第二話




「初めまして、1-3の飛田です。図書委員の子が休んだので、代理として来ました」


 眼前の美少女が、明るい声で名乗る。飛田あやは、顔だけではなく声も可愛かった。それに、礼儀正しい。


「こ、こちらこそ。2-3の差波交さしなみこうです。よろしく」


 思わず、声が上ずる。


恥ずかしっ


 顔が赤くなっていくのを自覚しつつも、何とか返した。


「あっはい、よろしくお願いしますっ」


 偶然にも、かの有名な美少女と一週間同じ委員として過ごすのだ。俺も男の端くれ。何かしらの期待が全く無いといえば嘘になる。が、そんな思いがものの5分で消し飛ぶとはさすがに予想外だった。


「私っ、今まで出席番号が25番より前になったことないんですよっ!」


嘘だろ……ッ!?


 この短期間に、二度も衝撃を味わうとは思いもよらなかった。


「それがですねっ、今回は21番!新記録!にゅーれこーどってやつかなっ」


こんなに見た目が良いのに……ッ


「次は、19番に挑戦ですっ……あー、でもなぁ、その前に20の壁があるんですよねぇ」


――残念美少女だなんて!


 初めは、小さな異変だった。ああ、この子よく笑う子なんだなあ。その程度だ。


 しかし、この美少女――なんか常にヘラヘラしているのだ。


「あっ、本借りるときのパソコンってこんな感じなんだぁ、えへへ、知りませんでしたよっ」


「そ、そう……」


朝礼の時とイメージが違う……


 朝見たときは、もっと可愛さの中にも凜々しさがあるというか、知性を感じたのだが、、、


 いや、悪い子ではないのだ。仕事も真面目に行い、変に偉ぶった態度もとらない。こちらが自身を棚に上げて、勝手にイメージを押しつけただけなのだ。


「……」


「ん?なんです?」


 デフォルメがにへら顔だった。


良い子なんだけど……なんかアホっぽいんだよなぁ






 それから一週間。しかし、人間慣れれば慣れるものである。飛田あやの大きすぎるギャップにもなんとか対応できるようになり、むしろ会話が弾んだ。


 今まで、何かとツッコミに回ることが多い人生であったが、彼女はよくツッコんでくれるので新鮮な体験が出来た。


「――先輩っ、聞いてます?」


「……たいやきどっちから食べる話だっけ?」


「違いますっ!この本なんですけど……ちなみにどっち派なんですか?」


「腹」


「まさかの三択!?……普通、頭かしっぽじゃないですか」


「そんなことより蔵書点検しに行こう」


「先輩から振っておいて!?」


 このように、彼女はノリが良く、俺とのつまらないだろう会話にも、ちゃんと付き合ってくれた。元々、かなりの美少女だ。加えて接しやすい性格。最初は驚くかもしれないが、なるほどこれはモテるはずだ。最近モヤモヤすることが多い上に、元来の防御力の低さも相俟って、好意を持つのにそう時間はかからなかった。


 駅から高校までの通学路や食堂、ふと窓から見下ろしたときなど、気付けば普段の生活で彼女を目で追ってしまうようになってしまった。


「ふっ、世界が輝いて見えるぜ」


 告白する勇気はないが、こんな毎日も良いかなと思っていた。


――要は少し浮かれていたのだ。または、最近見たボーイミーツガール系アニメの影響かもしれない。




 良い夢は直ぐ覚めるものだ。俺は思い知る。


 日直最後の日、いつものように職員室へ向かう。相方は寝坊した。曰く、


『俺の分まで楽しんできてくれ』


とのことだ。ふざけたやつである。トーク画面に怒っているスタンプを送ろうとしたその時だった。


「ん?」


 足下に何か落ちている。


手紙……ラブレター?


 ピンク色の便箋には、可愛らしい丸文字で、


『小林先輩へ』


と書いてあった。


 小林先輩ときいて真っ先に思い浮かぶのは3年の先輩だろう。イケメンで高身長。当然サッカー部で、これまた当たり前のようにエースだ。もう全部盛りである。むしろ、一周回ってありきたりだ。


朝から嫌なものを見たぜ――というかこんなの絶対落としたくない物なんじゃ……


 拾ったは良いものの、どうしようかと迷っていると、前方から勢いよく女の子が走ってきたではないか。目線を上げると、その少女は飛田あやだった。


「ああ!せ、先輩っ!それっ――!」



――冷や水を浴びせられた気分だった。


 尋常じゃない焦り具合を見るに、飛田あやがこの手紙の落とし主だろう。


「……あーこれ、飛田のか。気をつけろよ、大切な物なんだろう?」


「ご、ごめんなさいっ!あと、ありがとうございます!!」


 良かった~、と心底安心した様子の飛田あやを見ると、無性に苛立った。


その熱が、気持ちが、ぶつける相手がなんで、、、っ!


 手紙を受け取った飛田あやは、急いでいるのか慌ててその場を去って行った。


 世界が、一息に色を失った。


 そこからは、断片的な記憶しか無い。





 朝礼が終わったとき、飛田あやが小林先輩に話しかけているのを見かけた。



 昼休み、小林先輩が告られていたと、クラスメイトが話していた。



 放課後、図書室に小林先輩が来て、飛田あやと楽しげに会話していた。



 図書委員の仕事が終わると、小林先輩が迎えに来た。



 教室で帰宅の準備を進めていると、2姿














――何を勘違いしていたんだろう


 窓に映る自分がひどく滑稽に見えた。

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