38・合流。そして……
華の奴らが何を考えているのか分かった以上、なるべく急がないといけない。
……が、そうは問屋が卸さない。一応最初にここにきたところに集合とはなっているが、何時までというのはなかった。もちろん、あまりに遅かったらその限りじゃないけれど、生存の可能性が少しでもある限り待機するのが一番だ。
だからそう急いでも仕方ないだろうな……とか思っていたら、突然鐘の音が聞こえてきた。かかん、かかんと一定の鳴らし方をしていて、聞くからに何かがあったことを教えてくれる。
「まさか……見つかったか?」
一瞬俺たちが……とも思ったけれど、どうやら違うみたいだ。それならもう囲まれていてもおかしくないからな。
「俺たちじゃないってことは……まさか?」
「壱太。お前は先に戻れ」
狐女と狸男が見つかったと考えると、俺たちも一刻も早くここから離れた方がいい。だが、それだと二人が捕まって捜索の手がこっちに及んだら? 万が一を考えれば足止めをするか、まだ間に合うなら助けることが出来る奴が必要になる。それなら動きの素早く陰に潜むことが上手い壱太がこの場を離脱するのが一番だろう。
「お前はどうすんだよ!?」
「この鎧ならある程度はまぎれることが出来る。それに誰一人情報を持ち帰れなかったらわざわざここに侵入した意味がないだろ」
「だけど!」
今は話している時間すら惜しい。すぐにでも動かなきゃならない。
「仲間が心配なのはわかる。だから任せろ。俺を信じろ」
「くっ……う……」
「俺よりもお前の方が持ち帰った情報を正確に伝えてくれるだろう。だから頼む」
「……死ぬなよ」
「当たり前だっての。俺はこんなところで死なねえ。絶対に、な。そういうお前も見つかるなよ? まだ敵の城から抜け出せたわけじゃねえんだからな」
「わかってるっての」
心配する気持ちはわかる。だけどな、壱太。俺はお前が知ってる『鬼』じゃなくなっちまったからよ。
ある程度は一緒でも根底が変わっちまった。だからこんなところで死ぬ事はありえねぇ。
真剣な顔をしていた壱太は、振り切るように夜闇にまぎれながら走り去っていった。それを見送り、俺は鐘の音が聞こえる城の中を走った。
――
壱太と別れて城の中を小走りしていると、兵士たちがせわしなく侵入者を探しているのが見て取れた。
既に鐘は鳴りやんでいるけれど、賊が侵入したことは城中に伝わっていることだろう。
中々人が来なさそうなところを重点に探す。暗がりを探したり、蔵の中を確認したり……。最初に行った酒蔵の裏に行った瞬間、刃物を突きたてられた。小さな刀が目の前で止まっている。
「俺だ」
「……あなた、は」
どうやら当たりだったみたいだ。右肩から血を流してる狐女がいた。狸とも一緒みたいで、こいつも怪我をしてる。
「なんで見つかった?」
「……向こうの――華の者達の乱波が襲いかかってきた。奴らめ、涼しい顔でこの城の内部に探りを入れてたみたい」
「そうか。そいつらは今は?」
「逃げられた」
不味いことになった。俺達はたまたま鉢合わせなかっただけみたいだけど、こうなったら三人とも逃げるのは難しいだろう。
それを二人も感じてるから難しい顔で困ってんだな。
「……こうなったら」
「俺が囮になる。その隙に全力で逃げろ」
「な、なにを――!?」
二人が驚いた顔で俺を見てるが、時間が惜しい。派手に暴れればこの二人が抜け出せる程度の時間は稼げるはずだ。
「……壱太は?」
「あいつはとうに逃した。情報を握ってるやつが誰も帰らなかった意味ないからな」
「なら貴方が命を賭けなくても」
「は、俺が? 何を賭けるって?」
馬鹿らしい。そもそも俺は何も掛けてない。そう、これは修行と同じだ。爺さんが相手じゃない多人数の修行。そんなもんに何を賭けるんだか。
「勘違いするなよ。俺は別にここで死ぬつもりは全くない。ただお前らより俺は強い。それだけだ」
それ以上二人の話は聞かず、俺は飛び出した。いつまでもぐだぐだと話していたらここも見つかってしまうからだ。
「おい、そっちに侵入者は――」
近くにいた男を問答無用で斬り捨てる。血が辺りに飛び散り、どさっ、と乱暴に物が投げ捨てられるようにそれは転がった。
「俺がその侵入者だよ」
返り血で濡れた格好じゃ、次はこんな簡単に仕留められないだろう。さっさとこの場を離れよう。あえて見つかるように走って、な。
酒蔵の方を一瞥した俺は、まっすぐ走り出した。これ以上、あいつらが見つかる前にもっと派手に暴れてやらないとな。
――
走りながらとりあえず城の門近くを目指す。そこまで行けばかなり離れるはずだ。潜んでる乱波はわかんねぇけど、他のは大体こっちに引きつけることが出来るはずだ。
「曲者がぁぁぁぁ!!」
刀を振り上げ襲いかかってくる兵士の頭を掴んで、思いっきり地面に叩きつける。その反動で刀を滑り落としたからそれを手に取り喉に突き立て、首を掻っ切る。そこに突きが飛んできたから刀の棟を手甲で逸らすように弾く。金属音と火花が散って、高揚感を覚える。
「あめぇんだよ!!」
奪った刀を乱暴に首に突き立てる。一番切り裂きやすい部分で命を奪いやすい場所だ。
「あ、がひゅ……」
喉から血が出て窒息してしまう。むごい死に方には違いない。
襲い掛かってくる兵士達を切り殺しているうちに、だんだん死体の山が築かれていく。
疲れはない。むしろ最高に調子がいい。気分も高揚してきて、どんどん動きに精彩さが増していく気さえする。
「これはどうなってるんだ?」
どれだけ兵士を殺したかわからなくなってきたその時、そいつらはやってきた。
華の奴ら。名前は……まあいい。強い奴らだってことさえわかればな。
奴ら相手に戦える。それがどんなにうれしいことか。目の前のあいつらにはわからないだろうけどな。
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