第5話 邂逅(4)
魔術師。まただ。しかし、そんなこと
「僕がその、魔術師? 待って、2人は魔術師なの?」
もう何がなんだがさっぱりわからない。それを
「もし魔術で記憶に干渉できるやつがいたとして、ここまでのレベルとなると相当だな」
「そうだね。でも荒らしにそんなことできる人、いる?」
「まずありえないだろうな。となると……」
勝手に話が進んでいるが、さっきからどうもかみ合っていない。
「いや、記憶がどうのってことじゃなくて、ここはどこかって話で」
「それはさっき思い出してただろ。ここは智上」
雪枝が言うと、「あ、それは覚えてるんだね」と本多が意外そうな顔をみせる。
「それがおかしいんだ。ここは地上。そんな言い方は普通しない」
「それこそおかしいだろ。こっちの世界が智上って名前なのは、ここにいる全員が知ってる」
「地上って名前? チジョウって大地の上で地上だよね」
洸の質問に、今度は本多がすらすらと答える。
「違うよ。知るの下に曜日の日がつく方の智で、智上。音だけだと勘違いしやすいよね」
なんだって? つまり地上じゃなくて――智上。こんな言葉を洸は知らない。
「そう、勘違いだよ。僕は記憶に異常はないし、智上なんて知らないし、魔術師とやらでもない」
雪枝も混乱しているのか、頭をかきながら「いったん整理する」と言った。
「オレは何らかの魔術でお前の記憶に異変が起きたものと考えていた。こっちにいるってことはお前は魔術師で、智上も知っていて当然だと思っていた」
雪枝の視線がこちらに向けられる。
「しかし実際は違うと。お前は記憶に問題はなく、智上を知らず、魔術師でもない。そういうことか」
洸は黙ってうなずいた。
「今の話が本当なら……そうだな」
不自然な間をあけてから、雪枝は次のように説明した。
「可能性はいくつかある。まず、お前が言ったことがすべて事実である場合。あるいは、本人にさえ気づかれないような、かなり高度な魔術がかけられている場合。それから、何らかの目的があって、お前が嘘をついている場合」
少なくとも洸が嘘をついていないことは確かだった。加えて、魔術がどうこうと言われても何もわからない。そして洸にしてみれば、これらはすべて本当のことだった。
「うーん、嘘ついてるようには見えないよね。それに魔術のせいでもないと思う」
「さっきのでわかったか」
「うん。ちょっとだけど、触った状態で調べたから間違いないよ」
「そうか。だがそうなると……
「でもその前に場所変えない? わたしちょっと座りたいかも」
2人はすらすらと会話しているが、洸は情報の処理がまったく追いついていなかった。それでもなんとか本多の最後の発言だけ拾って、ひとつだけ言えることがあった。
「たしか、この近くに公園があったはず」
2人を案内するべく、洸は先頭を歩いた。その道すがらで、本多がたわいもない話題を出してくる。
「涼風君は高校生だよね。何年生?」
首だけで後ろに振り返って、答える。
「2年だけど」
なんてことない返答をしたつもりだった。しかし、これに対して本多はふふふと笑いながら信じられないことを言った。
「そっかー、私たちより年下だったか」
……あれ。ということはつまり。
「那由奈、あんま調子のるなよ。こいつ陽西だぞ」
「おお、じゃあ頭良いんだねえ。でも偏差値とか私は気にしないよ?」
「はしゃぐと馬鹿がばれるだろ」
「うーん、それはもう遅いかも? あ、私たちは
洸は愛想笑いでひとまずその場を
自分の良くないところに気がついたら、素直に認めて改善すること。それは穏やかな対人関係の構築には必須の心構えだ。
*
「――ということなんですが」
これまでの経緯を一通り説明して、洸は隣に座る2人に目を向けた。洸たち3人は住宅地の中に併設された公園のベンチに座っている。ベンチが2つに、滑り台と砂場が1つずつしかないシンプルで小さな公園だ。
話を聴き終えた本多は「そっかー」と言いながらうなずく。
「いきなり壁に投げられたなんて、大変だったねえ」
「でも今は全然平気です。自分でもびっくりするくらい」
「え? それは私が――」
「その話はいったん後だ」
本多をさえぎって、雪枝が続けた。
「聞く限りお前の話は本当だ。すると、おかしなことがある」
洸は尋ねる。
「それは?」
「どうしてお前が智上にいるのか、だ」
「智上……に僕がいるとおかしいんですか」
「おかしい。いいか、今から言うことはここにいる人間なら誰でも知ってることだ」
「はい」
真剣な気持ちで、洸は雪枝に向き合う。
「まず、ここはさっきまでお前がいた世界とは違う、智上と呼ばれるもうひとつの世界だ。そしてこの世界に来ることができるのは、魔術の知識がある魔術師だけだ」
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