第15話 ガルガーディン
儂の名はガルガーディン。
元は平民だったが魔導師の素養を認められ、魔導の塔へ足を踏み入れた元一般人。
様々な魔法、魔術を研究し、論文を発表し、開発をしまくっていたら、いつの間にかこんな地位にまで上り詰めてしまっていた哀れな老人だ。
ここまで出世しておいてどこが哀れだと笑う者も居るだろう。
だがしかし、儂は声を大にして言いたい。
恋人いない歴=年齢ですけどォ!? と。
開き直って、そんなモンいらんわ! と言っていた時期もある。しかし寂しいものは寂しい。
窓の外を見れば、幼い子供達が楽しそうに駆け回っているのが見えて、子供は良いなァなんも考えなくていいし無条件で女の子から可愛がられるから、と呟いたその時、儂は天啓を得た。
儂も子供になりゃいいんでね?
そんで、女の子から可愛がられりゃいいんでね? と。
ちなみに、この気持ちに疚しいものはない。
子供の姿になってあんなことやこんなことしたいとか、そういうものは若干しかないのだ。
儂に必要なのはそういう俗物的なアレではなく、癒しだ。
ジジイとかババアとかオッサンとかオッサンとかオッサンに囲まれた塔内に、癒しはない。
たまに来る若い女の子は、ガリ勉の堅物眼鏡キャラばかりで食傷気味だった。
ついでに、魔力容量が高い人間はめちゃくちゃ長生きなので、外見年齢と実際の年齢が一致しないから、外見年齢は基本アテにならんかったりする。
若く見えて若くねェとか詐欺だろ。
もっと物理的にキャピキャピした女子来いよ。
ガリ勉眼鏡も確かに可愛いが、もう沢山だ。
癒しが欲しかった。
それから儂は、魔導の塔での仕事の傍ら、子供になる為の魔法か魔術の研究を始めたのだ。
それが今から、えーと、30くらいだったから大体……20年は前になるだろうか。
すまんだいぶサバ読んだ。正確には48年と3ヶ月と8日と12時間45分7秒だ。
いや、細けェとこは嘘だ。数えてねェよそんなん。
もっと他に研究するモンあるだろと思うかもしれんが、ことの他この研究が楽しかったんだから仕方ない。
頑張れば願望が叶うかもしれないっつーのが良かったんだろう。
それに普通に他の研究もしてたよ。頑張ってンだよ儂ァ。
転機が訪れたのは、皇城の禁書庫に妙な童が入って行くのを見た時だ。
遠くから見ても分かる白金色の髪と金色の瞳からして、神童と名高い皇太子殿下だろう。
こっそり入るとかそういう雰囲気じゃなく、堂々と入っていく姿に興味を引かれた。
アレで許可なく入ってるんだったら相当肝の据わった童だ。
それにもしあんな魔窟に入ってぶっ倒れでもしたら、一体誰が助けるのか。
だから意外と面倒見の良い大人の儂は、童を追って禁書庫へ入ったのだ。
予想外だったのは、童が普通に禁書庫内を歩き回っていた事か。
普通の人間なら様々な禁書の威圧感で扉の前から動けなくなる。
魔導の心得があり、ある程度の抵抗力がある人間でも数分が限界。
そんな場所を年端もいかない子供が歩き回っていた。
怨霊や呪いの塊と視線を合わせている事からそれらが見えていない訳ではない。
だがそれに怯えている様子も、気にしている様子も一切なく、むしろどうでもいいとばかりに歩き回っている。
ていうか、そんなんと目を合わせたら普通は魅入られたり呪われたりするのに、全然そんな事は起きず、むしろ呪いの塊や怨霊に怯えられているようにすら見えて余計に面白かった。
もしかしなくてもこの国の皇太子って悪魔か何かが取り憑いてんのか、それとも悪魔そのものだったのか。
まあそんなモン儂としちゃどっちでもいい。
なかなかの魔力抵抗力と胆力に感心しつつ後を付けていれば、突然童の移動速度が下がった。
何かあったのかと思ったら、ただ疲れて移動速度が下がっただけだった。ウケる。
だから儂はそこで皇太子と接触してみる事にした。
結論としては、皇太子はただの、初恋を拗らせたタイプのヤンデレ美少年、だった。
このヤンデレっつーのは、大昔に突然現れた大賢者が遺した言葉の一つだが、これ以上にあの童を表す言葉は無いと思う。
頭の病気みたいに一方的に相手を想っていたり、狂気的な雰囲気な愛だったりとか、なんか大体そんな感じの人を表す言葉として今も使われている。
似たような言葉も多数あって、それらも世界中で使われているが、その語源がどういうものから来ているのか、その辺は文献にも載ってないからよく分からん。
それはさておき。
儂は童と共同で研究開発する事にした。
お互いになりたいものは違えど、同じような目的だったからだ。
驚いたのはこの童が、なにもかも規格外だった事か。
頭脳、思考速度、知識、記憶、魔力、それぞれ世間一般の七歳とは比べるのも可哀想なくらいだ。
その辺の一般成人男性よりも能力が高いんじゃなかろうか。
むしろ、こんなんがヤンデレとか目を付けられた子マジで可哀想、とまで思ってしまった。仕方ねェやな。
そこから楽しく研究に没頭して、楽しく開発して、魔法の使い方教えたりしてたら、あれだけ時間かかってた研究が進みに進んだ。
儂が今までやってたのマジでなんだったの、ってくらい進んだ。
まあ、今までは仕事の合間だったから進みが悪かったのァ否めない。
都合のいいことに、皇帝から『お前うちの末っ子の教師に任命しといたから』と言われて魔導の塔の仕事はほっぽってよくなったのも良かった。
研究し放題ってめっちゃ楽しい。
それと、ちゃんと話の通じる相手とのやりとりがこんなに楽しいモンだとも初めて知った。
出来上がった理論は完璧で、これ以上無いものになっていた筈なのに。
「なァんで失敗しちまうかなァ」
盛大に溜息を吐き散らかしながら、近くにあった魔力回復用の魔法薬の瓶を掴む。
歳を取ると魔力の回復が遅くなった。
悲しいなぁ、と自嘲しつつ蓋を開けて飲む。
「んっ?」
あ、やべ、間違った、これ小回復じゃなくて中回復の魔法薬だ。
これじゃ過剰回復しちまう、と思ったその時だった。
ポンッ、という軽い音と共に、視線が低くなったのだ。
「………………はァっ!?」
あまりの事に変な声が出たのだった。
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