第8話 寂しさの中で

 夕暮れ迫る公園に着くとそこに二人の女の子の霊が遊んでいた。都合よく二人の霊以外は誰も見当たらなかった。Sさんはおもむろに2人の霊に近づき〝こんにちわ〟と話しかけた。幼い女の子の霊がびっくりしてSさんを見ていた。そして年上の女の子が幼い女の子に近づき守るようにその肩に手をかけた。Sさんは自分の名前を名乗り、女の子たちの名前を尋ねた。女の子達は警戒しつつも名前を教えてくれた。虐待を受けた形跡がある女の子が〝あかり〟、幼い女の子が〝ことね〟と名乗った。『ことね』は行方不明になっている女の子の『琴音』という名前に一致するものだった。Sさんは他愛無い話を少しした後、僕を紹介し、本題に入るよう促した。


 僕は琴音ちゃんに〝ママが探している、ママの元に帰らないかい?〟と優しく語りかけた。するとあかりちゃんの霊に異変が起きた。そのシルエットが膨らむと同時に辺りが暗くなる。突然暴風も吹き荒れ始めた。しかし公園の外にある木々がそよぎもしていない、公園内だけに暴風が吹いているようだ。あかりちゃんをみると暴風に髪をなびかせてこちらを見ていた。〝1人にしないで〟という叫びが直接頭に響いた。僕はすぐそばにあったブランコの支柱に掴まって飛ばされないよう体を支えた。風はさらに強くなり、命の危険を感じるまでになっていた。その時、風の音に混じってお経らしき声が聞こえてきた。みるとSさんが片方の手でそばの街灯にしがみつきながら、もう片方の手を額の前にかざし一心にお経を唱えていた。しばらくの間、あかりちゃんとSさんのせめぎ合いが続いたが次第に風が弱くなり、終いには止んだ。気が付くとあかりちゃんの体は二十歳ぐらいの女性の姿に変わっていた。

 Sさんは肩で息をしながら〝ごめんね手荒なことして〟というと額の前にかざした手を静かに下ろした。僕は恐る恐る『あかりさん』に、琴音ちゃんの母親が琴音ちゃんは生きていると信じて探している事、そして琴音ちゃんの遺体が見つからない限り母親は気持ちの整理をつけられないと訴えた。

 あかりさんは僕の説明を聞き終えると目線を私から外して遠くを見た。何を考えているのかその表情から読み取ることは出来なかった、がゆっくりと琴音ちゃんに向き直ると一言〝お母さんに会いたい?〟と聞いた。琴音ちゃんは少しの間あかりさん見ていた。あかりさんは慈愛に満ちたとても優しい笑顔を浮かべていた。その表情を見て琴音ちゃんは安心したのかポツリと〝ママに会いたい〟と答えた。あかりさんは琴音ちゃんに近づくとしゃがんで抱きしめた。そして抱きしめながら〝ごめんねお姉ちゃん寂しくて〟と繰り返した。

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