第2話「エクスカイザーの拳」

実可子の部屋で見つけた写真に写っていたのはこの女性連続失踪事件の容疑者の一人に挙がっていた宮川誠二だった。


「この男が容疑者の一人?」

「ああ、今まで失踪した女性の内2人と面識があったんだが、実可子さんとも面識があるとは……」

「これで面識がある女性は3人……ますます怪しくなって来ましたね……」

「あの……この宮川って男の事詳しく教えて貰えませんか?」

「ああ……」

三浦は宮川誠二の事を説明し始めた。

宮川誠二(28歳)、都内でアルバイトを転々としているフリーターだ。

写真から察するに実可子さんとは大学の同じサークルの仲間だった様だが、他の2人の女性とはどのような関係なのか……。

一人は横田 唯(よこた ゆい)さん(21歳)宮川とは同じアルバイト先で働いている大学生だ。

そしてもう一人岸田 麻美(きしだ あさみ)さん(24歳)都内の商社に勤めるOLだが、宮川とは友人の紹介で知り合ったらしい。


「ふ~ん……じゃあ、岸田さんを宮川に紹介した友人ってのは?」

ここまでの情報を聞き直樹が聞き返す。

「ああ、岸田さんと同じ会社の村田と言う男でな。宮川とは高校の同級生らしい。もちろん彼にも話は聞いたが、宮川と岸田さんを会わせた後は2人でどんなやり取りをしていたのかは知らないらしい。まぁ、聞くのも野暮だと思ったんだろう」

「う~ん……そうなると、失踪する前に何か宮川とあれば流石に相談しますよね……」

「ああ……俺もそう思うんだが……」

更に三浦は宮川との接点が確認されていないもう一人の失踪者、長谷川 麻衣(はせがわ まい)さん(22歳)についても説明しだした。

長谷川さんは実可子さんの前日に失踪した女性だ。

宮川との接点が無い為、別の線で捜査していた所、もう一人の容疑者金田 勇(かねだ いさみ)(25歳)と言う男が浮上した。

この金田は長谷川麻衣さんの元恋人で別れた後もしつこく長谷川さんに付きまとっていたらしい。

仕事もしておらず長谷川さんの自宅に居座るいわゆるヒモだった様だ。

この男は長谷川さんからストーカー被害で警察に注意されていて、長谷川さんに恨みを持っていた可能性が高い。

長谷川さんと他の3人の失踪は無関係の可能性はあるが、立て続けに起きている為、警察は同一の事件として捜査していた。


実可子さんの部屋を見て他に手掛かりになりそうな物を見つけられなかった一行は部屋を後にした。


「森山さん、申し訳ありませんが、実可子さんの件でもう少しお話を伺いたいんですが、署までご同行願えますか?」

三浦がそう言うと……。

「わかりました……」

「じゃあ、俺達は森山さんからの依頼の調査を続けておきます」

「宜しくお願いします」

森山は深く頭を下げて直樹に頼んだ。

「それじゃあ、またな直樹君」

三浦と山本は森山さんを連れて警察署に帰る。


直樹と美紀は森山さんと実可子さんの会社に行ってみる。

もちろん警察の様な権力はない為大胆な調査は出来ない。

しかし、2人の同僚に話を聞ければ何か手掛かりが見つかるかも知れないと思ったからだ。


森山さんの会社は大手の食品メーカー。

本社のビルには働いてる人も多い。

直樹は退社時間を狙って会社から出てきた人達に片っ端から実可子さんの事を聞いた。

15人程聞いてようやく実可子さんと森山さんと同じ部署の人と出会えた。


その人は島田 宏生(しまだ ひろき)さん(33)歳。

短髪で眼鏡を掛けた背の高い男性だ。

森山さん達の部署の主任で森山さんが新人の頃、教育係をやっていて森山とは仲も良いらしい。

もちろん実可子さんと交際していた事も知っていた。


直樹達は島田さんと近くのカフェに入り話を聞いた。

「それじゃあ、実可子さんが行方不明なのは社内でももう広まっているんですね……」

「ええ……無断欠勤をする様な子じゃ無かったから余計に噂になりましたよ……森山も落ち込んでました。でもまさか探偵さんに依頼までしてたとは……」

「ええ……私も森山さんの力になりたいと思ってます。何か実可子さんの事知りませんか?どんな小さな事でも良いんです!」

「ん~……そう言われましても……遠野は人当たりも良くて誰かに恨みを買うようなタイプでもないですし……失踪する前日だって普段通り出社していて……変わった様子は無かったですしね……森山とも仲良く喋ってましたし……」

「そうですか……」

「あの、他に実可子さんと仲良かった人って?」

「ああ、女子社員には居ますけど、もう帰ってしまったと思いますよ」

「そうですか……では明日またこの時間に来ますので、その方に話を聞きたいとお伝え願えますか?」

「わかりました。明日話しておきましょう」


その夜、直樹と美紀は【居酒屋 源】で飲んでいた。

「へぇ~、ここがお父さん行きつけの居酒屋ですか~」

「ああ……良くここで飲んでたよ……弟子には取らないがおやっさんとの思い出がつまったこの店位奢ってやるよ」

「じゃあ、遠慮なく!」

そこに、店主の源(みなもと)こと、ゲンさんが声を掛けて来た。

「いや~しっかし総ちゃんの娘が来るなんてな!」

「あっ、どうもー父がお世話になってました」

「そういえば昔、総ちゃんが娘を連れて来た事あったが、それがあの時のお嬢ちゃんだったとはな」

「あっ、それ三浦さんにも言われました」

「あの2人は良くウチで飲んでたからなぁ。あっ、その時お嬢ちゃんオレンジジュースこぼして大変だったっけ」

「もう~そんな昔の話やめて下さいよ~」


その頃、事件は起きた。

失踪していた女性の一人岸田麻美さんが自宅近くのゴミ捨て場で遺体となって発見された。

第一発見者はゴミを捨てに来た近所の主婦。


早速警察の現場検証がされた。

「まさかこんな状態で発見されるとはな……可哀想に……」

三浦は遺体に手を合わせてそう言った。

「でも、岸田さんが発見された事で宮川の仕業の線が強くなりましたね」

山本が三浦に近付いて来てそう言った。

「ああ、宮川に話を聞く必要があるな……」


そして、三浦は直樹にも電話した。

「はい、もしもし?」

《直樹君か、事件が進展した。岸田麻美さんが遺体で発見された!》

「え?本当ですか!?」

あまりの急展開に直樹は思わず立ち上がった。

「どうしたの?」

直樹を見る美紀。

「直ぐに行きます。場所は?」

直樹は言われた場所をメモして電話を切る。

「ゲンさんご馳走さま!これで会計頼む!」

「ああ……」

「ちょっと……どうしたのよ?」

「事件だ。ちょっと行ってくる」

直樹は美紀を置いて行く。

「あっ!ちょっと待ってー!」

美紀が追いかける。

「おーい、お釣り……まぁ、今度でいいか……」

2人を見送るゲンさん。


直樹はタクシーを呼び直ぐに現場に向かう。


現場に着くと、三浦と山本が待っていた。

「三浦さん!!」

「おう、来たか……一応知らせとこうと思ってな……」

「まっ、探偵のでしゃばる事じゃないけどな」

「なんだと、テメェまだやんのか!!」

再び直樹と山本の喧嘩が始まる。

「はいはい、ストップストップ!」

美紀が仲裁に入る。

「それで、どんな状態なんですか?」

美紀が2人の喧嘩を止めながら三浦に聞く。

「ああ、遺体に白い蜘蛛の糸の様な物が巻き付いていたから恐らくこれによる絞殺だ」

「糸?」

「ああ、恐らく今回……ヴィラン絡みだ……」

三浦が険しい顔をして言った。

「ヴィラン?」

「ああ、人間業とは思えない様な方法や特殊な能力によって犯罪を犯す人間離れした怪物だ……この街では時々そういうのが出るんだ」

「そんなアメコミじゃあるまいし……」

「いや、三浦さんの言う事は本当だ。おやっさんが死んだのだってヴィラン絡みだ」

「えっ!?」

美紀は衝撃を受けた。

「それで……やはり犯人は宮川だと?」

「ああ……その線は強くなった……」

三浦達の連絡で現場検証が行われている。

だが、そこへ蜘蛛の姿をした怪物が襲い掛かって来た。

「うわっ!?なんだ!?」

蜘蛛の怪物スパイダーヴィランは証拠を消し去る為に警察に襲い掛かって来た。

「くっ……ヴィランか……全員現場から離れろ!!」

三浦の指示で鑑識班が引き上げる。

「お前……宮川か?」

だが、スパイダーヴィランは問答無用で襲って来る。

三浦と山本は拳銃で対抗するが、超人的な力を持つヴィランには拳銃は通用しない。

「三浦さん……」

直樹はその場を離れ物陰に隠れる。

そして、直樹はポケットから中央にXと書かれた箱を取り出した。

その箱を開けると柄の部分がXの鍵が入っていた。

直樹はその鍵を手にする。

「変身!」

そして、鍵を箱の側面の鍵穴に入れて回す。

その箱を腰の位置に当てるとベルトになり箱はバックルとなった。

すると、直樹の体は変化し、銀色のヒーローとなった。

エクスカイザーが登場した。

「何あれ!?」

美紀が興奮気味に指を差す。

「あれは、ヴィランを退治してくれる正体不明のヒーロー、エクスカイザーだ」

と三浦が説明。

「真実を見抜く正義の眼、エクスカイザー参上!!」

エクスカイザーがヴィランに向かって指を差しポーズと決めぜりふを決める。

そして、エクスカイザーはスパイダーヴィランと戦う。

スパイダーヴィランは糸でエクスカイザーを捕える。

エクスカイザーは必死に糸を千切ろうとするが、スパイダーヴィランの糸は簡単には切れない。

「くっ……このままじゃまずいか……」

スパイダーヴィランがエクスカイザーに迫る。

エクスカイザーは左の腰のホルダーに手を伸ばす。

「ぐっ……」

スパイダーヴィランは鉤爪でエクスカイザーを攻撃。

エクスカイザーは必死に攻撃をかわす。

そして、左の腰のホルダーにようやく手が届いた。

エクスカイザーはホルダーから新たな鍵を取り出す。

そのまま、その鍵をバックルの左側の鍵穴に刺して回す。

すると、『エクスソード』が出現。

『エクスソード』が糸を斬る。


エクスカイザーが使ったのは武器『エクスソード』を出現させる『ソードキー』だった。


エクスカイザーは『エクスソード』を手に戦う。

エクスカイザーがスパイダーヴィランを追い詰めて行く。

「もう終わりだ!正義の鉄拳を受けてみろ!!」

エクスカイザーの必殺技『ストライクフィスト』

エクスカイザーの必殺のパンチがスパイダーヴィランを倒す。

スパイダーヴィランの変身が解け姿を現したその正体とは?


「宮川……やはりお前だったか……」

宮川はその場で崩れ落ちた。

宮川はそのまま三浦達が連行し、警察署で取り調べを受ける事になった。


その後、宮川は自供し行方不明となっていた女性達は無事に保護された。

更に事件の全貌が見えて来た。

宮川は大学時代のサークル仲間だった実可子さん、アルバイト仲間の横田 唯さん、知人の紹介で知り合った岸田 麻美さんを誘拐した理由はそれぞれの女性に宮川は恋心を抱いたが、どの女性ともその想いは実らずその腹いせに3人の女性を誘拐し、順に殺害するつもりだったそうだ。


今回の事件は一人の男の行きすぎた感情が起こした悲劇だった。

しかし、行方不明になっていたもう一人の女性長谷川 麻衣さんに関しては宮川は全く知らないようで、やはり別の事件として捜査が続けられる事になったそうだ。


今回の調査の報告書を作成する直樹。

「よし……これでいいかな……」

そこに美紀がコーヒーを淹れて来た。

「はいコーヒー」

「サンキュー」

「ねぇ、私に探偵助手やらせてくれない?」

「探偵助手ねぇ……まっ、考えてはおいてやるよ……」

直樹はコーヒーを持ち、窓の外を眺めながらそう言った。


続く……。

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