第十三話




 翌日、数日ぶりに公園に行くとじゅんはいつも通りベンチに座っていた。いつも通りじゃないのは、俺達の心だけだ。


「……よう」


「……もう、来ないかと思ってた」


 隼は、そう言うと自嘲するように笑った。


「考えたんだけどさ、やっぱり連絡先を交換しないか?」

 

 俺は、もう一度提案した。


「それは――出来ないよ」


 隼の答えは、前と変わらない。


――今だ!変えるのは自分だ。


「……理由を聞いてもいいか?」


 俺は、一歩を踏み出した。


「――言いたくない」


「ッ!?」


 しかし、飛び込んだ足は縄に当たってしまう。


やっぱりダメなのかな、、、


 俯きそうになる。


それでも――


隼は、隼だけは、、、諦めきれないッ


 もう一度隼の方を向いた。俯いた隼の姿は、少し前の自分を見ているようで。俺は、どうやって隼から話を聞くか必死に考えた。そして、、、


「じゃあ――


 そう、言った。


「え?」


「明日、俺と勝負しよう。そういえば、この間のYes/Noゲーム負けっぱなしだっただろ?これで会うのが最後ならさ、勝ち逃げなんてさせない」


「……勝負内容はどうするの?」


「そうだな……よしっ、この町でかくれんぼをするんだ、隠れるのは隼で、鬼は俺」


「……良いけど、僕に有利すぎない?」


 いつか俺が言ったような反応をする隼。それが少し面白くて、口角が上がった。


「じゃあ、範囲を絞ろう。『隠れていいのは一度行ったことある場所』『鬼は、何人でもいい』の二つでいいか?」


「……それは?」


「内緒」


「そう……ふふっ」


 隼はそこで初めて相好を崩した。


「……なに笑っているんだよ」


「何でもないよ――最後に眺めようと思って」


「?それは、どういう……」


「じゃあ、また明日」


 意味深に言い残して、隼は公園を去った。


「ふぅー」


 どうにか、兆しは見えた


ここからは、俺の頑張り次第だ


 早速、俺は借りを返してもらうことにした。





「――というわけなんだ」


 次の日、飛田あやと、またもや連れてこられた後藤飛鳥に、俺はかくれんぼのことを伝えた。


「へえ、面白そうなことをするんですね先輩は。私も隠れたいです!」


「話聞いてた?」


「……あやちゃん、多分先輩は鬼を手伝ってほしいんだと思うよ」


「わ、分かってますよっ。ボケです、ボケ。本気で言ってたら私ただのあほじゃないですか!」


((あほじゃなかったんだ……))


「二人には俺と一緒にこいつを探して欲しい」


 そう言って、2人に写真を見せる。


「はぁー。めちゃイケメンですね」「モデルみたい……」


「2人も大概だと思うが」


 飛田はともかく、後藤も地味で目立たないがよく見れば普通に可愛かった。おそらく、あれだ。クラスで何人か後藤のことを気になっている男がいる系の、意外とランキング高めの。


「いやだなぁ、先輩上手ー」


 それよりも、だ。妹も含めなぜこうも美男美女が俺の周りには多いのか。とても惨めな気分になった。


「でも、町規模だと流石に広いんじゃ……」


「かくれんぼといっても、物陰に隠れたりはしないはずだ。そんなことすりゃ、見つかりっこないしな、だから……」


 俺はプリントの裏にざっくりとした市の形を書き、いくつかの箇所に目印をつけた。


「範囲は、俺とそいつ、隼っていうんだが、行ったことある場所だ」


「はぇ~、でも、まだ結構ありますね。お二人はよく遊ぶんですか」


「まあ、散歩とかよくするな」


「じじいかよ」


「うっせうっせ、そして、あいつが言ってたことを加味すると……」


『最後に眺めようと思ってな』


 この発言からして、その場所は景色が見られるような、ある程度高い場所に位置するのだろう。


「高台、展望台、モールの屋上、この三つに絞れる」


「全て高い場所なんですね」


「隼は高い所が好きなんだ」


「……その言い方だとお馬鹿さんみたいですね」


「ふっ、確かに」


 失笑してしまった。その様子に、後藤飛鳥が、、、


「――お二人は、とても仲が良いんですね」


と言った。


「まあな、こんな遊びをするくらいだし」


「よしっ、じゃあ今日の放課後、このイケメンさんを絶対にみつけましょう!」


「「おー」」


 かくして、ここに鬼チームが結成されたのだった。




 放課後、三人は学校が終わり次第あらかじめ決めた場所についた。


「捜索開始」


 かくれんぼが始まった。


 午後五時、駅から出た俺はあの高台へと足を運んでいた。


『作戦はこうだ。駅から一番近くにあるモールには、後藤さん。10分ほどの距離にある展望台には、飛田。最後の、本命であり一番十距離にある高台には俺が向かう』


 放課後、俺達三人は、高校からほど近い場所にあるワックで作戦会議を行っていた。


 スタートは十七時、近年猛暑が続くこの時期は、少し遅めの方がいいとの判断だ。


「その後、グループでそれぞれ報告し合って……」「ちょっと待ってください」


 説明の途中で、飛田あやが口を挟んだ。


「なんだよ、今説明してんだけど」


「納得いかないです!」


 いきなり不満を口にした。


「えっ何が?」


 心当たりのない俺は混乱してしまう。


「どうして、飛鳥ちゃんには『後藤さん』で、私は『飛田』なんですか!」


「え、そんなこと?」


 帰ってきたのは、とてもどうでもよいことだった。


「そんなこと?じゃ、ないですよ!なぜ私は雑なんですか!?」


「や、いつもそう呼んでるだろ」


「えー、そうなんですけどー、なんかおざなりー」


 どうして今更、呼び方程度で引っかかるのか。それに――こいつには彼氏がいるのだ。俺が下の名前で呼ぶのはいらぬ誤解を招くかもしれない。


「――普通に『あや』でいいですよ」


 これだから、陽キャはこちらを勘違いさせるんだ。一体どれだけの男がこれで勘違いして、涙を呑んだことか。


――結局、飛田あやに押し切られ下の名前で呼ぶことになったのだが。




 余計なことばかり思い出したが、そんなこんなで俺はひたすら歩いていた。その時、携帯が振動しメッセージの着信が入る。


「おっ早速だな」


 わずかな期待を込めてグループを覗く。後藤飛鳥からのメッセージだった。


――『隼さんはいらっしゃいませんでした』


 まあ、ここは一番ないと思っていた場所だ。特に、落ち込んではいない。


 五分もしないうちに、


『こっちも外れでした、、、でもでも、これは絶景ですよ!』


 自撮り写真と、共に飛田あやからの報告が届く。


『こっから、モールが見える!手振ってるの見える?』


『見えるわけないよ……』


 二人は、楽しそうに写真を送り合っている。彼女たちには、事情を深く話さなかった。なぜなら、これは俺達二人の問題だし、正直連絡先を手に入れるためのかくれんぼと言ったところで、ますます疑問が深まるだけだろう。


 だが、これで候補地二つが外れた。絞れたのは正直かなりでかい。一人で三つ回るには、時間が掛かりすぎるからだ。二人は、お礼のつもりらしいが今度何かお礼返しをしようと心に誓った俺だった。


 やがて、目的地に近づく。本命の結果が分かるときが来た。ここでいなかったら、いよいよ八方塞がりだ。俺は、不安と期待に心を躍らしながら高台を登っていった。


「ッ!?」


――が、隼の姿は見えなかった。


『ごめん、こっちにもいなかった』


『あらら、じゃあ、私たちは手分けして駅周辺を探しますね』


 しかし、二人は未だに付き合ってくれるという。


『助かる』


 俺は、そう返すも心の中では大きく落ち込んでいた。


どうしよう、当てが完全に外れた、、、ッ


 隼と今まで行った場所で、隼が隠れそうなポイントなどもう思いつかない。こうなったら、町中を探し回る他ない。俺は焦りと共に足を速めた。額の汗を拭う。暑さだけのせいではない。いやな汗だった。


 開始から1時間後、今だ見つかったとの報告はない。俺は、益々焦っていた。付き合ってくれている彼女たちに申し訳が立たなかったのもある。そして、あれほど一緒に遊んだ隼が分からなくなっていた。


 さらに、三十分後このままでは拉致が開かない、ということで俺達三人は一度合流して成果を報告し合うことにした。地図のアプリを開き、三人でのぞき込む。


「それで、はどこを探したんだ?」


「……」


 早速、本題に入ろうーーとしたのだが、彼女は俯いたまま返事をしない。


、どうした?何かあったのか?」


 心配になったので、もう一度呼び掛けた。しばらくして、顔を真っ赤にした彼女が顔を手で仰ぎながら答えた。


「……すいません何でもありません。私は、駅の東側を主に歩いていました。結構、美味しそうなお店とか会ったんですよっ、ほらこことか」


「あっほんと」


 それにしても、終ぞ何に対する反応かわからなかったが、気にしてほしくなさそうなので放っておいた。二人は、今度言ってみようなどと楽しそうに話している。正直、二人にとってはこんな作業退屈だろうと思っていたのだが、、、優しい子達だ。


「じゃあ、後藤さんはどの辺を探したんだ?」


「私は北を見てたんですが、やはり見つかりませんでした」


「悪いな、二人とも。こんなつまんないことに付き合わせちゃって」


「いえいえ、意外とこうやって町を歩くのも楽しいもんですよ」


「はい、新しい発見がたくさんで」


「そうか、無理しないで帰っても良いんだからな」


「いえいえ、せっかく隠れたのに


 飛田あやが遠い目をしながら、やけに実感のこもった声で言った。


――ん?


 だが、俺はその言葉に妙な引っかかりを覚えた。


「隠れるのに、見つかってほしいのか?」


「そりゃ、そうですよ。私なんて、小学生の頃絶対に見つからないだろうって隠れてたら皆帰っててトラウマになりかけたんですから」


「ですね、この範囲だと本気で隠れたら見つかるわけないですし」


たしかに――そうだ


 ただでさえ、この広い区間の中で、本気で見つからないようにするならいくらでも方法がある。だが、相手は隼だ。たとえ、絶対に見つかりたくないとはいえ個室や普通探さないような場所に隠れるだろうか。


いや、待て――


果たして、隼は、、、


――


 このゲームに乗ってきた時点で、それは嘘だと分かる。なぜなら、本当に言いたくないのであればそもそも勝負しないからだ。


 見つけて欲しい、と仮定すれば隼はどこに隠れるのか。俺が、隼の立場だとすればどこに?


「……わかった」


「「えっ」」


 二人は俺をじっと見つめた。


 俺は急いで、荷物をまとめると二人にいった。


「悪い、ちょっと一人で行って来る。このお礼はまた今度するから」


「いやいや、今日は私たちのお礼なんですから」


「じゃあ、今度二人には先輩として何かおごってあげる」


「そういうことなら……」


「じゃ、また」


「あっちょっ……いっちゃった」


「いっちゃったね」


「どうする?追いかけちゃう?」


「だめだよっ、たぶん大事なことなんだから」


「えっ、かくれんぼに勝つことが?」


「もうっ、あやちゃん!」


 二人は、走る交の後ろ姿を眺めた。




 俺は、走ってあの場所へ向かった。あり得ないと思っていたのだ。まさか、いつもの公園などとは。そんなの、まるで見つけて欲しいといっているようなものではないか!


 ただ、仮に俺がこの町を出るとして、最後に見たい景色もやはりそこしかないのだ。


 時刻は十八時半を過ぎ、そろそろ日が沈み行く時間帯であった。


 そして、、、


――彼はベンチに座っていたのだった。


「みつけた」


「……おそいよ、こう

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