第15話「風のキーの所有者」

赤木はファイヤーヴィランの捜索を続けたが、何の手掛かりも掴めないまま数日が過ぎた。


ある寒い日の朝、直樹は事務所でホットコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。


その新聞の見出しには「激化するヴィラン犯罪!問われる警察の対応」と書かれていた。


内容も警察を中傷したような酷い記事だ。


「ったく……好き勝手言いやがって……」

その記事に直樹も不快感を抱いていた。


「おはようございまーす!」

美紀が元気に事務所に入って来た。

「どうした?なんか……やけにご機嫌だな」

直樹が不思議そうな顔をして言った。


「いや~この所暗い事件ばっかりに関わってたじゃないですか、こんな時だからこそ当たるんじゃないかと思って、商店街の福引きをやってみたんですけど……」

「なんだよ?勿体ぶらずに言えよ」


「ふっふっふっ~人気レストラン、カズビストロのお食事券が当たったんです~!しかも2枚!」

「マジか!?カズビストロって超人気のフランス料理のレストランじゃねぇか!」

「期限は年内いっぱい使えるんですねど……景気づけに今日行っちゃいません?」

「いいな!たまにはフランス料理でパーっと行くか!」

一気にテンションが上がる直樹。


と、そこに誰かが事務所の扉を叩く音がした。

「ん?はーい、どうぞー」

美紀が返事をすると扉が開きそこに立っていたのは……。


小学生位の女の子だった。

「ん?お嬢ちゃんどうしたの?」

美紀が少女に尋ねる。

「あの……探偵さんにお願いがしたくて……」

「お願い?お父さんかお母さんは?」

美紀の質問に少女は首を横に振る。

「お嬢ちゃん、お金あるの?」

美紀の質問にまた少女は首を横に振る。

「あっ……ごめんね……ウチもお仕事でやってるからお金を払って貰えないと仕事受けられないんだ……」

美紀はやんわり断る。

「いや……ウチは相談は無料でやってんだ。話聞く位いいだろ……」

そう言って直樹が立ち上がって少女の前にやって来た。

「お嬢さん……ご依頼の内容は?」

直樹は少女に目線を合わせ尋ねた。

「……お姉ちゃんを……助けて下さい」

「わかった……詳しく聞かせて」

直樹はそう言って少女をソファーに案内した。


「『依頼人の頼みを断るな』……か……お父さん、私まだまだだね……」

美紀はそう呟いた。


早速直樹は少女から話を聞く。

少女の名前は木下夏海(きのした なつみ)9歳。

依頼の内容は夏海の姉、春香(はるか)から手紙を預かっていてそれに書かれていた。

直樹がその手紙を見ると、春香は現在ストーカー被害に遭っていて恐怖で外にも行けなくなっていると言う。

警察にも相談はしたが、パトロールの強化程度の対応で大きな成果はないと言う。

そこで、岡本探偵事務所に身辺警護を依頼したいと言う内容だった。

直樹は手紙を読み終えると夏海に返した。

「ご依頼、承りました」

直樹がそう言うと夏海は微笑んだ。


その後、直樹と美紀は夏海と共に春香が待つ家に向かった。

「ここ!」

夏海がそう言って指差した先は古い木造のアパートだった。

直樹と美紀は言葉を失った。

「ねぇ、夏海ちゃん……さっきも聞いたけど、お父さんとお母さんは?」

美紀が尋ねると今度は夏海も答えてくれた。

「お父さんもお母さんも死んじゃったの……だからお姉ちゃんと2人」


悪い事を聞いてしまった……

そう思い直樹と美紀は顔を見合わせた。


直樹は周辺を警戒しながら夏海に家に入る。

「お姉ちゃ~ん」

夏海が声を掛けると奥の部屋から姉、春香が出てきた。

「お姉ちゃん、探偵さん連れて来たよ」

「……ありがとう夏海……こっちおいで。探偵さんもどうぞ」

この部屋には玄関を入ると台所と6畳の一部屋、それにトイレと風呂があるだけだ。


こんな小さな部屋で姉妹2人が細々と暮らしているのかと思うと正直驚きを隠せなかった。


奥の部屋で改めて話を聞くと、春香は数週間前からストーカー被害に悩まされており、スマホには非通知でどこかから電話が1日の内に何度も掛かってきたり、四六時中誰かに見られている感覚もあると言う。

最近はその頻度も増して来て恐怖で学校にもバイトにも行けてないと言う。


このままではこの姉妹の日常生活にも影響が出てしまう。

一刻も早い解決が求められた。


直樹は早速大家さんに許可を取りアパートの周辺に、監視カメラを数台仕掛けた。


その間、美紀は夏海を連れて近所のスーパーに昼食の買い出しに行っていた。

「へぇ~じゃあ普段は夏海ちゃんがお買い物をしてきて、ご飯はお姉ちゃんが作ってくれるんだ」

「うん、でも……最近お姉ちゃん元気無かったから……」

「大丈夫!直樹さんがきっと犯人を見つけてくれるから!あっ、そうだ。今日は夜も夏海ちゃんとお姉ちゃんが元気になれる様に私が美味しいご飯作ってあげる!」

「本当?」

「うん!」

そんな話をしながら帰って行く。


だが、そんな2人の前にヴィランが突然現れた。

そのヴィランは誰もが嫌うあの虫の姿をしたコカローチヴィラン。

「ヴィラン!?夏海ちゃん逃げるよ!」

美紀は夏海の手を引いてその場を離れる。

美紀は逃げながら直樹に電話をする。


直樹は美紀からの電話で直ぐに現場に向かう。


その頃、神坂はとある男と会っていた。

「……お話は以上です……契約されますか?」

「いいねぇ……あの人の為なら協力はするよ?僕のキーを取り戻してくれるならね」

この男の名は六ツ木幸平(むつき こうへい)25歳。

「ええ……必ず取り戻しましょう……では宜しくお願いしますよ」

そう言って神坂は去っていく。


そして、美紀と夏海は逃げ続けるが、路地に入った所の行き止まりで追い詰められる。


(どうしよう……夏海ちゃんだけでも逃がさなきゃ……)

美紀は必死に考えた。

辺りを見回すが周りに役に立ちそうな物は何もない。


コカローチヴィランが美紀と夏海に迫る。

そこへ直樹が到着。

直樹はコカローチヴィランに飛び掛かる。

そして、直樹がコカローチヴィランを取り押さえている間に美紀は夏海を連れて逆方向に逃げる。

2人を避難させると直樹はコカローチヴィランを蹴り飛ばした。

「ったく……コイツ見た目最悪だな……変身!!」

エクスカイザー登場。

エクスカイザーがコカローチヴィランと戦う。


しかし、コカローチヴィランは飛行して逃走を図る。

「逃がすかよ!」

エクスカイザーは『ウィンドキー』を使い右手に風の力を、宿した。

『サイクロンフィスト』

エクスカイザーの技が炸裂しコカローチヴィランを地上に落下させる。

「よし、トドメだ!」

だがその時、突如火炎がエクスカイザーを襲った。

「うわぁぁぁ!?」

エクスカイザーは火炎攻撃からなんとか抜け出し振り向くと、そこにはファイヤーヴィランが立っていた。


「お前か……」

「フッフッフッ……風のエレメントキー……返して貰う」

そう言うとファイヤーヴィランは問答無用で襲い掛かって来た。

「うわっ!?コイツ!?」


その隙にコカローチヴィランは逃走した。


ファイヤーヴィランの攻撃が、容赦無くエクスカイザーを襲う。

「クソッ!?」


エクスカイザーは『EXキー』を取り出すが、ファイヤーヴィランはそれを使う隙すら与えない怒涛の攻撃で攻め立てる。


そして、ファイヤーヴィランがエクスカイザーを蹴り飛ばす。

「ぐぁっ!?」

倒れ込んだエクスカイザーにファイヤーヴィランが迫る。

「返して貰うぞ……風のエレメントキー……」

ファイヤーヴィランはエクスカイザーから『ウィンドキー』を奪って去って行く。

「ま……待て……」

だが、エクスカイザーはそこで気を失う。


コカローチヴィランから逃げて家にたどり着いた美紀と夏海はホッとしていた。

「お帰りなさい……どうしたの?」

春香が奥から出てくる。


美紀は春香に事情を説明した。


「そうでしたか……妹を守って頂き本当にありがとうございました」

「いえ、私は何も……それより直樹さん遅いな……連絡ありませんか?」

「いえ、何も……美紀さんから電話があって出ていったっきり……」

「私、ちょっと探して来ますね」

そう言って美紀は直樹を探しに行った。


その頃、神坂は六ツ木の所へ戻っていた。

「はい、取り戻して来ましたよ」

そう言って神坂は六ツ木に『ウィンドキー』を渡した。

「へへっ……コイツさえ戻れば俺には怖い物なしだぜ!」

そう言って六ツ木は自身の体に『ウィンドキー』を差した。

六ツ木はウィンドヴィランに変身。

「コイツで一暴れしてやるぜ……まずは、俺からこのキーを盗んだあのこそ泥野郎をぶっ殺してやる!」

「暴れるのは構いませんが、我々の計画のお手伝いは忘れないで下さいよ?」

「ああ……わかってるよ……」


そこへコカローチヴィランが飛び込んで来た。

「幸平さん!助けてくれ!」

「ああ?俊雄じゃねぇか、どうした?」

コカローチヴィランは変身を解除。


その正体は身なりの汚い若い男だった。

(うわっ……なんだコイツ……コカローチのキーを持ってたがピッタリじゃないか……)

神坂は心の中でそう思った。


「俺、今好きな子がいるんだけど、その子に近付こうにも邪魔が入ってよ……幸平さんの力を貸してくれ!」

「ほぉ……面白そうじゃねぇか……丁度一暴れしようと思ってた所だ」


美紀はコカローチヴィランに襲われた現場まで戻り直樹を見つけた。

「直樹さん!直樹さん!」

必死に呼び掛ける美紀。

すると、直樹は目を覚ました。

「美紀……俺は気を失ってたのか……」

「大丈夫ですか?」

「ああ、それより早く戻ろう」

直樹は立ち上がり美紀と共に夏海達の家に戻る。


アパートに戻って部屋のドアを開けるとそこには信じられない光景が広がっていた。

部屋は荒らされ夏海が一人でうずくまって泣いていた。

美紀が夏海に駆け寄る。

「夏海ちゃんどうしたの?……お姉ちゃんは?」

「さっきの……怪物がお姉ちゃんを連れてった……」

そう言って夏海はまた泣いた。

「さっきの怪物って……」

「あのヴィランが……春香さんのストーカーだったんだ……にしても……いきなりこんな、大胆な手に出るなんて……」

「許せない……」

「美紀、これは明らかに誘拐事件だ。警察に連絡を」

「はい!」


その頃、ウィンドヴィランとコカローチヴィランは春香を連れて逃走していた。

「さっすが幸平さん!やりますね!」

「バーカ、お前のやり方が回りくどいんだよ……始めから拐ってくりゃ楽だったのによ……まっ、陰キャのお前には難しいか」


春香はストーカーをしていたコカローチヴィランこと、俊雄と言う男と六ツ木に拐われた。


直樹達は彼女を救い出す事が出来るのか?


続く……。

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