第4話「消えた依頼人」

ジョーカーに倒された直樹は救急車で病院に搬送された。


「クソッ……まさかこんな事になるとはな……」

「でも……誰にやられたんでしょう?やっぱり例の連続殺人犯?」

「かも知れないな……」


そこへ連絡を受けた美紀がやって来た。

「三浦さん!」

「ああ、美紀ちゃん」

「直樹さんは?」

「今治療を受けてる」

「何があったんですか?」

山本が、尋ねた。

ピエロの姿をしたヴィランが女性を襲っていた事、それを止めに入って美紀が女性を避難させた所までを話した。

「じゃあ、その後にそのヴィランに……」

山本も流石に心配してるようだった。

その後女性は警察に保護され病院で手当てを受けたが、足に軽傷を負っただけで済んだ事を三浦が確認した。

「美紀ちゃん、今日はもう遅いしとりあえず帰ったらどうだ?疲れただろ?」

「そう……ですね……ここに居ても何も出来ないし……明日の朝また来ます」

「ああ」

そう言って美紀は帰って行った。


美紀は自宅に帰り父の仏壇の前で手を合わせた。

「お父さん……直樹さん……頑張ってるよ……だから直樹さんの事も守ってあげてね」


その日、警察は夜通しでピエロヴィランを捜索していた。

しかし、ピエロヴィランは姿を現す事はなかった。


-翌日-

朝早くから美紀は事務所に来ていた。

直樹の荷物を纏め入院の準備をしていた。

「ん~……こんなもんかな?着替えと……歯ブラシと……シェーバーと……あっ!退屈だろうから直樹さんの好きな漫画でも持っていってあげようかな!」


そこへ事務所の扉を叩く音が。

「はーい」

美紀が扉を開けると……。

そこには年老いた夫婦が立っていた。

「あの~依頼をしたいのですが?」

男性が口を開く。

「あ~……すみません……今日はやって無いんです……」

「ええ!?でも今日は定休日じゃないですよね?」

「ええ……本来ならそうなんですけど……今探偵が居なくて……急遽休みに……」

「そうか……困ったなぁ……」

「そうねぇ……他を探すしかないわね……」

夫婦は肩を落として帰って行く。

「あ、あの!」

美紀は思わず声を掛けた。

「はい?」

「もし良かったら……お話だけでも聞きますよ?ウチ、相談だけなら無料ですし」

夫婦は、顔を見合わせる。

「じゃあ頼んでみるか」

「そうね」

美紀は夫婦を招き入れる。


そして、美紀は話を聞く。

夫婦の名前は中村さん。

旦那の方は國武(くにたけ)(62歳)、妻の方は紀美子(きみこ)(58歳)。

2人は1ヶ月程前から連絡が取れなくなった1人息子の義夫(よしお)さん(30歳)を探して欲しいと言うものだった。

義夫さんは連絡が取れなくなる少し前から勤めていた会社を辞めると言っていたらしい。

義夫さんの会社はいわゆるブラック企業で残業代も出ないのに深夜まで働かされていたと言う。

精神的に限界を感じた義夫さんは会社を辞める事にし、約1ヶ月前に退社。

その時までは連絡が取れていたが、その後パッタリと連絡が取れなくなってしまったらしい。

義夫さんの友人や会社の同僚にも尋ねたが誰も行方を知らないと言う。

話を聞いた美紀は……。

「わかりました。ただ、そのご依頼をお引き受け出来るかどうかは探偵の判断になりますので少しお時間を下さい」

「どうか、宜しくお願いします」

夫婦は揃って頭を下げてお願いした。


夫婦が帰って行った後、美紀は病院に向かった。

病院に行くと、直樹はもう目を覚ましていた。

「おう、来てくれたのか」

「ええ……入院の準備して来ました」

「悪いな……」

そして、美紀は直樹に先程の依頼内容を相談。

「そうか……おやっさん良く言ってたぞ『事務所に来る依頼人は藁にも縋る想いで事務所の扉を叩くんだ。だから俺たちを頼って来てくれた人達の依頼を絶対に断るな』って」

「へぇ~でも、直樹さんは今動けないでしょ?」

「ああ、だからお前が調査してみろ」

「えっ!?」

「もちろん俺もここからサポート出来る事はするだからやってみろ!おやっさんの娘だろ!」

「うん……じゃあ……やってみます!」

美紀は早速中村さんに連絡。

アポを取って改めて話を詳しく聞く事にした。

明日中村さんの家で話を聞く事にした美紀は一層気合いを入れ、入念に準備を始めた。


-翌日-

約束の時間に中村さんの家にやって来た美紀。

中村さん夫婦が美紀を招き入れる。

そこでもう一度詳しく話を聞く美紀。

調査資料にする為に会話を録音させて貰う。

今回は昨日の相談の時の内容に加えて義夫さんが勤めていた会社の事を詳しく聞かせてもらった。

義夫さんの勤めていた会社は三井商事と言う商社で古くからある歴史のある会社だが、現在の3代目の社長になってから業績を上げる為として社員に過剰な労働を強いる様になっていた。

基本的には9時から17時までの業務としているが、その後社員だけは残業をし帰宅が深夜になる事も珍しくなかったと言う。

しかも、残業代は出ず皆残業をしていると言う文句で帰り辛くさせ、残業をしいていた様だ。

その話を聞き、美紀はまずその会社を調べてみる事にした。


話を聞き終えまずは直樹に報告。

録音した内容を聞かせた。

「どう思います?絶対この会社怪しいと思うんですよ」

「絵に描いた様なブラック企業だが……本題はそこじゃないだろ。義夫さんはもう会社を辞めてるんだ。この会社のブラックな実態を暴くんじゃなくて義夫さんのその後の行方を知ってる人が居ないか探るんだ!」

「そりゃあ……わかってますけど……」

「余計な事まで首を突っ込むなよ」

「はーい」


そして、美紀は三井商事に向かった。

まずは義夫さんと同じ部署の、営業部の人間を探す。

美紀は三井商事のビルに来ると受付で営業部の場所を聞いた。

しかし、アポも取っておらず取引先とは無関係の為通してくれる訳がない。


美紀は門前払いを喰らった。

「も~諦めないからね!」


作戦を変更。

退社時間を狙って出てくる社員に片っ端から声を掛ける作戦。

しかし、17時になっても一行に人が出てくる気配が無い。

「あれ~?本当にブラックなのね……」

18時になろうとする頃、ようやく1人の女性が出てきた。

「あっ、あの!少しお話を!」

「すみません……子どもを迎えに行かなきゃ行けないので……」

女性は急いでいた様子でそそくさと行ってしまった。

「あちゃ~……」

その後もチラホラとは退社する人達が出てきて美紀が声を掛けるが営業部の人間に当たらない。

そして、20時を回った頃……。

「あ~……お腹空いた~」

そこへまた1人女性が出てきた。

そして女性の方から美紀に声を掛けて来た。

「あの~……」

「はい!」

「あっ、ごめんなさい……さっき同期の子から営業部の人間を探してる人がいるってLINE貰ったから……ひょっとしてあなたかな?って……」

「あっ、はい!そうです!」

美紀とその女性は近くのカフェで話す事に。

女性の名前は下村 友美(しもむら ともみ)義夫の同僚の営業部の社員だと言う。

「ごめんなさい、お仕事で疲れてるのに……」

「それはお互い様じゃないですか?」

「はぁ、まぁ……」

物腰の柔らかい雰囲気の友美に美紀はなんだかホッとしていた。

「それで、何を聞きたいんですか?」

「あっ、私こうゆう者でして……」

美紀は友美に名刺を渡す。

その名刺には「岡本探偵事務所 探偵助手 岡本美紀」と書かれていた。

「探偵さん?」

「はい、あなたと同じ営業部に居た中村義夫さんの事をお聞きしたくて」

「ああ、中村さん……ね……」

友美はそれまでとは打って代わり暗い表情を浮かべた。

「どうしたんですか?」


その頃、別の所で事件は起きていた。

警察がやって来て現場検証を行っていたのは、中村さんの家だった。

「あ~……まさか夫婦揃ってこんな殺され方をするなんてな……」

三浦が呟く。

そう、中村さん夫婦は何者かに殺害されていた。

山本が夫の國武さんの財布から何かを見つけた。

「ん?これは?三浦さん!」

「ん?」

それは美紀の名刺だった。

「美紀ちゃん?」


その頃、美紀は友美から話を聞いていた。

友美さんは暗い表情を浮かべたまま話し出した。

義夫さんは会社を辞める数ヶ月前、取引先との接待でキャバクラに行ったと言う。

しかし、そこのキャバクラはいわゆる高級キャバクラで義夫さんが払える様な店ではなかったと言う。

しかし、営業部の課長の本島(もとじま)は経費から落とさず支払いを義夫さんにさせた。

その事で本島と口論になり、パワハラが酷くなった。

仕方なく義夫は借金を抱えその借金を返す為に必死に働いたが、いつしか義夫の体には限界が来ていた。

体調を崩し会社を休みたいと連絡を入れたが、本島は強制的に出社させた。

具合いの、悪い中働いた義夫は仕事中に倒れ病院へ運ばれたが、その時本島から出た言葉は耳を疑うような酷い言葉だった。

「使えん奴はいらん!さっさと辞めちまえこの給料泥棒!!」

その言葉が義夫を精神的に追い詰め義夫は会社を辞める事を決意した。

もちろんこんな事が世間にバレれば会社は信用を失いバッシングを受ける事になる。

本島もただではすまない。

そこで本島はこの一連の言動を口外しない様に部下達に口止めを命じた。

もし誰かに話せば今度は自分がどうなるかわからない。

そんな不安を覚え誰も口外する事はなかったと言う。


「酷い……すみません……そんな状況なのに話してくれてありがとうございます」

美紀は友美に頭を下げた。

「いえ……私もこのままじゃいけないと思ってましたから……さっき同期の子からLINEをもらって……チャンスかも知れないと思ったんです」

「友美さん、中村さんの事は引き続き探してみます。もし良かったらまた連絡下さい。ありがとうございました!」

美紀はそう言って会計を済ませて店を出て行った。


そこへ三浦から電話が掛かってくる。

「はい?もしもし?」

「美紀ちゃんか、君は……中村さんと言うご夫婦を知ってるね?」

「あっ、はい。今日依頼を受けた方です」

「そうか……じゃあちょっと署まで来てくれるか?」

「どうしたんですか?」

「中村さんご夫婦……殺害されたんだ……」

「えっ!?」


美紀は中村さん夫婦の殺害を聞かされ驚きを隠せなかった。


美紀はこの事を直樹にも報告した。

直樹は病院を抜け出しすぐに警視庁に向かった。


その頃、行方を眩ましていたジョーカーは……。

「ヒッヒッヒッヒッ……なかなか面白い事件だ……まぁ、少々娯楽に欠けるけどね……」

ジョーカーは何かを知っている様子……。


続く……。

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