第11話 始動(3)
そのとき
それは先生から放たれる魔力の大波だった。そのプレッシャーに、洸はただ圧倒される。
「最近の子はシャイなのかねえ。面接より難易度は高いけど頑張ってくれ」
先生の魔術でまたワープしたのか、気づけば洸は外に立っていた。
それからほとんど間をおかずに、先生もワープしてきた。洸が立つ場所から少し離れた地点で、小さな椅子に座っている。そして、抱えたあの大きな本がまた淡い光を
「じゃ、スタート」
先生が指をはじいた瞬間、狛犬が洸に向かって勢いよく走って来る。
どうやら試験はもう始まったらしい。どう考えても無茶苦茶だ。何をどうすれば合格なのか、何もわからない。
とはいえ、できることをやるしかないだろう。洸は目の前の狛犬に意識を集中する。
単純に考えれば、あの狛犬を倒せば合格というのが最もわかりやすい。なら、逃げるという選択肢はない。どうにかして、狛犬に勝つ必要がある。とはいえ、生き物を乱暴に扱うのはよくない。
だが、具体的な手立てをじっくり考える時間はないようだ。狛犬の足は速く、距離はどんどんと縮まってきている。仕方がないので、まずは相手の出方を伺う。
洸は突進してくる狛犬に対し、少しかがんで両腕を体の前で交差させる姿勢をとった。
狛犬は速度を緩めず、猛スピードのまま洸の腕に突進する。その衝撃で、洸はよろめく。重心を体の前にしっかりかけていたにもかかわらず、後ろに倒れそうになる。上手くバランスをとって、何とか踏みとどまった。
そうしているうちに、狛犬は再びこちらに向かってくる。さっきのように身を守っているだけでは何も変わらない。でも、どうする。
洸の目の前に迫った狛犬が、再び飛びかかってくる。それをぎりぎりのところで右に身を
――このままだと
狛犬の動きは案外分かりやすい。落ち着いていれば、避けることはそれほど難しくない。しかし、それだけではどうにもならない。
そのまましばらく突進を避け続けて、洸の頭の中にひとつの考えがよぎった。
——狛犬の動きが、やけに機械的だ。
どうやら、この狛犬はターゲットに向かって突撃する以外のことができないらしい。そして、こちらがずっと避け続けても、攻撃の仕方を変えてくることはない。つまり、向こうはただ突進することしかできず、学習能力もない。
そしてこれは、間違いなく魔術の実力をはかるための試験だ。狛犬を攻略するためには、魔術を使う必要があるとみて間違いない。
洸は雪枝や本多が口にしていた、魔術についての情報を片っぱしから思い出す。
まず思いつくのは、雪枝や本多が使っていた身体強化の魔術。あれを使えれば、狛犬と正面から勝負できるかもしれない。とはいえ、はじめに突進を受けたときの衝撃はそれなりのものがあった。あれを何発もくらうわけにはいかないし、失敗すれば間違いなく大きなダメージを負うことになる。それになにより、人が動物を殴るなんてこと、あってはならない。
洸が持っている魔術の知識は、はっきり言ってこれだけだ。あとは治癒と渡航。これは、今はあまり関係ない。
――いや、待て。
洸は魔術についてほとんど何も知らない。それでも、洸は実際に自分で魔術を使っている。それを使うときに大事だったことは何か。忘れるわけがなかった。変化のイメージ。その考えを上手く使えれば、もしかすると。
ちょうどそのとき、洸は狛犬の突進をまた回避していた。今はもうほとんど何も考えずに、狛犬の攻撃を避けることができる。狛犬と距離が空いたタイミングで、即座に思い付いた作戦を実行に移す。
――いくぞ。
周囲の魔力を集めながら、心の中で変化のイメージを忘れない。変化する前と後。変化する前というは現在のことだ。では、後は。目の前の狛犬に対抗するための、明確な未来像を描く。
イメージに現実が追いつくように、洸の魔術が発動する。それによって、狛犬は馴染み深いあの石像に姿を変えていた。成功だ。
達成感か、それとも疲労感か、力が抜けて洸はその場に膝をつく。遠くから先生の「はっはっは」と楽しそうに笑っている声が聴こえて、思わず洸も口元が緩んだ。
「まさかそんな方法で対抗するなんてな」
「そんな方法、ですか」
そうだ、と先生が歩いてこちらに近づきながら言う。洸は少しふらつきながら、なんとか立ち上がった。
「いま洸が使ったのは、魔術の中でも特殊な部類に入る」
その言葉に、洸は混乱する。
「特殊って、どういうことですか」
「それを理解するためにはまず、そもそも魔術とは何なのかを知らないと始まらないな」
先生はわざとらしく咳払いをして間を作り、それから堂々と言った。
「魔術とは、何らかの
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