第13話 始動(5)
「ああ、忘れてた。そりゃ文句なしで合格だ。頑張って強化でも使うかと思ったんだが、まさかの
直行……さてはまた専門用語か。
「媒介なしで魔術を使うこと、ですか」
先生はうなずく。
「これは正式な名前じゃなくて、俺が勝手にそう呼んでるだけだけどな」
そういうものもあるのか。どうもこの人が優れた魔術師であることは間違いない気がする。
「魔術の知識が偏っていたとはいえ、直行はそう簡単にできるもんじゃない。渡航のように決まった実行方法が確立されていれば話は別だが、それ以外の状況で使われることは、まずないと言っていい」
自分はどうやらすごいことをやったらしい、ということに洸は気づいた。
「もしかして僕、魔術の才能ありますか」
なんだか恥ずかしい台詞を言ってしまった。けれど、先生は真剣だった。
「断言しよう。お前には才能がある。でももし他の魔術師と
魔術の才能があるということは、洸にとって嬉しいことだった。それに、戦闘なんて危険なことを積極的にやるつもりはない。何も問題はないどころか、考えうる限りで最良のスタートに思えた。
「改めて、よろしくお願いします、先生」
「ああ、よろしく。やる気のある新入生は歓迎だよ。……あ、そういえば」
ふいに動いた先生の視線の先を見ると、神社の入り口に人が立っているのがわかった。その人物はゆっくりとこちらに向かって歩いて来ている。あの人は……。
「言い忘れてたけど、ちょうど昨日から生徒になった子がいるんだ。せっかくだし、このまま顔合わせと行こう」
2人がいる所までやってきたその女性を、洸は見たことがあった。しかも彼女が着ているのは、
「先生、そちらは?」
「新入生の洸だよ。魔術の実力はまだまだだから、アミちゃんからもいろいろ教えてやってくれ」
アミと呼ばれた女子生徒が洸の方に体を向ける。所作が綺麗なせいか、制服を着ているにもかかわらず大人な雰囲気だ。
「はじめまして」
品の良いお嬢様というよりは、爽やかなスポーツ選手といった感じだ。女性の中では少し背が高いことも、そう思わせた理由かもしれない。
なんだか大変なことになってしまった。洸もあわてて挨拶を返して、それから決心する。どんなに混乱していても、すぐさまやらねばならないことがある。なぜなら、このタイミングを逃せば後々必ず厄介なことになるから。今、ここが正念場だ。
意識して、丁寧語で尋ねる。
「えーっと、何年生、ですか?」
それに対して、アミは困ったように微笑んで言った。
「2年です」
つまり同い年。しかし少なくとも1年生の時は、同じクラスではなかったはずだ。
「おー、じゃあ洸とタメだな。仲良くしてやってくれ」
「はい」
先生に年齢まで見抜かれていることに気づいて、洸は驚いた。雪枝たちにタメ口を使ってしまった話は当然、先生には伝えていない。
外で話すのも疲れるだろう、ということで再び
「アミちゃんも来たところだし、さっそく俺の授業を始めよう——と言いたいところなんだが」
「何か問題でもあるんですか?」
真剣な表情でアミが尋ねた。
「実は、この洸はまだ魔術ど素人でね。魔術歴はたったの2日しかない」
信じられない、という目でアミが洸の方を見る。やっぱり、天然というのは珍しいのだろうか。
「アミちゃんには悪いけど、今日は基本的な座学だけになる。というか、しばらくは基礎的な内容ばかりになるね」
アミは相当ショックを受けたのか、静かに息をついていた。
「それは……少し困りますね」
自分のせいで余計な問題が起きていると気づいて、洸はおずおずと口を開く。
「僕、もしかして邪魔でした……?」
「いや、俺は来るもの拒まずの精神を大事にしているよ。いま問題なのは、むしろアミちゃんのレベルが高すぎることなんだ」
洸はまだ魔術師の技量を測るすべを持たない。だから、素直にそうなのかと納得するだけだった。
「先生に比べたら、私はまだまだですよ」
「うん、謙虚なのも良いことだ。けど実際、アミちゃんが学びたいことは違うだろう?」
「それは……はい」
やはり、ここは誰かが
「その基本的なことって、独学でどうにかなるものだったりしませんか? もしそうなら、僕のことは気にせず、難しい内容をやってください」
そこまで的外れなことを言ったつもりはなかったが、先生は言葉を
「それは、そうだな。まあ洸ならできなくはないかな、うん」
「なら——」
「待って」
話をまとめようとしたところで、アミが口を開いた。
「
それに、とアミは続ける。
「魔術は使用者の心の状態にも左右される。ほんの少しのミスで何もかも上手くいかなくなることだってあるから、やめておいた方が良い」
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