第8話「side ラン」

 私はラン。


 ラクト様に救われた一人。


 私は売られた。


 小さい頃はそれなりに裕福だったと思う。


 でも、両親は商売に失敗して一気に貧乏になった。


 貧乏だけなら良かった。


 小さい弟と私。


 どっちを売るか悩んだ両親は、高く売れる私を選んだ。


 いっぱい叫んでいっぱい泣いた。


 それでも、両親は私を売った。


 正直、今はもう思い出したくない。


 両親から付けられた名前も忘れた。


 あんなの親でもなんでもない。


 奴隷生活は悲惨だった。


 ご飯を食べられるのは一日一回。


 あれはご飯じゃない。


 残飯だ。


 体を拭けるのも二週に一回。


 キツかったし辛かった。


 その内、どうでも良くなった。


 感情が無くなってきてしまったのだ。


 そして、私は更に売られる事になった。


 私を買ったのはとある貴族だそうだ。


 馬車の荷台に詰め込まれ移動する。


 移動の最中、縛る紐が緩んでいる事に気づいた。


 全力で逃げた。


 すぐに発見され追いかけられる。


 もうダメだと諦めかけた時、開けた場所を見つけた。


 そこには、ラクト様が立っていた。


 息はギリギリだったけど、最後の力を振り絞り助けを求める。


 ラクト様はこっちに来いと受け入れてくれた。


 息を切らせてラクト様の足元に崩れ落ちた私。


 追っ手は迫っていた。


 目を瞑っていた間に終わっていた。


 真っ黒焦げで崩れるなにかがあった。


 ラクト様は怯える私を抱き抱え、優しく声をかけながらお家へ連れて帰ってくれた。


 ご飯を食べさせてくれて、お腹いっぱいで寝てしまった私を布団に運んでくれていた。


 でも、ちょっと不満がある。


 あの写真は酷い!


 うどんを口から出した写真なんてあんまり。


 ラクト様は乙女心を分かってないのよ。


 起きた私をお風呂に入れて可愛いパジャマを着せてくれたから許すけど。


 その後、ラクト様はみんなを助けに行ってくれた。


 ミャル様とお留守番。


 凄く怖くて不安だった。


 どれぐらい経っていたのか分からないけど、凄く長い時間に感じた。


 外からラクト様の声が聞こえて飛び出した。


 みんながいた。


 私達は抱き合って喜んだ。


 自分が綺麗になって分かるけど、この子達ちょっと臭い。


 お風呂に入れて上げないと。


 それからみんなで共同生活が始まった。


 最初ラクト様は一人で住むと言っていた。


 そんなのダメ!


 みんなも同じで大反対した。


 ラクト様も一緒に住む事になった。


 これからライバル達との戦いが待っている。


 私達は抜け駆けしないように協定を結んだ。


 ラクト様と一緒に料理する順番。


 お風呂に入る順番。


 寝る順番。


 被らないように調整した。


 この中で大事なのは寝る時だ。


 ラクト様に早く手を出して欲しいけど、抜け駆け禁止なのでこちらから直接的な事は言えない。


 だからアピールする。


 全然気づいてくれないけど……。


 まだまだ長い時間がかかりそう。


 でも、絶対諦めない。


 私達の生活はかなり贅沢だと思う。


 こんな生活、王都でも絶対味わえない。


 ラクト様は何者なんだろ?


 私達が見た事ないものを次々に出してくる。


 そのクセ、使い方を知らなかったりするから謎。


 そう言えば、私達に誕生日なるものが出来た。


 初めての誕生日は助けてくれた次の日に決まった。


 なんでも、今日から君達の人生は生まれ変わるからだって。


 パーティーなる催しをして楽しかった。


 プレゼントもくれた。


 私のプレゼントはお花の髪飾り。


 とっても可愛い。


 ラクト様が直接頭に付けてくれた。


 本当にラクト様は私達を甘やかしてばかり。


 でも幸せ。


 ラクト様は気づいてないかもしれないけど、私はラクト様が好き。


 理由は色々ある。


 もちろん、助けてくれた事もあるけど、一番好きな所は私達を大切にしてくれる所。


 分け隔てなく、種族なんて関係なく。


 ちょっと特別扱いもされたいけどね。


 きっといつか、ラクト様を振り向かせてみせる。


 それまで、みんなに先を越されないよう頑張らなくちゃ。


 私は絶対――ラクト様と幸福になるんだから!


「あ、ヤナ! 今日は私がお風呂だよ!」


「あ、すまんすまん」


 わざとだよね?


 くぅぅ、油断ならない。

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