第3話「師匠と俺」

 猫は良い。


 構わなくても見てるだけで癒される。


 可愛さのあまり猫用品まで買い揃えてしまった。


 なんでそんな物まで、という疑問は既にどうでも良くなっている。


 朝は顔をペロペロして起こしてくれる。


 朝ご飯を出せという催促な気もするが、可愛いから気にしない。


 餌は色々試したが、俺と同じ朝食を出す事に落ち着いた。


 猫に人と同じものを出して大丈夫かと、最初は心配したが問題なかった。


 ここは異世界。


 元の世界の常識など通用しないのだ。


 でも、食べさせるのは俺だ。


 今日の朝食はアジの開きと冷奴に味噌汁。


 流石に味噌汁は飲まない。


 アジの身をほぐして皿に乗せる。


 豆腐も同じく。


 主食は同じ米。


 日本の朝を感じる。


 朝食が終わったら外に出て畑のチェック。


 良い感じに耕してジャガイモを植えてみた。


【種芋】10DY。


 格安だったので試しに育てたくなったのだ。


 果たして育つか……お、少し芽が出てきてる。


 育つと判明。


 ダンジョンに季節とか関係ないのか?


 気温は外に影響されてるけどな……。


 良く分からんが不思議な力で育ちそう。


 これぞ神通力。


 畑のチェックが終わったら軒先でキャンピングチェアに座って小説を読む。


 DYで小説も買える。


 なんならタブレットで映画もドラマも見放題。


 暇潰しには困らない最強のサブスク。


 俺のスローライフは、これで最強だ。


 あ、ミャルが膝に着地してきた。


 撫でる。そして愛でる。


 ゴロゴロ喉を鳴らしている。


 可愛い。猫も最強。


 日が上まで来たらお昼だ。


 お昼は軽めにサンドイッチ。


 ミャルは昼飯を食べない。


 その代わり夜ガッツリ食べる。


 ◯ュールもしっかり食べる。


 昼飯を食べたら昼寝。


 縁側で座布団を枕にして寝る。


 ミャルも一緒だ。


 大体一時間ぐらい寝たらスッキリ。


 そう言えば、ミャルは滅茶苦茶魔力が高い。


 魔力総量は、約10万。


 生存ボーナスの3%から計算した結果だ。


 凄い猫を拾った。


 二時間毎に3000DY増える。


 一日で3万6千円!


 一週間で25万2千円!!


 一月でなんと108万!!!


 俺は完全にミャルのヒモである。


 もう絶対離さない。


 ミャル様々です。


 我慢出来ない。


 ◯ュール上げちゃお。


 夜になったら部屋でのんびり過ごす。


 外で獣っぽい遠吠えが聞こえる。


 これが中々不気味で怖い。


 だから、明日は自分の身を守る方法を探そうと思う。


「ペロペロ――みゃぁ~」


「んぅ……おはようミャル」


 さて、どうすれば自分を守れるか。


 ま、大体考えは決まっている。


 今日はそれが有効か確かめよう。


 DYで買える自衛手段。


【拳銃】200000DY。


 ミャルのお陰で一週間我慢すれば買える。


 だけど銃は怖い。


 暴発とかしたらヤバそうだし。


 そこで別の手段。


 異世界と言えば――魔法だ。


【初級魔法セット】50000DY。


 これを買ってみようと思う。


 セット内容は、【水】【火】【風】【土】の初級魔法が使えるようになるもの。


 異世界に転生したからには、魔法を使わないと勿体ない。


 買ったは良いが、どうやって使うんだ?


「ファイア!」


 なんも出ん。


 頭で手から炎が出るイメージをしてみる。


 ボッ。


 出た! そうか、イメージが大事なのか。


 次は水魔法。


 水道の蛇口をイメージ。


 ジョロジョロ。


 よし、これも出来た。


 風は……ミニ竜巻。


 ヒューッ、ビュルビュル。


 しっかり渦を巻いて土ぼこりを上げた。


 最後は土。


「アークエッジ!」


 おおっ、地面が突起状に尖った。


 初級魔法って、これであってるのか?


 魔導書みたいなのが欲しいな。


 さすがにそれはアプリに売ってない。


 それにこの魔法って、なにを消費してるんだろ。


 俺にも魔力はあるのだろうか?


 DYの生存ボーナスは付いてないから、魔力がある訳では無いと思うんだが……調べてみよう。


 うーん……アプリにはそれらしき項目がない。


 ならこの魔法はどうやって?


 それからアプリを隅々まで調べて分かった。


 どうやらDYを消費してるっぽい。


 初級魔法一発100DY。


 大体、缶ジュース一本分。


 これが安いのか高いのか判断出来ない。


 でも、今のDYが増える量を考えれば安いかも。


 これも全てミャルのお陰。


 後でいっぱい愛でよう。


「ミャアッ!」


 ちょっと構い過ぎたみたい……。


 猫は気まぐれだ。


 だがそれが良い。


 退かぬ、媚びぬ、顧みぬ。


 やば、ぬがゲジュタルト崩壊してきたぬ。


 あ、後ミャルの凄い所が更に発覚した。


 それはポカポカ陽気の午後。


 キャンピングチェアで小説を読んでいた時だ。


「ぶおおおっっ!」


「なんだなんだ!?」


 獣の鳴き声が迫ってくるのが分かった。


 警戒して周囲を見渡す。


 右の方から足音。


 だんだん近づいてくる。


 どうしよう……。


 獣? それとも魔物?


 怖くて足が震えてきた。


 その時、俺の足元にミャルが参上した。


「みゃあぁぁ」


 まるで大丈夫だよと子供をあやすように、俺の足に頬擦りするミャル。


 ちょっと勇気が出た。


 ミャルを守るんだ!


 そう意気込んでいた所に真打ち登場。


 デッカイ猪。


 黒くて牙がエグいやつ。


 俺の身長は遥かに超えてた。


 通ってきた道も草木がぺしゃんこで木も倒れてる。


 これは無理。


 間違いなく死ぬ。


 神様、二度目の人生ありがとう。


 猪の荒い鼻息を受けながら、死を覚悟して目を瞑った。


「ミャアッッ!!」


 ミャルの力強い鳴き声。


 ペットは飼い主を守るために戦う事がある。


 ありがとうミャル。


 そんな事を考えていたら呆気なく終わった。


「ぶぉぉっっ……」


 なんか絶命する声。


 目を開けたら猪が氷の氷柱で串刺しになって死んでた。


「これ、ミャルがやったのか?」


「みゃあな」


 凄いドヤ顔。


 あれ? 今「まあな」って、言った?


「今言葉喋った?」


「みゃあ?」


 気のせいか。


 猫ってたまに人の言葉を喋るとか聞くが、あれは大体が飼い主の猫バカだ。


 今度もその類いだろ。


 俺もすっかり同類になってしまったようだ。


 でもしょうがない。


 猫可愛いもん。


 という訳で、うちの猫は超強い事が判明。


 番犬ならぬ番猫としても活躍してくれた。


 その日は、もちろん◯ュール大放出。


 お腹一杯で満足するまで食べさせた。


 ご褒美は大事だ。


 人間も同じ。


 ご褒美があれば頑張れるもんだ。


 そうだ。


 ミャルに魔法を見て貰おう。


 数日待ってDYを貯め、上級魔法を買った。


【火の上級魔法】150000DY。


 約五日分。


 高い買い物だが、その価値があると信じたい。


 上級魔法になると単体でしか買えない。


 今回はとりあえず火の上級魔法を試してみる。


「グレートファイア!」


 ボボゥッッ。


 うお、結構な火力だ。


「どうですかミャル師匠!?」


「みゃみゃあ」


 二本足で立ちながら横に肉球を振られた。


 全然ダメなのか……。


 もっとイメージを膨らませるんだ。


 やれば出来る。


「紅蓮のメギドッッ!!」


 ボゴオオオオォォォォッッ!!


 や、やばぁいっっ!!


 めっちゃ燃え盛ってる!


 木々に移りまくってるぅ!


 どうしよ!?


「ミャアアッ!!」


 ジュワアアァァァァ……。


 き、消えた。


「ミャアッ! ミャミャアッ!」


 なにやってる! 加減しろ!


 多分そう言ってる。


「ごめんなさい……」


「みゃあ、みゃあぁ」


 しょうがにゃいなぁ。


 肉球で頭を撫でてくれてるので、そんな感じで慰めてくれているんだと思う。


 ミャル師匠は厳しくも優しい人だった。


「◯ュール」


「えっ、今喋った?」


「みゃあ?」


 なんだ、気のせいか。

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