第3話 防人の話③

「確かにあの家、なんか気持ち悪かったよね。起きている時はほとんど一階で過ごしてたけど、何かの用事で二階に上がる時、何かいる気がしてすごく怖かった。」

家は建てたばかりの新築の家なのに、明るいベージュを基調にした壁紙で一見とても明るいのに何故か一人でいると不安で落ち着かない。二階に居るなにものかの気配はT字路の道路に面した部屋で感じるのだった。不思議なことに他の部屋には何の気配も感じなかった。


私の話に息子は当たり前のようにうなずいた。

「そりゃ居たからね。」

「やっぱり。でも二階に上がると、その気配がシュッと下に降りていくんよね。」

「うん、降りてった。」

「アンタも感じてたんだ。」

私は少し落ち着かない気分になってきた。

「ねえ、もしかして何か見えてた?」

サラダを飲み下した息子はふと何かを思い出したようにあらぬ方に目を向けた。

「慰めてくれる人がいたよ。」

「慰めるって、何かつらいことあったの?」

「あの頃さあ、俺、死にたかったんだよね。」

「ウソ?アンタまだ幼稚園ぐらいだったでしょ。そんな小さい子がそんな事を思う?」

息子はムッとして、飲みかけていたコップをテーブルに置いた。

「思うよ。お母さん、あの頃ピリピリしてたじゃん。よく俺に八つ当たりしてたよ。」

息子と歳の近い弟は体が弱く、確かにあの頃の私はいつもピリピリしていた。親や親戚、友人、知人が全く居らず、唯一頼りの夫は仕事が忙しく相談するのも気を使う状態。それで私は孤軍奮闘の育児をしていた。自分は意識をしていなかったが、いつもそばに居た小さな息子に当たっていたのかもしれない。親として本当に悪いことをした。

「ゴメン。あの頃、私も結構、辛かったんよ。」

「それはもう良いよ。俺、あの頃は二階に上がって、あの人らによく遊んでもらってたから。」

「あの人ら?どんな人?」

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