第12話「町にやって来た」
今日は町へ行く。
奴隷村だった場所から、東へと伸びる道が続いている。
わざわざこんな森に道を作るぐらいだ。
伯爵様が関わっているというのは、本当かもしれない。
その内誰かが様子を見に来る可能性が高い。
売買予定の子供達は俺が奪ってしまったし。
定期的に見回りして警戒しないと。
東へ続く道の先には、町がある。
飛行探索で発見した。
歩いたら丸二日ぐらいかかるかな?
馬車でもないと往来は厳しそうだ。
うちに馬車はないので、俺が一人で飛んで行く。
異世界の人ならこんな距離歩いてしまうのかもしれんが、俺にそんな根性はない。
それに、子供達を置いてそんなに家を空けられない。
町へ行く目的は一つ。
冒険者になるためギルドへ登録しに行く。
冒険者ギルドの事は子供達から教えて貰った。
今の状況で金を稼ぐ方法は、冒険者になる事が最も手っ取り早いみたいだ。
飛行魔法で町の近辺まで来た。
上空から見た町並みは、異世界に転生したんだと改めて思わせる景色だった。
そのまま地上へ降りて徒歩で町へ向かう。
理由は単純。
目立ちたくない。
この世界で魔法を使うのは、貴族が主らしい。
何故なら教育環境が整っているから。
魔法を教わるにもお金がいる。
庶民でも教わる事自体は出来るが、そんな道楽者は中々いない。
魔法の可能性をひしひしと感じているだけに、残念に思う。
守銭奴達が利権を離さないのは、どこの世界も一緒なのかな。
町の門へ到着。
門には二人の門番が立っている。
門番は主に領兵が務めていると聞いた。
町に入るには通行税がいる。
俺は金がない。
ならどうするか。
子供達と立てた作戦を実行するだけだ。
「あの~、すいません」
「町に用なら通行税を払え。それか町民だと証明出来る物を提出してくれ」
「私、冒険者に登録しようと思ってきたんです。ですが、お金が無くてですね……」
「ならば早々に立ち去るがよい」
うむ、やっぱりダメか。
それなら……。
「そこで私、これを狩って来たんです。これを売って通行税を払うので、ギルドまでご同行願います」
後ろ手に隠していた魔物を門番に差し出す。
「それは……! コカトリスじゃないか!」
「あんた墓場の森に行ったのか!? 歴戦の冒険者でも苦労する魔物を狩って来るとは……」
魔物を見た門番二人が驚いてる。
こいつはコカトリスというのか。
体は鶏で尻尾が蛇の魔物。
中々すばしっこくて厄介なやつだ。
コケーッ!
と、鳴くと鶏の部分が雷魔法を放ち、避けた隙をついて蛇の部分が噛みつこうと突撃してくる。
最初の内は中々倒せなくて、ミャルにやっつけて貰っていた。
今では余裕で倒せる。
俺も成長したもんだ。
「それで、いかがでしょうか?」
「よし、分かった! ギルドまで同行してやろう」
おお、作戦成功だ。
「ただ、まだ交代が来なくてな。もう少しで時間になるから少し待っててくれ」
「分かりました!」
待っていると、交代の門番がやって来た。
結構待った気がする。
「待たせたな。それじゃ行くぞ」
交代した門番の人達に連れられ、ようやく町に入る事が出来た。
町の入り口付近は商店街。
食堂やお店はもちろん、出店や露店なども並び賑わっている。
中々考えられた配置。
町に入れたテンションでつい買いたくなってしまう。
ある意味、お金を持っていなくて良かったかもしれない。
町から出る時も要注意だな。
物珍しい食べ物もあるから財布の紐が緩んでしまう予感がする。
「なんだ物珍しそうに。この町は初めてか?」
「ええ、田舎から出てきたので、つい気になってしまって……」
「そうか、なら一つアドバイスをしてやる。その魔物を売ったら結構な額になるだろう。田舎から出て来たなら、余計に行きたくなる場所について教えておく」
門番の人から街のとあるスポットについてアドバイスを受けた。
とてもためになるお話でした。
男なら誰でも行きたくなる場所。
是非行ってみようと思う。
「ほら、ここが冒険者ギルドだ。外で待ってるから登録して魔物を売ってこい」
「ありがとうございました! すぐに換金して来ますね」
案内された冒険者ギルドへ入る。
木造の二階建てだ。
中に入ると、結構な人数がいた。
男7、女3ぐらいの割合だ。
正面に受付が見えたのでさっそく行ってみる。
「おい、あいつが持ってるのはコカトリスじゃねえか?」
「おおっ、確かにコカトリスだ! あの難敵を狩って来るとはな……見ない顔だが、かなり腕が立つんだろう」
ちょっと目立ってしまった。
この鶏蛇がそんなに強い魔物認定されてるとは思わなかった。
売ったらいくらになるんだろう。
少し楽しみだ。
受付に行き、お姉さんに事情を話す。
受付のお姉さんは優しい笑顔で対応してくれた。
登録を済ませている間に、コカトリスを鑑定しておいてくれるみたいだ。
まあ、登録と言っても大した事はない。
名前と血を登録するだけだ。
針で指先を軽く刺し、滲んだ血を幾何学的な模様が描かれた紙へ押し付ける。
なんでも、本人の血を記憶する魔術が施されているとか。
その後、首に掛ける鉄のプレートを貰った。
プレートには名前が刻印されている。
これで登録も終わりかと思ったが、まだやる事が残っていた。
「最後に、軽い戦闘試験を受けるんですが……」
え、そんなのあるの!?
対人戦か……。
訓練ではヤナと組手をしていたが、本格的な対人戦は初めてだ。
結構緊張してきた。
「一定の実力が分かっている人なら免除されますので、今回は要らないと思います。ちょっと上司に確認して来ますね」
なんだ。
緊張して損したな。
でも、戦わずに済むならその方が良いか。
あれ、受付のお姉さんじゃなくて違う人が戻ってきた。
大柄でスキンヘッドの厳つい顔をした壮年の男だ。
頬にある傷が怖そうな雰囲気を醸し出してる。
だが、怖そうな見た目とは違い身なりは整っているの。
多分、お姉さんの上司だろう。
「コカトリスを狩ってきたという、ラクト殿は君か?」
「は、はい」
「俺はこの町の冒険者ギルドでマスターを務める"ベルデガル"だ」
ええ……一番上の人が出て来ちゃったよ。
なんか嫌な予感がする。
「本来、一定の実力者には登録試験を免除しているが、今回は是非受けて貰いたい! コカトリスを倒す実力、しかとこの目で確めたいのだ! もちろん、俺が自ら試験官として相手になろう」
なんかそんな気がしていました。
ちょっと帰りたくなった。
いや、かなり帰りたい……。
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