7 ヘルロンの洞窟 ②
4人は新しい空間に出てきた。
先ほどまでいた場所と同じように、ここも十分すぎるほど暗かった。フィーレを使いすぎるのもいけないが、前が見えないことも危ない。しばらく魔法を使っていないアオイが照らし役を買って出た。
しばらく歩くと、前方が青く照らされているのが見えた。アオイは炎を消し、そこに近付いた。
青く光る場所に出てくると、そこは再び巨大なドーム状の空間だった。先ほどと形状は似ているが、大きさは全く違う。何倍もこちらの方が広い。
上の方には、壁伝いに青い炎が並んでいる。その光がここの内部を幻想的に照らし出していた。
この空間に入って5メートルほど進んだ先には水が溜まっていた。わずかに揺らぐ水面に青い炎の光が反射して、耽美な光景だった。
「こんなに綺麗な青色の炎、見たことない……」
アオイの言葉に、3人は無言で同意した。
ルーカスたち4人はしばらく青い光を見上げていたが、次に目の前に広がる水面に目をやった。
「それで、これは?」
ルーカスが呟いた。しかし、もちろん誰も知らない。
彼女は懐疑的な顔でさらに続けた。
「青い炎もそうだけど、これも綺麗。でも、なんだか嫌な予感がする……」
青く照らし出された4人は、恐る恐る水面に近付いた。そしてゆっくりと水中を覗き込むと、そこには巨大な蛇の顔があった。
思わず4人は引き下がったが、その蛇は寝ていたのか、目を閉じ、水中から出てくる様子はなかった。
「あれが、まさか……」
アオイはルーカスの袖を掴んでいた。
「うん、きっと……」
ルーカスは弱々しい声で答えた。
「今ならまだこいつは寝ている。逃げることも可能だな……」
ベンはそう提案したが、ルーカスは拒否した。
「いや、井戸の男は、この蛇に勝てないならば現代魔法研究所の相手とは渡り合えないと言っていたわ。私たちがこれから向かうことが無謀でないことを確かめるという必要性もある」
「ああ、そうだ。しかし、今命を落としたらどうしようもないだろ」
「そうね。でもここからどうやって進むかわからないし、帰ったところで後世には行けない」
ベンは黙った。
しばらく無言のまま時間だけが過ぎた。
青い炎が4人を朧げに照らし出す。揺れる影は迷いを感じていた。
「蛇は寝ている。案外すぐに仕留められるかも」
ユーが沈黙を破った。
「そうかもしれないけど、そうでもないかもしれない」とルーカス。
水面は大蛇の呼吸に合わせて静かに揺れていた。
「だが、どうやって水中の相手に気付かれずに攻撃するか……」
今度はベンだ。
「空間移動であの蛇のいる場所を目の前の空間を入れ替えたら、瞬間的に目の前に来させることができる。蛇が起きたときにはやっつける、っていうのは?」
ユーが答えた。
「でも、あなたの血はどれだけ消費するの? 大丈夫なの?」
「大丈夫だよ」
ルーカスはそれを聞いてその作戦に乗ろうとした。
「それで、その後は? 私のナイフじゃ到底歯が立ちそうにないわ」
突然、4人を巨大な物陰が包み込んだ。見上げると、そこには巨大な蛇の顔があった。
「……ちょっと喋り過ぎたみたいね」ルーカスが淡々と解説した。
大蛇は4人の方を見て、穏やかな声で言った。
「お前たちはここに何をしにきた?」
「あなた、話せるのね。私たちは――」
ルーカスは言葉を切った。もちろん、あなたと戦いに来ました、などとは言えない。
「ちょっと観光よ」
「観光をしに来た者がここまで辿り着けるとは思えない。そもそも、ここに観光に来るということはまずない。ここに何をしに来た。お前たちはマージだろう」
「ええ、そうよ。あなたはどうして話せるの? 普通の蛇じゃないみたいね」
「俺は元々、普通の蛇だよ。ある日起きたら、ある男が目の前に立っていた。その男が俺に向かって何かを言ったんだ。その後、気が付けば俺はこんなにも大きくなっていたし、青い炎を扱えるようになっていた」
なるほど、何者かに魔法によって巨大化させられた。そして、同時に魔法の力も少しばかりいただいたようだ。
4人は顔を見合わせた。
「この蛇、戦っても無意味かもしれない」
ルーカスは肩を竦めた。
「ああ、確かにそうだ。このまま離れる方がいいだろう、って思えてきた」
ベンも同意見だ。
頭上からまた蛇の声が聞こえてきた。
「俺はもうすぐ爆発するようだ。それが本当かは知らない。しかし、俺をこんなにも大きくした男が言っていた。奴が来たのはしばらく前だ。近いうちにお前は爆発し、この世界を浄化する、と言っていた」
「それは本当なの?」
ルーカスは何か寂しそうな目つきをした蛇の目を捉えた。
「本当かはわからないが、そう言っていた。そして、最近俺の炎は次第に強くなってきている。爆発の予兆なのかもしれない」
「ルウ、爆発するしたら、それはきっと前世だけだと思う。誰かが前世に落としたものを洗いざらい消し去るつもりだと思う」
アオイが隣から深刻な表情で言ってきた。そしてさらに続けた。
「もう放っておいたら、私たちも、他のすべても、前世からは消え去るんだと思う。確信はないけど、もしそうなら――」
「うん、わかるわ。でも、それがいつなのかわからないし、安易にこの蛇と戦ってしまうのも良くないと思う」
「じゃあどうするんだよ。倒すか爆破で死ぬかだったら、俺はこいつのことを考えて倒すな」ベンだ。
それは間違いないことぐらいわかっている。
蛇はゆっくりと水中へと戻っていったが、すべてが水中に入ってしまう前に、一言付け加えた。
「俺はたまに意識を失う。悪いことは言わない。早く出ていった方がいいと思うぞ。誰かにずっと観察されているんだよ、きっと。……この目と耳は、どこかに繋がっている」
大蛇の姿は水中に消えた。
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