ヒーローショーのお時間です!

 《黒の王》が片手をふるう。

「ぐっ!」

 ムチのように揺れた空気の波を、両手で受け止める。

 クロスした両腕の隙間から、こぶしを振りかぶる敵の姿が――

「があっ!?」

 ボディに強烈な一撃。

「が、ぐ、はっ」

 殴打。

 殴打。殴打。

 殴打。殴打。殴打。

 殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。

 無数の拳が身体をひどく痛めつける――

「おや。世界を守るヒーローがこの程度とは」

 フィニッシュとばかりに振り上げた右の拳に、力が集中し黒く輝いて、

「悲しくなるなッ!!」

 正拳と共に解き放たれた黒い波動が、身体を空の彼方まで吹き飛ばした、

「実に、あっけない――」


 ように見えた。

 

「すごいな、お前」

「!?」


 都市伝説級の《世界の危機》にしては、良くやる方だ。

 俺の残像を跡形も無く消し飛ばすとは。


「貴様、なぜそこにいる?」

「え? なんでって……」

「どういうことだ。貴様は確かに、世の拳が吹き飛ばしたではないか」


 どうやら勘が鈍いらしいから教えてやろう。


「今、お前が吹き飛ばしたのは俺の残像だよ」

「なんだと?」

 どこを見ている、そっちは残像だ! ……ってヤツだな。

「そこにあたかも居るかのように見せたんだ。お前もできるだろ?」

「ちぃッ!」


 《黒の王》の指先から閃光が放たれた。

 光は俺の身体を貫通し、手のひら程の直径の穴を空ける。

 穴からは大量の血液が流れ出る。


「ふはは! 油断したな」

「不意打ちもなかなかに上手いじゃないか」

「なッ!?」


 そこそこに速い閃光。

 俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。


「さて、次はどんな手品を見せてくれるんだい?」


 身体に空いた穴を超速再生しつつ、相手の次の手を待つ。


「舐めるなあッ!!」


 《黒の王》が片手を空にかざし、宙に無数の黒い光球が浮かぶ。


「やれッ!」


 片手をこちらへ突き出すと同時に、全ての光球が発射される。

 それから刹那の時間があったかどうか。

 全弾着弾の上、派手な爆炎が上がった。


「はあッ、はあッ、これで終わりだろ!」


 息切れしている敵の声が聞こえる。


「こんなもんかー」

「……嘘をつけ」


 俺の身体にも衣服にも傷ひとつない。


「バリアー! ってやつだな。ちなみに、受けた攻撃の威力は吸収して変換ができる」


 右手を頭上に上げ、白く輝く巨大な光球を創り上げる。


「こんな感じで」

「ッ!?」


 光球のサイズを見て驚いたのか、《黒の王》の表情がひきつっている。

 地上からは月くらいのサイズに見えるだろう。

 彼女らの目に綺麗に見えてるといいのだが。


「なに、死にはしないさ。ただ」


 敵の背後に異空間のゲートを開いておく。


「ここじゃない異空間に飛ばすだけだ。……俺に勝てるくらい強くなったら、また遊びに来い」


 ヒーローが強くなるには強い敵役が必要だからな。


「……世の最大の失敗は、相手の実力を推し量れなかったことらしい」


 何かを悟ったように、《黒の王》はニヒルな笑みを浮かべる。


「超人よ、首を洗って待っていろ」

「おお、そう来なくっちゃな」


 片手を突き出し、《黒の王》へ光球を放つ。


「必ずやお前を倒してやる! この世界に破滅をもたらすために!!」


 俺は《黒の王》の去り際の台詞を聞き届け、光球ごと異空間へ吹き飛ばした。


 夜空には一つだけの月が浮かんでいる。

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