第9話「side アイ&リサ&ヤナ」

 私はアイ。


 ラクト様に救って貰った女の一人。


 私が奴隷に落ちたのは、家が没落したから。


 以上よ。


 昔の事は思い出したくもないわ。


 今が幸せだから余計かもね。


 温かい食事。


 温かいお風呂。


 心が休まる温もり。


 全てラクト様が与えてくれた。


 普段は飄々としているクセに、いざとなった時に見せる真剣な顔つき。


 好き。


 私の心をこんなに虜にするなんて悪い男。


 ラクト様は、他にもやり甲斐を与えてくれた。


 エルフの血が入ってるからなのか、土弄りをしていると心が休まる。


 そんな私を見て、ラクト様は畑を増やして果樹まで植えてくれた。


 ここの土地は不思議。


 手をかけたらその分育ちが早くなる。


 クソ野郎(父親)から教えて貰った知識が役に立った。


 あら、汚い言葉を使ってしまったわ。


 こんな言葉、ラクト様には聞かせられない。


 普段はラクト様から頂戴した麦わら帽子を被り、日焼け止めの薬を塗って作業に勤しんでいる。


 それに、私一人でずっと作業している訳ではない。


 私が畑作業をしていると、ラクト様が毎日顔を出して手伝ってくれる。


 その時間がなによりも幸せだった。


 だって、みんな土弄りなんて出来ないから、私とラクト様の二人だけの時間を堪能出来るんですもの。


 勝ち誇った顔をみんなに見せると、悔しがっていた。


 ふふ。


 これは頭一つ抜けたわね。


 率先して汚れ作業をする女なんて珍しい筈。


 きっとラクト様が選ぶ女は私だわ。


 と、思っているのだけど……。


 全然靡いてくれない!


 一緒に湯船に浸かっている時なんて、私はドキドキしっぱなしなのに、ラクト様は弛んだ顔で湯船を堪能しているだけ。


 一緒に寝る時だってそう。


 あんなにくっついて寝てるのに、一向に手を出してくれない。


 私って、女として魅力がないのかしら……。


 でも、可愛い髪飾りをプレゼントしてくれた。


 私が知っている常識だと、男性から贈られる髪飾りは告白を表している。


 やっぱり、気があるのよね?


「それ、私も貰ってます」

「僕も!」

「我も貰った」


 うるさいわね……。


 私のは特別なのよ!


 みんなに良い顔して思わせ振りな態度。


 ラクト様の馬鹿馬鹿馬鹿!


 でも好き。


 いいえ、これは恋を通り越して愛。


 私の名前の由来になった花には、幸せを届けるという意味があるとラクト様は言っていた。


 そう、ラクト様に必ず届けてみせる。


 私の、私だけの真実の愛を。


 ◆◆◆◆◆


 僕はリサ。


 ラクト様は、僕を悪い奴らから救ってくれた凄い人。


 僕の両親も奴隷だった。


 馬鹿な獣人は奴隷がお似合いだって悪い人が言ってた。


 酷いよ。


 確かに馬鹿かもしれないけど、頑張って生きてるんだ!


 悪い人はみんな嫌いだ!


 あ、でもラクト様は良い人。


 ご飯をお腹いっぱい食べさせてくれる。


 たまに野菜も食べろって言われるけど……。


 あと、お風呂に入って髪の毛を洗ってくれるんだ!


 ラクト様に洗われると、凄く気持ちが良い!


 特に耳の後ろの痒いところをちゃんと洗ってくれるんだ!


 あとあと、ラクト様は外で遊んでくれるんだ!


 ボール遊びに、丸くて平べったいオモチャを投げてくれる。


 バスケットっていう、スポーツ? も、教えてくれた。


 ラクト様が忙しい時は一人でも遊んでるぐらい嵌まっちゃった!


 でも、ラクト様と遊ぶ方がもっと楽しい。


 うん、ラクト様といると凄く楽しくて嬉しい。


 この気持ちはなんなんだろう?


 疑問に思った僕は、みんなに聞いてみた。


「それは……」


「あれよあれっ、親に感じるようなものよ!」


「それは恋。好きと言うことだ」


「ちょっとヤナ!」


「抜け駆け禁止。教えてやらんと可哀想だ」


「確かにそうですね。リサちゃんはラクト様が好きなんですよ」


「もう、しょうがないわね。ライバルを増やしても良いことないのに」


 そっか、僕はラクト様が好きなのか。


 気持ちが分かったから、寝る時に正直に伝える事にした。


「ラクト様好き!」


「重いぞリサ」


 ああ、また退かされた……。


「ほら、横に来い」


「うん! あのね! 僕……」


 ラクト様に頭を撫でられるとすぐに眠たくなっちゃう。


 気持ちを伝えないといけないのに。


「あのね……むにゃむにゃ……ラクト様……すき……」


「ああ、ありがとな」


 気づいたら寝ちゃった。


 気持ち伝えられたかな?


 僕、一生ラクト様と一緒にいる!


 確か、つがい?


 それになって、ずっと遊んで貰うんだ!


 ◆★◆★


 我はヤナ。


 誇り高き鬼人の一族。


 鬼人は戦いを好む。


 戦争にも率先して参加する。


 我はとある戦に赴き負けた。


 そして捕まった我は奴隷として売られた。


 別に悔やんではいない。


 弱かった自分が悪いのだ。


 しかし、奴隷の生活とは酷いものだ。


 薬を飲まされ弱体化してしまい、文句を言う元気もない。


 そんな時、英雄が我を助けた。


 名はラクト様。


 我の殿になるお方だ。


 ラクト様との生活は凄まじいの一言。


 こんな快適な生活があったとは驚きだ。


 そして一番驚いたのは、ありとあらゆる武器を与えてくれた所だ。


 戦に負けた負け犬の我に、こんなにも期待を示してくれるとは……。


 その期待に応えるため、日々鍛錬をこなす。


 特に刀という武器が一番好みだ。


 刀は良い。


 軽く切れ味抜群。


 一見軽いから壊れやすいと感じたが、使い方と手入れを怠らなければ非常に長く使える。


 普段は周りに危険を及ばさないように、訓練用の木刀で鍛練をしている。


 そんな我に、ラクト様は剣の型が乗った書物を与えてくれた。


 それを見て、様々な型の習得に励んでいる。


 ラクト様は魔法戦闘に特化しているため、接近戦は苦手と仰っていた。


 だから我は、いざとなったらラクト様の前に出て戦う。


 殿を守るのが主君の務め。


 そう、漫画から教わった。


 刀を振るう武士の活躍を描いた漫画が我の心をわし掴みした。


 そんな我は、ラクト様に恋心を抱いている。


 一緒に囚われておった仲間も同じ気持ち。


 皆、よき恋敵だ。


 負けてはいられないのだが、我はどうも口下手で上手くいかない。


 思いとは裏腹な言葉や行動を取ってしまう。


 ラクト様と寝る時もそうだ。


 隣に行きたいのに体が動かない。


 そうすると、ラクト様はこっちに来いと仰ってくれる。


 本当にこのお方は人をたらしこむ天才だ。


 ますます好きになってしまう。


 ラクト様なら、どんな事をされても良いと思っているのに、中々手を出してはくれない。


 いけずなお方だ。


 まあ良い。


 我は気長に待つとする。


 どうせ我は、ラクト様のお側を離れる気は毛頭ないからな。


 永遠の忠誠を誓ったのだ。


 身も心もラクト様のものだ。


 ラクト様が死ぬ時は我も死ぬ。


 その前に、ラクト様の盾となって死にたいものだ。


「ヤナ。頭を洗って欲しいのは分かったから睨むな……ほら、気持ちいいか?」


「うむ、苦しゅうない」


 ああ、ありがたき幸せ。


 我は殿を好いております。


 いつか、この気持ちを伝えられるといいのだが。

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