41・目が覚めた先
地獄の炎に焼かれるような苦しみを味わった後、目が覚めたらそこは知らない部屋だった。
少なくとも俺の部屋じゃないことは確かだ。家具の配置とか、間取りとかが全く違う。かといってあのぼろ小屋じゃないし……本当にここはどこなんだ?
畳の上でずっと寝てたからか、身体が少し痛い。引き戸を開けても身に覚えが……いや、思い出してきた。
ここは多分城の中だ。あの天狗の大男のところの。
その場で生き返るわけじゃないのはわかってたけど、てっきり自分の部屋かあのぼろ小屋で目を覚ますかと思ってただけに混乱してしまった。いまいちどこで生き返るかわからんな。
部屋から出ると仰天した顔の男が俺を見ていた。
「あ、あんた……!?」
俺のことを知ってるみたいだけどこいつは誰なんだ? 全くわからん。
「……誰だ?」
「いや、あんたこそいきなり現れて誰だよ! そこは空き部屋だったはずだぞ!?」
ああ、違うのか。知らない奴がいたから驚いてたってことか。
「……悪い。俺もここで寝るつもりはなかったんだが――」
と、ここまで言ったのはいいものの、奴の目は疑いでいっぱいだった。下手なことを言えば刀を抜かれて面倒な事になる。
「俺は出鬼。月白家に身を置く者だ。身分は師である始道がしてくれるはずだ」
「月白様の……?」
「疑うなら本人に直接聞けばいい。ここの当主も俺のことを知ってるはずだしな」
名前は忘れたが、とりあえずこれで意味は通じるはずだ。
「……聞いてくるからここから動くなよ」
「わかった」
怪しいものを見るような目で俺を見ながらゆっくりと後ずさりながら離れていく。警戒する気持ちはわかるが、少しは信用してほしいもんだ。
――
あの後しばらく待って、さっきの兵士が俺を迎えにきた。しっかり確認が取れたようで、今は天狗の大男と爺さんが集まってる部屋に案内されたってわけだ。
目の前には仏頂面の爺さんと複雑な顔をしている大男。そして二人を前に俺が正座してるって形だ。
小一時間くらいあらましを説明して、爺さんたちが聞いてくるのを補足して……って感じで長話をする羽目になった。そのおかげか爺さんたちも多少納得してくれたようだ。
「……つまり、城に潜入したはいいが、見つかってお前が囮になった。役目を果たしたから早々に帰ってきた。そう言うのだな?」
「まあ、そうとしか言えないんだが」
生き返ることも言った方がいいかもしれない。爺さんなら信じてくれるだろう。だけど、なぜか今じゃない気がした。
「で、最後に出たお前がなぜ一番最初に帰ってくる? 他の者はまだ帰って来ぬというのに」
「あー……夜通し走り続けたか……うん、悪かった」
途中まで言いかけたけど、爺さんの目つきが鋭くなっていくからやめた。
「知らねぇよ。気づいたらここにいたんだよ」
「……本当か?」
「ああ。ここでもう一度嘘言おうってんならもっとまともなの考えるっての」
嘘は言ってない。実際俺もなんでここに来たのかわかったないんだし。
「……はあ。ならば他の者が揃うまで待機ということでいいな?」
「わかった。……あ、素振りしててもいいか?」
「それくらいなら構わん。風早殿もよろしいか?」
「城の内部にいること。兵士の目に届く場所にいること。それが守れるならば多少自由にしてもよかろう」
その言葉を聞いてほっとした。待機が部屋の中で動くなってんならそれは無理な話だ。時間があるなら少しは何かしておきたい。
「助かる」
「素振りも良いが、お主はもう少し他人に興味を持て。朱鎧だの三つ目だの言われても誰かわからん時がある」
「んなこと言われてもなぁ」
特徴は捉えてると思う。忘れないって確信したときは憶えておけるんだが……まああの朱鎧のことは名前を聞けば覚えられるだろうけど。
「……明日にはここを発ち、城攻めに取り掛かる。それまではゆっくり休んでおけ」
どこか諦めたようなため息を漏らしたのを聞いて、俺は部屋から出た。
元々情報収集後は本隊に合流して攻める手筈だった。猶予として与えられた時間以上に早く帰った俺に混乱したんだろうけど、攻めは予定通りって訳か。
外に出て息を吸う。深く、静かに、ゆっくりと。
同じようにそれを吐く。何度も繰り返して、身体中に空気を行き渡らせるように。
刀を構え、鋭く下ろす。そのまま軸足を地面に縫い付けるように踏み締め、腰を沈めながら一回転。薙ぎ払い、上半身を起こすように刃を振り上げ、今度は逆方向から横薙ぎ。刀と身体が直線上に結べる位置で刃を止め、突きの姿勢。何度も激しく動き、身体の感覚を確かめる。
一呼吸。更に振るう。見えない敵に向かって心を向けて。
これが素振りだと言えば違うと言うやつも多いだろう。だけどそんなのは問題ない。俺にとって、これこそが素振りなんだから。
死んだ後の身体は問題ない。むしろ前より少し鋭さを増してるみたいだ。
……次の戦。またあいつは立ちはだかるだろう。あれを倒せるのは……知ってるやつで言えば爺さんと天狗の大男くらいのもんだ。他は知らん。壱太じゃまず無理だろう。
なら奴の相手をするのは俺の役目だ。二度も煮え湯を飲まされた。三度目はない。今度こそ俺が勝つ。
そう思うと刀を振る腕にも力が入った。
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