第9話 お別れ
2人の霊はしばらくの間固く抱きしめ合っていたが、意を決したのかあかりさんが抱擁を解いて立ち上がった。〝ごめんね琴音ちゃん。〟そう言ったあかりさんの頬を涙が伝った。そんなあかりさんに向けて琴音ちゃんはとびきりの笑顔で〝ううん、琴音はね、あかりちゃんの事が大好き!〟と返した。あかりさんをおもんばかる幼い琴音ちゃんの気持ちが僕の胸を打った。あかりさんは涙を拭うと満面の笑顔を作って〝うん、ありがとう。〟と精一杯の明るさを絞り出して応えた。そして静かに視線を僕に移すと頷いた。それを合図に僕は琴音ちゃんの手にそっと手を添え〝さあ、ママに会いに行こうか。〟と言った。琴音ちゃんは〝バイバイ〟とあかりさんに手を振った。するとあかりさんも笑顔で〝バイバイ〟と手を振り返した、しかしその笑顔は何かを必死に
琴音ちゃんの後について30分も歩いただろうか、僕は川沿いの道を歩いていた。琴音ちゃんはある場所まで来ると河原に足を踏み入れ、迷う事なく川の
琴音ちゃんとの別れを惜しんだ後、僕は携帯を取り出して現在位置を確かめた。報道で琴音ちゃんが行方不明になった川上の場所から、かなり下流に位置する場所だった。最後に僕は琴音ちゃんに合掌して〝ごめんね、もう少しだけ待ってて。〟と告げると近くの駅に向かっては速足で歩きだした。
駅前で公衆電話ボックスを見つけると僕は警察につながるダイヤルを回した。オペレーターの男性に〝遺体を偶然見つけた。場所は〇〇川の左岸。〇〇橋から300mぐらい上流の葦の茂みの中です。〟と一方的に伝えると電話を切った。公衆電話を出ると僕は帰宅ラッシュの人波に紛れて改札に向かった。途中、慌てて走る二人の警察官とすれ違った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます