第25話 会同(5)
「私は別に何も。彼の才能ですよ」
「うんうん。じゃあ、2人ともすごいってことで!」
そう本多がまとめると、少し空気が軽くなった。場が和んだその流れから、この4人で「チーム」を作る話になる。
チームとは、魔術書の通信機能を利用するための仕組みのことで、「
まず、魔術書を格納している特殊な空間も魔術でつくられており、これを書庫に見立てる。その中に「棚」はあるが、何もしなければ、魔術書はそのままただ床に置かれているような状態だ。そこから、チームとなる魔術師同士で自分たちの本をひとつの棚にしまう。すると、同じ棚にある他の魔術書は「信頼できる魔術書」となり、本と本のあいだにネットワークのようなものが生まれる。魔術師はその魔術書を介することで、様々な恩恵を受けることができる。
そして、この「同じ棚を使っている魔術師の集まり」のことを、
「調査が終わるまではそのままで頼む。終わった後は好きにしてくれ」
すでに雪枝と本多は棚を共有していたので、そこに洸とアミの魔術書も加えるかたちでチーム作りは完了した。
「調査についてだが、基本的には毎日行う。時間はだいたい放課後から夜9時まで」
そうして調査の概要について、雪枝から一通りの説明を受けて、ひと段落がつく。そのタイミングを見計らっていたのだろう。さっきまで庭を気ままにうろついていた本多が、ここぞとばかりに叫んだ。
「よーし、それじゃあここからは楽しい親睦会を始めよう!」
*
そういうわけで、洸たち4人は栗山神社を離れて近くのファミレスにやってきた。智上の方なので当然だが、他の客どころか店員もいない。明かりはついていたのが、せめてもの救いか。
「私適当に作ってくるから待ってて」
そう言って、すいすいと本多はキッチンに向かって行った。「この辺でいいか」と雪枝はキッチン近くの4人掛けテーブルに座るよう勧めてくる。とりあえず席に着くと、向かいに座った雪枝がこちらにメニューを差し出した。
「お前たちも好きなの頼んでくれ。注文は直接那由奈に念話でしていい」
隣に座ったアミと一緒に、メニューを眺める。そこには美味しそうな料理の写真がいくつも載っている。とりあえず、シェアする用でポテトと唐揚げ。あとはコロッケとかもよさそうだ。でもその前に、確認したいことがあった。
「勝手にこんなことしちゃって、大丈夫なんですか?」
智上で生活することに対して、洸には上手く言語化できない迷いがあった。たとえば、ここで食べた分のお金はどうするのだろう。その場の流れに身を任せていたせいで無銭飲食の罪に問われるなんてことがあったら、目も当てられない。
雪枝はかすかに首を傾げた後、「あぁ」と何かに気づいたような顔をみせた。
「こっちの慣習については、まだ教えてもらってないのか」
それに対し、メニューから顔をあげたアミが「そうですね」と答える。
「私の仕事は魔術について教えることだったので、そういうことはあまり」
「そうか。ならとりあえずこれだけは知っておいてほしいんだが、智上の変化は智下に何の影響も与えない。何となく気まずいのはわかるが、そのうち慣れてくる」
聞くところによると、雪枝と本多は毎日のように智上でご飯を食べているという。ふたりとも智下ではファミレスでバイトしているらしく、その手の調理はお手のものらしい。
隣のアミも楽しげにメニューを眺めているので、これは本当に智上ではありふれた日常なのかもしれない。しかしアミに魔術を教えてもらっていた一週間の中で、こんなことは一度もなかった。毎日、智下で買ったお弁当なんかを智上に持ち込んでいた。
本多から連絡があったのか、数分経ったところで雪枝が立ち上がった。
「できたっぽいな。運ぶのは俺が手伝うから座ってろ」
雪枝が席を外したタイミングで、それとなくアミに尋ねてみる。
「今までもこうしてれば楽だったのでは」
「そうね。でもそうしなかったのにはもちろん、理由があるから」
「というと?」
「ひとつは訓練上の理由。持ち込みを覚えてもらうには、こうするのが効果的だと思った」
「なるほど」
これだけでも、十分納得できる理由ではある。
「もうひとつは、さっきも言ったけど、それが私の教えるべきことに含まれていなかったから。これは業務上の理由ってところかしら」
それから最後に、とアミが言いかけたところで2人が帰ってきた。その両手には、これでもかと盛り付けたれた大量の揚げ物がのった平皿がある。
「おまたせしました! 幸せの茶色い揚げ物セットのお客さまー?」
はーい、と本多が自分で答えてそれをテーブルの上に置く。山盛りの揚げ物がのったお皿が2枚、目の前に並んだ。圧巻の光景である。
「飲み物も新しいの補充しといたから、好きなの飲んでね」
雪枝の方は飲み物とピザを持ってきた。各々がグラスを手に取り、席につく。
「ほら透矢君」
本多に急かされて、雪枝が
「あー、なんだ、チーム結成を祝して。乾杯」
グラスを合わせる楽しげな音が、静かな店内にはじけた。
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