第13話「婚約」

 ギルドマスターと戦う事になってしまった。


 非常に面倒だ。


 相手は明らかに脳みそ筋肉さん。


 絶対に近接戦闘になる。


 最近は近接も上達はしてきたが、俺は魔法戦闘メインなので不得意な戦いを強いられる。


「では見せてくれ! お前の力をっっ!」


 現在、ギルドの裏に用意された訓練場にいる。


 俺とギルドマスターの一対一。


 ギャラリーはいない。


「因みになんですが、武器以外の戦い方はありですか?」


「お、肉弾戦か? いいぞ、好きに来い」


 違う! そうじゃない……。


 筋肉ダルマに肉弾戦を挑むとか、正気の沙汰じゃないだろ。


 俺は戦闘民族◯イヤ人ではありません。


「違います。これです――」


 手のひらを上にして火の魔法を発動。


 野球ボールと同じぐらいの大きさをした火の玉を、ギルドマスターへ見せた。


「魔法か……なにやら訳有り臭がプンプンするな。うむ、大丈夫だ。秘密は守る主義でな。口外はしないと約束しよう」


 多分、俺を貴族だと勘違いしているんだろう。


「魔法で戦っても良いですか? 近接は得意じゃないので……」


「ああ、良いだろう。冒険者の戦いにルールなど不要だ。魔法でもなんでも勝てば良い! いつでも、かかってこい!!」


 魔法戦闘が許可された。


 こうなればこっちのもんだ。


 無言で氷魔法を発動。


 一瞬で氷の中に閉じ込められるギルドマスター。


「参った」


 試験終了。


「まさか一瞬で負けるとはな……もう引退しようかな」


 ギルドマスターのプライドを傷つけてしまった。


「なんかすいません……良かったらお酒でも飲みませんか?」


 これにはギルドマスターもニッコリ。


 コカトリスの換金をしてギルドを出る。


 金貨十枚の収入。


 貨幣価値が分からんので、大金かどうかも分からん。


「この町で店で食べるのにいくらかかります?」


 町を歩きながらギルドマスターに聞いてみる。


「銅貨一枚から二枚の間だな。質が悪くても良いなら鉄貨五枚から八枚。出店で軽く食べるなら鉄貨五枚以内で食えるだろ」


 銅貨一枚を日本円に置き換えると、多分千円ぐらい。


 鉄貨一枚なら百円かな。


 ギルドマスターに色々聞いて確信を得た。


 そんな事も知らねえのかみたいな顔をされたが、得意の田舎攻撃で誤魔化した。


 鉄貨十枚で銅貨一枚。


 銅貨十枚で銀貨一枚。


 銀貨十枚で金貨一枚。


 という事は……今"百万円"持っているのか!


 鶏蛇よ……お前、中々貴重なんだな。


 遭遇確率的には、一回の散策で50%ぐらい。


 面倒な魔物なので会いたくないと思っていたが、これからは積極的に探してみよう。


 良く考えたらあの奴隷村にいた奴等は良く生きてこれたな。


 なにか魔物避け的な道具でもあるのだろうか。


 酒場に着いて飲み始めた所で、ギルドマスターに聞いてみた。


「あるぞ。てか、お前の村にはなかったのか?」


「うちの村は貧乏だったんで……」


「まあ確かに、あれは結構高いからな」


 あったようだ。


 結構なお値段がするそうだ。


 でも、奴隷村に着くまでは危険な事に変わりない。


 魔除けの道具は持ち運び式なのか?


「そういうのもあるが、小型のは更に高い。位の高い貴族や大商会ぐらいしか買えんな」


 なるほど、それなら納得。


 あいつらの親玉は、伯爵様らしいからな。


 大事な商品のためなら、それぐらいの投資はするだろう。


 それにしてもこの酒温いな……。


 あんまり美味しくないし。


 普段キンキンに冷えたビールを飲んでるから余計にそう感じる。


 あのビールを飲ませた時、この世界の人達はどんな反応をするのか。


 想像すると楽しみだ。


 さて、酒も良いが、そろそろお目当ての場所に行かないと遅くなってしまう。


「そろそろ行きましょ」


「おう、ちゃんとぼったくりに遭わんようにしてやる」


 昼間でもやっている酒場から出た俺達は、とある場所を目指して出発した。


「いや~、ベルさんに良いお店を紹介して貰って助かりました」


「だろ? こっちこそ奢って貰ってありがとな! ラクちゃん! 普段は嫁に金を預けてるから滅多に来れねえのよ」


 色々さっぱりした後、ギルドマスターに別れを告げ家に帰る事にした。


 ギルドマスターとは、すっかり打ち解けてしまった。


 大柄で強面だが、話してみると気の良いおっちゃん。


 色々"見せ合った"今では、ベルさん、ラクちゃんと呼び合う仲だ。


 今度は俺を家に招待して、郷土料理を食わせてくれると言っていた。


 俺も招待しようかな?


 てか、家族を連れてラミオ村に移住してくれたりしないかな?


 ギルドマスターの仕事があるから望みは薄いが、今度聞いてみる事にした。


 やばっ、すっかり夕方だ。


 早く帰らないと子供達が心配する。


 町を出て、猛スピードで帰宅。


「ただいま~」


 子供達がお出迎えしてくれた。


「なんか女の臭いがします」


 ランに突っ込まれた。


 子供と言ってもやはり女。


 感が鋭い。


「あ、ああ、それはギルドにいたからね!」


 それから他の子供達からも囲まれ、激しい追求の嵐。


 なんとか誤魔化したが、疑いの眼差しが突き刺さる恐ろしい食卓を囲む事になってしまった。


 一人だけいつも通りなのはリサだけ。


 今日のお風呂もリサが当番だ。


 君がいてくれて良かった。


「ねえねえ、ご主人様!」


「どうした?」


「雌と交尾してきたんでしょ?」


「ブフゥッッ!」


 リサは誰よりもストレートだった。


「し、してないしてない!」


「え、でも雌の穴の臭いがするよ! ご主人様はやっぱり強い雄なんだね! 強い雄が色んな雌と交尾するのは当たり前でしょ?」


 返答に困った。


 撫でて誤魔化した。


 ある意味、一番敵に回してはいけないのはリサかもしれない。


 寝る時も窮地は続いた。


 今日の添い寝当番は、アイ。


 なんと全裸で登場だ。


「な、なんで全裸なんだ!?」


「ラー様。そんなに女に飢えているなら、私を使って下さい」


「こ、子供がそんな事を言うんじゃない!」


「大人か子供かがそんなに重要ですか!? 私は、私達はラー様を――」


 分かったからみなまで言うなっっ。


 なんとなく子供達の気持ちには気づいていた。


 だが、気づかないふりをしていた。


 命を救ってくれたり、窮地を助けてくれた相手に恋をする話は良く聞く。


 すぐにそんな気持ちは薄れると思っていた。


 だけど、気づかぬ内に彼女達を追いつめていたのかもしれない。


 これはちゃんと話をしないとな。


「みんなをリビングに集めてくれ」


 みんなを呼びに行っている間に、リビングでコーヒーとホットミルクを作る。


「お話とはなんでしょうか?」


 切り出したのはランだった。


「ラン、アイ、リサ、ヤナ。お前達に大事な話がある」


 緊張感がリビングを包む。


 時間をかけ、ちゃんと話し合った。


 その結果――



 俺に四人の婚約者が出来た……。


 とりあえず子供の内は手を出さないと宣言し、そこはみんな納得してくれた。


 五年後、みんなの気持ちが変わらなければ、全員と合同で結婚式をする。


 エンタメ情報を与え過ぎたせいで、余計な知識が彼女達に増えていく……。


 後、手は出さなくて良いが、キスはしろと約束させられた。


 全員と寝る前にキスをした。


 頬っぺじゃなくて、ちゃんと唇にだ。


 背徳感が凄い。


 現代日本なら逮捕不可避。


 本当に良いのか?


 結局寝れない夜を過ごす事になった。


 一度の過ちが大事になる。


 今度から気をつけよう……。

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