34・結界の密談
「それで……結界まで貼るということは相応の話がある、ということじゃな?」
こくりと頷いた大男は一つの巻物を取り出した。それを床に広げてみせると、中身は何かの見取り図だった。
「……城?」
「もっと言えば
「……どこの城だ?」
「儂らが戦っている
知ってる感じで言われても全くわからん。そもそもそいつにも城にも興味が湧かない。
「現時点で一番重要になっている拠点じゃよ。ここからこちらへ攻撃を行っておるからな。後ろに控える別の城から補給を受けておる。近くに谷が存在しており、崖沿いに築城されているから侵入に難く、どこから攻めるかある程度絞られる」
「なら、この見取り図だけあっても意味がないんじゃないか? それとも姿を消せる妖術でもあるのか?」
「そんな燃費の悪いもの使ってたら身が持たんわ」
ああ、一応あるのか。だったら今度どういう感じか教えてもらおう。じゃないと戦っているときに使われても困るからな。
「話を戻そう。今は崖下に対する意識が低い。元々意見の合わぬ者共の集まりになったのだから、必然と士気も低くなる。価値観も違い、いざこざも多く、戦によって疲労もしている。今ならば夜闇に乗じて作戦を決行しても問題はあるまい」
「やはり華の者達を招き入れた事が発端か。相変わらず先見の明がない者たちよの」
か……ってどんな国だっけ? ってなって思い出した。海を挟んである大陸を席巻している国だっけか。
「敵と手を組んだ奴らって
「
「あー……知らねぇな」
やっぱりな、みたいな顔をされた。爺さんもわかってるならわざわざ聞かなくていいだろうに。
「それは恐らく
「ああ。避けるときに面倒くさかったな。だけど呼び方が違った気がするんだが」
「それは向こうの呼び方だろう。天津原で分かりやすい呼び方をしたらこうなる」
そういやイシュティも最初は違う言葉を話していたな。
ああ、そういえば――
「その朱色の鎧の奴が『なんで俺の言葉がわかるんだ?』みたいなことを言ってたぞ」
「……彼らの言葉がわかるのか?」
頷くと大男は信じられないって顔をしていた。爺さんの方も驚いてるみたいだけど、そんなに悪いことなのか?
「……月白殿。まさか貴殿も彼が神憑きだと知らなかったのか?」
「いや、それはこやつを弟子に取る前から知っておった。が、あらゆる怪我すら治すことが出来ることしか知らなんだ。他に何か隠してることはないな?」
そもそも隠してなかったんだが。
「……多分な」
「随分曖昧よのう」
「仕方ねぇだろ。俺だって全部わかってるわけじゃないんだよ」
きっと内心頭を抱えてるんだろうな。駄目だこいつはって顔してる。
「ならば今回の城への侵入は尚更月白の弟子に出向いてもらわんとな」
ああ、なるほど。だから俺に話を聞かせてたのか。最初から城に忍び込めと。
「なんで俺なんだ?」
「まずはお主が見せたあの戦場での活躍よ。あの男を引き連れて暴れまわったからこそ敵にも損害を与えた。決して最良とは言えなかったが、わずかでも実を取ろうとする考え方は嫌いではない。月白の弟子であるならば多少の荒事もこなせるだろうて」
爺さんは少し自慢げだけど、俺の事なんか話してる暇なかったはずだ。ってことは……手紙でもやり取りしてたってことか。そうでもしなきゃ、この爺が俺をここに呼ぶわけない。
「それに加えて外国の言葉が理解できるのであればより重要度は増す。華の連中が何を考え反乱軍に与してるのかがわかる。上手くいけば交渉材料になるやもしれん」
「それが出来るのは今のところお主だけじゃ。わかるな?」
いまいちわからん。だけどそれが必要なことってことはわかったから頷いた。
「よし。まずは内部の状況を把握し、その後奇襲を仕掛ける。混乱に乗じて脱出し、本隊と合流。最終的に城を陥落する」
具体的な方向が決まったのはいいけれど、俺にできるのだろうか……。不安が脳裏によぎる。
「大丈夫だ。行くのはお主だけではない。こちらでも有能な手勢を送り出す」
「出鬼よ。お主の役目は華の者が話していることを仲間に伝え、暴れる。それだけ考えればよい。お主は忘れっぽいから伝えることを必ず成し遂げるのだぞ」
随分信用がないけど……まあ、仕方ないか。一度覚えたら忘れないけれど、興味がなかったらそもそも覚えられないからな。
「わかった」
「よし。ならば作戦の決行は三日後だ。その間に共に行く者との顔合わせを済ませよう。少しは連携が取れるように、な」
この一部屋で行われた密談はそこで終わった。短い時間だと思ったけれど、気づいたら夜も遅くなっていた。少し腹が減ってきたし、随分長い間話していたみたいだ。
……まずは魔草でも食べておくか。
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