黒の王

「世の側近ともあろうものが無様だな、《コリウス》」

「……《黒の王》」


 廃工場は崩れ去り、土煙の中から月を背にして現れたのは。


「我が名は《黒の王》。世界に破滅をもたらす者」


 その姿は漆黒のスーツを身にまとった青年。

 彼の頭上には天使の輪のようなリングが浮いており、しかしその色は漆黒に染まっていた。

 黒い天使。そんな見た目だった。


「我が部下をたぶらかしたのはお前だな、

「たぶらかしたつもりはないんだが……」


 やれやれ。差し向けたのはお前だろうに。


「俺の後輩を困らせてるのはお前だろ、《黒の王》」

「それは間違いないな」


 《黒の王》は口角の片端を上げ、不敵に笑う。

 ――刹那、地上へ向けた指先から光線を放った。


「きゃっ!」


 とっさに障壁を張り、光線から地上を守る。

 悲鳴を上げたのは、来夏らいかとやゆこを連れて逃げようとしていためぐみさんだった。

「逃げ場は無いぞ」

「……ッ」


 《黒の王》を見上げる恵さん。その肩はわなわなと震えていた。


「先輩、もう遅かったみたいです。彼は倒せません」


 彼女は絶望に足をすくめ、諦めを口にする。

 歯はがちがちと鳴り、絶望をもたらす黒い天使にただただ畏怖している。


「ははっ。恵さん、大丈夫!」

「えっ?」

「俺はこう見えて、欲張りなんだよ」


 俺の発言の意図が測りかねるのだろう、彼女は小首をかしげる。


「俺が愛する人も、愛する人が愛するこの世界も守る。もちろん、愛する後輩も」

「と、とばり先輩! ……なんで、なんで、そこまで……」

 ショートボブを揺らすその表情は、今にも崩れそうで。

「私、あなたを殺そうとしたんですよ!?」

 裁いてくれと、見放してくれと。そう訴えかけていた。

「簡単なことだ。俺のやりたいことだから。俺がそうありたいと願うから」

 何よりも自分自身のためだ。

「先輩だからな」


 気持ちが高まってきたところで、反重力を発生させる。

 身体が浮遊し、周囲の塵と共に上空へ。


「辞世の句でも読むか?」


 対峙する《黒の王》からは圧倒的な余裕を感じる。


「うーん、今は思いつかないから、ずっと後にでも思いついたら詠むよ」


 本当に思いつかないので、とりあえずそう伝える。


「ただ、お前に聞かせることは無いと思う」

「ふむ」


 身にまとう互いのオーラが激しくぶつかり合った。

 衝撃で大気が揺れる。

 二つの声が、重なる。


「さあ、ヒーローショーの始まりだ」

「では、蹂躙の時間を始めよう」

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