第2話「独身貴族と猫」

 悠々自適に暮らすとして、周囲の環境が大事だ。


 先ずは偵察が急務。


 コアルームを出て少し広い空間に出る。


 真っ暗でなにも見えない。


 アプリで灯りを買おう。


【消えない炎付き松明】10000DY。


 なんでダンジョンぽい物は総じて高いのか。


【LED照明】100DY。


 だから……もうツッコむのは止めよう。


 LED照明を天井に何個か設置。


 滅茶苦茶明るい。


 ダンジョン感が急激に薄れた。


 明るくなって、一番奥には岩の階段が見えた。


 あれを上がると外かな?


 外だった。


 周囲は森。


 森の中にぽっかり出来た地下への階段。



 目立つし違和感満載だ。


 森か……偵察したら迷いそう。


 ダンジョン外のマップは表示されないんだよね。


 なんか空から見渡せれば良いんだけど――



 ありました。


【見張り台】2000DY。


 安いので即購入してダンジョンの入り口真横に設置。


 入り口の周囲数メートルは、ダンジョンとして認識されているみたいで設置出来た。


 見張り台は木造。


 垂直な梯子を登って一番上に到着。


 結構高い。


 ビルの四階ぐらいありそう。


 ちょうど木々の上から見渡せる。


【双眼鏡】100DY。


 これもついでに買ったのでさっそく覗いてみる。


 方角は分からんけど、雪化粧された山脈が遠くに見える。


 後は滝と谷。


 それと……ちょっとした村? が見えた。


 村は山脈とこのダンジョンとの中間辺り。


 結構人里が近くてビビる。


 正確な距離は分からないが、10kmあるかな?


 ぐらいだ。


 とりあえず偵察終わり。


 早く降りて見張り台をキャンセルしよう。


 一度設置してもキャンセルすれば消えて在庫に表示されるので、何度でも設置し直せる。


 村がある以上、人もいる。


 見張り台は目立つので注意だな。


 まだ見つかりたくないんです。


 周囲の状況は分かったが、どうやってここを村にするか考えないと。


 先ずは地上をダンジョン化しないと、ろくに設置も出来ない。


【地上一階層へ拡張】50000DY


 まあまあ高い。


 手持ちの半分は持ってかれる。


 だが、使い時とはこういう時だと信じたい。


「それっ……」


 買ってしまった。


 周囲の木々が消滅。


 森の中に四角の空間が瞬時に形成された。


 広さはそうでもない。


 地下と同じぐらいの広さだ。


 もうちょっとスペースが欲しいが、空間拡張は25000DYかかる。


 流石にそれを買ったら手持ちがヤバい。


 と思ったら、


【初めての拡張ボーナス 25000DY】


 が加算されていた。


 使った分の半分が返ってきた。


 親切設計の"神"仕様だ。


 決断は早く。


 ここは買えと、お天道様が言っている。


 更に空間が増えた。


 家二軒ぐらいなら建てられそうだ。


 ちょうど木々が壁のように四角に囲んでいるから、どこからがダンジョンか分かりやすい。


 うん、先ずは家だな。


 地下への入り口を覆い隠すように木造平屋を設置する。


 はい、出来上がり。


「おじゃましまーす」


 玄関はプチ土間。


 靴を脱いですぐ右手にトイレがある。


 トイレも和式だ。


 ボットントイレじゃないだけましか。


 左手は台所。


 ちゃんとシンクもある。


 え、コンロもあるの!?


 台所の横には冷蔵庫もある。


 二段式の見た目古そうなやつだ。


 その反対側には洗濯機。


 そして台所の左奥は、お風呂場だった。


 少し小さいけど浴槽もある。


 次は台所と居間を仕切っている扉をガラガラ開ける。


 居間は六畳。


 居間の隣は寝室でこちらも六畳。


 畳の懐かしい香りがする。


「立派な家だ……俺の城!」


 急にテンションが上がってきた。


 勢いに任せ色々買ってしまった。


 まあ、安かったから良いけど。


 浪費はいけないと自分を戒める。


 買ったのは生活に必要なものだ。


 丸テーブルに座布団。


 布団などの寝具。


 物干し竿。


 洗剤と柔軟剤なんてのもあった。


 後は細かな食器類。


 日本人なら急須と湯飲み茶碗は必須。


 もちろんヤカンも。


 て、あれ……この家、電気もガスも水道も通ってなくない?


 と思ったら、水も出るしコンロや冷蔵庫も使えた。


 なんで?


 あ~、DYを消費するみたいです。


 納得。


 したが、どれぐらい消費するのか気になる。


 試しに冷蔵庫のスイッチを入れて、浴槽に水を貯めつつ、ヤカンを沸かしてみる。


 全部で50DY。


 安っ!


 これなら生活する分は気にしなくても良いか?


 いや、節約するに越したことはない。


 節水、節電はしっかりしようと思いました。


 よし、とりあえず今日はこの辺にして休もう。


 買ったビールを冷蔵庫で冷やしつつ、浴槽に貯めた水を、古いタイプの湯沸し器で沸かす。


 その間に食事の準備だ。


 今日はカレーにしよう。


 みんな大好き◯ーモ◯ドカレーだ。


 全部DYで買えるんだよね。


 凄くね?


 まさにスローライフのために用意された環境と設備。


 神様。


 あなた様の意思を汲み、俺はしっかりダンジョン管理という名のスローライフを送ります!


 お風呂最高!


 ビール美味い!


 カレーも美味い!


 お休みなさい。


 こんな感じで、ダンジョンマスターとしての初日は終わり。


 まったく異世界感はなかった……。



 異世界転生二日目。


 コーヒーを飲み目を覚まさせる。


 調子に乗ってコーヒーメーカーも買ってしまった。


 縁側の戸を開け日の光りを浴びる。


 ちょっと肌寒いかな。


 季節で言えば春の朝ぐらいか。


 この世界に四季があるかまだ分からないが、あるなら冬は要注意だ。


 さて、今日は何をしよう。


 家を出て、一応ダンジョンになっている土地を眺める。


 庭でも作って家庭菜園でもやろうかな。


 野菜はDYで買えるけど、一から何かを作る喜びを味わいたい。


 でもその前に……一人は寂しい。


 ペットが欲しい。


 スライムでも買ってペット化しようかな。


 そんな事を考えていると、森の中から白い物体がフワフワと近づいて来る。


「なんだ……?」


「みゃ~ん」


 猫だ。


 空飛ぶ白い猫。


 背中にモフモフした羽が生えてる。


 猫と言えば……。


「ほら、◯ュール」


 DYで即購入。


 猫が大好き◯ュールの出番です。


「みゃあ? ペロペロ……ミャアーッッ♡」


 異世界の猫も大好きみたいで良かった。


 あっという間に食べた空飛ぶ猫。


 空中で浮遊しながら手を合わせている。


「もう一本食べたいのか?」


「みゃあ!」


 どうやら言葉が通じているようだ。


「残念だが、◯ュールは一日一本だ」


「みゃぁぁ……」


 しょんぼりしてしまった。


「明日も来ればやるよ」


「みゃあ!」


 俺の家を肉球で指して、スヤスヤ眠るジェスチャーをする猫。


「ここに住みたいのか?」


 頷いてつぶらな瞳でお願い光線。


 ムリムリ、俺には耐えられない。


「分かった」


 猫を飼う事になった。


 翼の生えた白い猫。


 みゃあ、と鳴くから【ミャル】と名付けた。


 独身貴族と猫。


 中々良い組み合わせだ。

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