探偵ヒーロー エクスカイザー

山ピー

探偵ヒーロー

第1話「その男、探偵でヒーロー」

薄暗い明かりの灯る店の中で、壮年の男性が若い男に語っていた。

「いいか?ボウズ、男の乾いた心を潤してくれるのがこの一杯の酒だ……。仕事の後のこの一杯が嫌な事も全て洗い流し俺の心に癒しを与えてくれる……まぁ、お前には10年早いだろうがな……」

そう語る壮年の男性を退屈そうな顔で見ているのがこの物語の主人公、工藤直樹(くどう なおき)(23歳)。

「って、こんな小さな居酒屋でカッコつけてんじゃねぇよ……」

そう、ここは小さな居酒屋【居酒屋 源(げん)】。

「ったく……お前はわかってねぇな……」

壮年の男性は呆れた様子で返す。

この人は直樹の師匠。

この近くで探偵事務所を営む私立探偵の岡本 総司(おかもと そうじ)(57歳)

そう、直樹はこの岡本総司の探偵の弟子をやっている。

しかし、この時はまだこの2人に壮絶な別れが訪れる事など、誰も知らなかった。

その事件が起こるのはこのあとすぐの事だった。


とあるビルの中に警報音が鳴り響く。

黒服の男達が慌ただしく何かを探していた。

「居たか?」

「いや、こっちには居ない」

「探せ!まだ近くに居るはずだ!」


物陰に隠れて居る総司と直樹。

「ハァ……ハァ……クソッ……しくじっちまったな……」

「おやっさん……すまねぇ……」

「バカ野郎……そんな事言ってる場合か……それより直樹……ここは俺が奴らを惹き付ける。お前はこれを持って先に行け」

そう言って総司は持っていたアタッシュケースを直樹に渡した。

「おやっさん……でもこれ……」

「俺にもしもの事があれば……事務所は頼んだぜ……その為に今日まで仕込んで来たんだからな……」

「え……?おやっさん……」

「行け!」

そう言って総司は黒服の男達の前に現れる。

「俺はここだ……」

「貴様……」

黒服の男達は総司に向かって銃を撃つ。

「ぐっ……あばよ……ボウズ……後は……頼んだぜ……」

総司は凶弾に倒れた。


「おやっさーん!?」

「居たぞ!!」

直樹も黒服の男に見つかった。

「くっ……」

黒服の男達は直樹にも銃を発砲した。

直樹は再び物陰に隠れる。

「クソッ……こうなったら……」

直樹はアタッシュケースのフタを開ける。


黒服の男達が直樹に迫る。

直樹はエクスカイザーに『変身』。

ビルを脱出し姿を消す。


-半年後-


ここは都内の雑居ビルの中にある岡本探偵事務所。

総司の遺言どおり、直樹はここで総司の意思を継ぎ探偵を続けていた。

生前の総司の尽力により、そこそこの依頼が来る探偵事務所になっていた。

とは言え直樹は師匠の総司程優秀な探偵とはまだまだ言えないが……。

そして、今日も誰かが事務所の扉をノックする。

コンコンコン……。

扉を開けて入って来たのは10代後半から20代の若い女性。

「あの~」

「なんだい?どんな依頼でも引き受ける。それが俺の流儀だが……」

「あっ……いや、依頼じゃなくて……」

「ん?」

「私を雇って欲しいんですけど」

「はぁ?」

これが彼女との出会いだった。

話を聞くと彼女は岡本総司の娘、岡本美紀(おかもと みき)(20歳)。

探偵だった父に憧れ探偵を目指しているらしい。

父との約束で20歳になったら弟子として認めてやると言われていて、20歳になった今日、はるばる事務所にやって来たらしい。

「ふ~んなるほどな……おやっさんの娘ねぇ……」

「父との約束なんです……父の弟子だった直樹さんなら分かってくれますよね?」

「おやっさんからは聞いてないが……まぁ、約束は大事だな」

「じゃあ!」

「帰れ」

「え?」

「探偵は遊びじゃない……おやっさんが居ればおやっさんの判断に任せるが、おやっさんが居ない今、俺が勝手に決める訳には行かないからな」

「そんな~……もう何年も前から約束してたんですよ~」

「そう言われてもな……俺はまだまだ弟子を取る様な身分じゃないし……探偵になりたきゃ他を当たれ」

「直樹さんの弟子になる気なんて無いんですけど……」

美紀は不満げな表情で言った。

「いいか?探偵の仕事ってのは危険なんだ。おやっさんの娘を俺の勝手で危険な目には逢わせられないよ」

「ちょっと~こっちにだって都合が……探偵になる為に就活もしないでこの道一筋でやって来たんですから!今さらどうしろと?」

「知るか。とりあえずアルバイトでもしながらまともな会社にでも入ったらいいんじゃないか?」

直樹は断固として認めなかった。

自分の師匠である総司の大事な一人娘を危険な目に逢わせるような事は絶対に避けたかったからだ。


そこへ、また一人誰かが、事務所の扉を叩いた。

「はい!どうぞ!」

美紀が勝手に返事をする。

「おい!コラッ!?」

扉を開け入ってきたのはスーツ姿の男性。

歳は20代後半から30代前半と言った所か……。

身なりの整った感じから見ると恐らくビジネスマン。

「あの~依頼をしたいんですが……」

男性は緊張しているのか弱々しい感じで声を掛けて来た。

「あっ、どうぞ、お掛け下さい。今お茶入れますね」

そう言って直樹は男性を座らせお茶を入れに行く。


まだ、暑いこの時期、冷たい物がいいだろうと思い冷えた麦茶を出した直樹。


改めて男性から名刺を渡される直樹。

男性の名前は森山 悟(もりやま さとる)(31歳)食品メーカーに勤める営業マンの様だ。

そして、直樹も名刺を渡す。

「改めまして、私立探偵の工藤 直樹です。それで、今日はどのようなご依頼で?」

「か……彼女を探して欲しいんです!!」


詳しく話を聞くと……。

悟さんは3ヶ月前に付き合い始めた会社の同僚の女性が1週間程前から連絡が取れず家に行ってみても応答が無いと言う。

もちろん会社も欠勤が続いていて、誰も彼女がどこで何をしているかを知らないと言う。


「なるほど……失踪ですか……」

「それは心配ですね……」

「あの……そちらの方は?」

「あっ!申し遅れました、私、探偵助手の岡本美紀と言います!」

美紀は元気良く挨拶するが……。

「いや、まだ雇ってねぇよ!!」

直樹のツッコミが入る。

「とにかく、まずは色々調べてみましょう。警察へは?」

「はい……一応捜索願いは出しました」

「そうですか……じゃあまず彼女の家に行ってみましょう」

「はい……宜しくお願いします」


こうして直樹と美紀は森山さんと共に彼女の家に早速向かう。


森山さんの彼女、遠野実可子(とうの みかこ)さんは東京都千代田区にあるワンルームマンションに住んでいた。


「ここが実可子さんの……」

「はい……」

「とにかく行ってみましょう」

実可子の部屋はこのマンションの5階の502号室だった。

エレベーターで5階まで行くと……。


直樹には見知った顔があった。


「あれ?三浦さん?」

「ん?おう、直樹君か……」

そこに居たのは三浦と言う刑事と部下の山本だった。

「何だ探偵、何しに来た?」

山本は直樹によく突っ掛かってくる。

「ああ?テメェに関係ねぇだろ?こっちも仕事なんだよ」

直樹も山本には喧嘩腰になる。

「おいおい、2人共止めろって。それより、直樹君は何しに来たんだ?」

三浦が喧嘩の仲裁に入る。

「ああ、ちょっと依頼で……探偵にも守秘義務があるんで詳しくは……」

「そっか……まぁ、そうだな。それで、そちらの女性は?」

三浦が美紀を見ながら言った。

「ああ、おやっさんの娘の美紀って言うらしい」

「初めまして!岡本美紀って言います!」

「え?あの美紀ちゃんか?いや~大きくなったな~!全然分からなかったよ!」

「え?私と会ったことあるんですか?」

「ああ、美紀ちゃんまだ小さかったから覚えてないか。美紀ちゃんのお父さんと俺は友達同士でね。良く飲んだものだ。一緒に美紀ちゃんを居酒屋に連れてきた事もあったんだよ!」

「へぇー!そうなんですかぁ!」

美紀との再会に盛り上がる三浦だが……。

「それで……そっちは何で?」

「ああ、すまん。こっちは事件の捜査だ。ここの502号室の女性が行方不明なんだが……どうも事件性がありそうでな」

「ちょっと三浦さん!?」

直樹に説明する三浦を山本が止める。

「え!?……森山さん……これは守秘義務とか言ってられそうにありませんよ……警察に事情を話しますが宜しいですか?」

「ええ……もちろんです……一刻も早く実可子を探して下さい!」

「どういう事だ?」

直樹は三浦達に森山さんの依頼で遠野実可子さんを探しに来た事を説明した。

それを聞いた三浦は関係者である森山さんにも事情を詳しく聞く為、情報を詳しく開示した。


実可子さんが失踪するよりも更に3日前から都内で20代の女性ばかりが連続で失踪する事件が続いていた。

その後、実可子さんが失踪し、家族が警察に捜索願いを出し捜査を進めている内に他の連続失踪事件と関係があるのでは無いかと踏んだ警察はこの失踪事件を担当していた三浦達捜査一課に捜査を回し、実可子さんを含めた4名の女性の捜索に乗り出していた。


「そうですか……じゃあ実可子さん以外にも3人もの女性が行方不明に……」

「ああ……最悪の状況も想定して我々が動いてる……」

「最悪の状況って……」

「とにかく部屋に入ってみよう」


三浦はマンションの管理人から合鍵を借りて実可子の部屋に入った。


もちろん中に実可子の姿は無かった。


玄関を入ると直ぐ目の前に6畳の部屋があった。

整頓された部屋はとても綺麗で実可子さんの几帳面な性格を物語っている様だった。


「ん~……荒らされた形跡はないな……強盗の線は無さそうだ」

三浦は実可子の部屋を見回しながら言った。


棚の上にいくつかの写真が飾ってあるのを見つける。

一つは森山と撮った写真だ。

恐らくはデートの記念写真だろう。

「実可子……」

森山はその写真を手に取り呟く。

「あっ!あんまり触らないで下さい」

「あっ……すみません……つい……」

森山は写真を素手で触った為、山本から注意されてしまった。

「素敵な彼女さんだったんですね……」

美紀が森山に話し掛ける。

「ええ……僕には勿体無い位の……」

「ん?こっちの写真は何ですか?」

「ああ、それは実可子の大学時代のサークルの仲間の写真だそうです」

そこに写っていたのは実可子さんと他男性2女性1人の4人の写真だった。


「だから勝手に触るなって!」

また、山本が注意する。

「ちゃ~んと手袋してるも~ん」

美紀はしっかり手袋をはめていた。

「ん?その男……」

三浦は写真に写ってる男に見覚えがあった。

「あっ!コイツ、宮川誠二(みやかわ せいじ)だ!」

「誰なんです?」

宮川誠二……この男はこの連続失踪事件の容疑者の一人に挙がっていた……。


続く……。

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