
「自分達で作ったんでしゅ!」
「それは鍜冶が出来るという事ですか?」
「そうでしゅ! そこら辺の鍜冶士には負けないでしゅ!」
「ねえベルさん。この世界にドワーフっている?」
「なんだそりゃ? 聞いた事ねえ種族だな」
そうか、ドワーフいないのか。
とすると、小鬼がドワーフの代わりなんだな!
「あのー、こういう武器って作れますか?」
ロリさんにDYで買った刀を見せる。
もし作れるなら作って欲しいと思ってだ。
「これは……ラクトしゃま! この武器をどこで手に入れたんでしゅか!?」
「いや、これは手に入れたというかなんというか」
「失礼しましゅた。口外出来ない事なら大丈夫でしゅ。ただ、ラクトしゃまは何故この武器を私に見せたんでしゅか?」
「同じような物を作って欲しくて……実はこの武器、村の外では使えないんです。まあ、魔法みたな物でして。そこで、外でもこれと同じレベルの武器を作って頂きたく」
「なるほど。では、これを持ち帰って研究しゅる事も出来ないという事でしゅね。それで同じ武器を作るとなると、中々難しいでしゅね」
「そうなんですが、この村でなら解体出来るので目処が立つまで通って研究して頂けませんか? もちろん、報酬はきちんと出します!」
ロリさんとの交渉を何度か続けた結果、なんとか研究して作って貰える事になった。
小鬼族の里から通うのは大変なので、村に家を用意して、研究が終わるまで住込で従事していただく事にもなった。
来るのは三人。
ロリさんとその助手さん達だ。
族長のロリさんが里を離れても大丈夫なのかと心配したが、大丈夫らしい。
ちょうど引退も考えていたし、面白い仕事が出来そうなのに、それを他の者に渡すのは悔しいと言っていた。
族長は他の人に譲るみたい。
三人分の家なら平屋で十分かな?
とりあえずの家だし。
「では、また来るでしゅ!」
「あ、送って行きますよロリさん! 飛んで行けばあっという間ですし」
「そうでしゅか? それならお言葉に甘えるでしゅ!」
「ちょっと待った!」
なんだよヤナ……。
「殿が小鬼の里に行くのなら我もお供致します!」
「いや、留守番してろよ……」
「くぅっ、どうしてもダメと仰るなら……腹を切りまする!」
「わ、分かった分かった! だから刀を納めろ!」
まったく困った子だ。
ヤナを連れて行くの良いが、なんか嫌な予感がするんだよな……。
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