5・ぶちきれる鬼

 隣の村ってのは俺達がよく盗みやってる町の本当に近くで、歩いてても十分に行ける場所だった。

 あれから一つ目が怖気付くたびに殴って案内させたけど、奴らのところに近づく度に苛立ちが募る。


「こ、ここだ。この奥に……」

「あ? 本当なんだろうな?」

「ほ、ほほほ、ほんとうだ……!」


 そういう動きを死ぬほど教え込まれたのかってくらい首を縦に振る。なら間違いないんだろうが……どうみても大人どもが住んでそうなそれなりの家だ。長屋みたいな感じじゃない。


「はぁ? こんなところに俺達みたいなんが住めるわけねぇだろ」

「は、ははは、入ってみりゃわかるさ。出来るもんな……」


 また生意気な事を言い出したからぶん殴って黙らせた。間違いないんならやる事はただ一つだ。


「……どうすんだよ」

「正面から乗り込む」

「――! 正気か!?」

「当たり前だ」


 どうせ行くなら正面から堂々と行く。盗みと違うんだ。こそこそとする必要あるか。

 戸に怒りをぶちまけるように蹴りをかます。そのまま走って中に入ってまず目についたのが驚いた顔をした……なんかよくわからねぇ奴らが二人。


「お前ど――」

「黙れ」


 こちらとら話をしに来たわけじゃねえんだよ。横っ面をぶん殴って静かにさせると、もう一人が正気に戻って向かってきた。


「てめぇ!」

「おせーんだよ」


 のろのろとした拳なんかに当たるわけがない。逆に懐に潜り込んで足元を刈り払ってやる。情けなく倒れたそいつの背中を踏みつけ、腹を蹴っ飛ばしてやると黙ってしまった。


「……おっそろしいな。お前」


 後からのそのそとついてきた壱太の野郎はのびてる二人を見て恐れていた。


「はっ、これくらいで許してやってんだ。むしろ優しい方だっての」

「へー、人の家に勝手に入ってきて暴れ回ってんのが言うことかね」


 奥の方から声が聞こえてそっちを向くと大人の男がいた。壱太と同じで動物の顔をしてる。あれは……まあいいか。俺には関係ない。後は周りに俺らと近い歳の奴らがいて、にたにたと嫌な笑みを浮かべている。


「お前が言うことかよ。あ?」

「はっ、聞いた通り威勢がいい奴だな。流石『血塗れ鬼』と呼ばれるだけあるな」


 こっちの話を聞かない阿呆の事はどうでもいい。さっさとイシュティを助けるべきだ。見たところこっちにはいないみたいだし……二階か。


「おい、何無視してんだよ。せっかく俺が話してやってんのによ」


 苛立った様子の男だけど、それならこっちだって負けてない。土足で踏み荒らしてくれた礼をたっぷりしてやりたいんだからな。


「ちっ、これだから物乞い、盗みばっかの乞食連中は。大人の話を少しは聞けや」

「お前がそれほど立派かよ。なら飯屋のおっさんは天神様だな。盗まれても飯炊く分、わかってる」

「てめえ……」


「ははは、言えてら」


 こん中で笑い声を上げられる壱太はある意味大物なんだろうな。それが余計にかんに障ったのか、今にも殺してきそうな目でこっちを見てる。


「ちっ、状況のわかんねぇ餓鬼だな。てめぇら二匹で俺らを倒せるってか? ああ!?」

「そういきるなよ。弱く見えるぞ」


 自分を強く見せようとしてるのはわかる。俺だって無事じゃ済まないだろう。だけど、それでも引かない。


「おい、怪我する前に逃げていいぞ。勝手についてきた上に腕が折れたとか勘弁してほしいからな」

「はっ、誰にもの言ってんだよ。ま、後ろは任せとけよ。そん代わり前は任せた」


 壱太の言葉と同時に蹴破った戸の方からわらわらと群がってくる。


「はは、頭逝ってんのか? 今ならボコボコにするだけで許してやろうと思ったが、気が変わった。手足も動かせないほど痛めつけた後、あの女が変態どもの好きなようにされ――」


 ――ガァァァァァンッッッ!!!!


 苛々させる。本当に。

 近くで突っ立ってる阿呆共の頭を床にぶち込んで黙らせてやった。もう口も開かせたくない。


「俺も気が変わった。ここにいる奴ら全員、殺す」


 一度落ち着く。頭が冷えて、次の準備に入る。


「ったくよ、ぐだぐだ言ってねぇで……とっとと死ににこいやぁぁぁぁぁ!!」


 熱が入った。燃え盛る炎のように勢いよく飛び出して更に二人。頭から床に突き刺さる。近くで怯えてるやつの後ろ頭を蹴っ飛ばして、寄ってきた奴の顔のど真ん中に拳をぶつける。


「ちっ、おい! たかが一匹になに怯えてやがる! ぶち殺されてぇのか!?」


 男の声で正気に戻ったのか一斉に飛びかかってきた阿呆共。こいつらよく生きてこれたな。徒党組まなきゃ魔草食うしかない連中ばっかなんだろう。


「くそっ、鬼が! 死ねや!!」


 棒を持って襲いかかってくるそいつの攻撃を片手で受け止めてそのまま腕を回すように捻って棒を掴む。


「甘いんだよ」


 引っ張るとそのまま身体が前のめりによろける。流れで顔面を殴ってやるとあっという間に静かになった。


「ちっ、雑魚どもがぁぁぁぁぁ……!!」


 睨んでる長の男は随分甘い勘違いをしていたみたいだ。この程度の連中、何人集まっても俺の敵じゃない。

 さっき手に入れた棒をぶんぶん振った後、あんまりしっくりこなかったんで適当に手放した。


「……どういうつもりだ?」

「あ?」

「武器捨てるなんて、なめてんのか!?」

「ああ……」


 こんなんで殴りかかろうとするから弱いんだよ。


「脆いもん持ってても仕方ねぇだろ。使いてぇなら勝手にしろ。お前らにゃそれが似合いだ」


 俺らのようにボロい棒きれもって粋がってる連中だしな。


「馬鹿にしやがって……!」


 すっかり怖気付いた周りの連中を一人ずつ殴っていく。やり合う気力も失せるくらいなら最初から手を出してくんなって話だ。

 そいつらの情けなさを目の当たりにして、ようやくやつらの長が重い腰を上げた。


「おい鬼、雑魚相手にあまり粋がるなよ」

「その中の小山で見栄張ってる奴に言われてもな」

「……殺す!!」


 やっと降りてきやがった。流石大人だけあって、俺とは体格が違う。そのまま戦ったら不利になる。だけど、折れるつもりはない。


「出来るもんなら……やってみろやぁぁぁぁ!!」


 こいつだけはここで始末する。泣いても謝っても、必ず…….!!

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