第7話 相談

 僕はSさんに会うために二年前まで住んでいた街の駅に向かった。久しぶりに降り立った駅は何も変わっていないように見えた。僕は何気なく例の女性の霊が最初に佇んでいたホームのベンチに目をやった。

 改札を出ると見覚えのあるSさんの車が停まっていた。僕が窓をノックするとSさんは倒していたシートから飛び起き、欠伸あくびをしながら僕に助手席に乗るよう合図した。〝近くに喫茶店があるんだ〟それだけ言うとSさんはエンジンをかけて車を出した。


 駐車場のある喫茶店に車を停めるとSさんはさっさと降りて入口に向かって歩き出した。ウェイターが窓側の席に案内しようとしたがそこにはスーツを着崩した男の霊が座り、上目遣いにこちらを見ていた。Sさんにも見えているのだろう、店内を見回すと一番奥まった場所を指差して〝あそこいいですか?〟と了解を求めた。

 Sさんの向かいに座ると早速僕は本題に入った。家の裏の公園で二人の少女の霊を見たこと。一人には生前に酷い虐待を受けていた形跡がある事。そしてもう一人は先日家の近くの川で行方不明になった幼い女の子の霊である可能性が高いと考えている事。そしてその幼い女の子の霊とコンタクトして遺体のある場所を教えてもらい、遺体をお母さんの元に返してあげたいと思っている事を一気に話した。丁度そのタイミングでコーヒーが運ばれてきた。Sさんは二人の霊が一緒にいる時も様子や、マスコミから伝え知る捜査状況などの質問を僕にした後、考えを整理したいのかコーヒーを口にしながら静かに目を閉じた。そして目を開けると考えを口にした。〝このままではいけないのか。母親には酷な事だが遺体は誰かが見つけるに任せてはどうか〟と。僕は改めて何故ここまで自分が入れ込んでいるのか考えてみた。そして自分の中にあるもやもやしたものに向き合った時、その答えは見つかった。僕が本当に助けたいのは小さな女の子もさることながら、虐待を受けていた女の子のたましいで、だからそれができるSさんのところに相談に来たのだった。最初にそれが言えなかったのはSさんを巻き込む事への無意識な遠慮がどこかにあったのだろう。僕はSさんに虐待を受けて亡くなったであろう女の子の霊が幼い女の子の霊をいじめる事なく本当に可愛がっている事、幼い女の子の霊が成仏すればまた一人になってしまうであろう哀れを伝えた。そしてその霊を呪縛から解き、成仏させてあげる事ができるとすればSさんしかいないと訴えた。Sさんは視線を中空に彷徨わせしばらく考え込んでいるようだったが最後に〝今からその公園に行こう〟と言ってくれた。僕たちは喫茶店を出るとSさんの車に乗り込み僕のアパート裏の公園に向かった。

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