6 ヒールフル砂漠 ②
その後、4人は「誰か」に出会うためにその場を離れた。
ルーカスの頭の中にはあらゆる思い出が駆け巡っていた。これまでの出来事を最初から見つめ直していた。
何もなかった日々に、突然起こった地震。それにより、多くの建物、もの、さらには生物までもが内側の世界に落ち、多くの人々が命を失った。しばらくして、どこからか、ここが内側の世界であることが伝わってきた。それはきっと本当なのだろうが、よくそんなことがわかったものだ。決して内側から見てわかるものではない。すなわち、誰かが外側に出たか、ないしは、外側から入ってきたということだ。
ルーカスたちは前世にいたところで、結局は死んでしまうだろうと考え、この内側の世界から出ることを決めた。もちろん、それは簡単なものではなかった。そもそも、どこからどうやって後世に行けるのかを知らなかった。
だが、今は違う。彼女たちは、確かではないが、いくつかの情報を得てきた。
洞窟を求めて歩いてきたが、4人は道を失った。あるのは、ただ、砂のみ。ルーカスは振り返ったが、もちろん道などどこにも見えなかった。自分たちの歩いた足跡が残されているだけだった。
もう後戻りはできない、そう心に決めて先を急いだ。
人一人見えないまま重たくなる足を動かしていたが、やっと転機が訪れた。前方をゆっくりと進む人を見つけたのだ。4人はその人に追いつくよう軽くなった足を動かした。
その人に近付くにつれ、4人は驚くべき事実を認識した。ヘルベルト・アーノルドだったのだ。ダラン総合魔法学校で最初の実技の授業で出会った、コントロール系魔術の、彼だ。彼女たちが14歳のときに失踪して以来だ。
「ヘルベルト先生! 私です、ルーカスです。どうしてこんなところに?」
すると、彼は弱々しい声で答えた。
「私は、グレート・トレンブルに関わるかもしれない人を知っている。その男はまるで不死身だった。彼は本当に強かった。私はあの男が今回の事件を引き起こしたのではないかと思い、去年学校を出て、1年間あちこちを探し回った。そして、数日前のこと、ここに来るまでの道中、私はアイザック教会群遺跡で彼の姿を見たのだが、声をかける勇気は出なかった。彼は私に気が付いたのであろうが、すぐにその場を去ってしまった」
「あそこでですか……」
「そう。あそこはただの教会群ではない。君たちもここにいるのなら知っているのだろう」
「待ってください。私たちもあそこである男に会いました。きっと先生の言う人と同じです。その男の名前などはわかるのですか?」
「ああ。彼の名はラム。彼は、名こそ知られていないが、犯罪者だ。それも世界を驚かせるほどのね」
「ハワード・セリウスを殺害した?」
ルーカスはきっとアイザック教会群遺跡で出会ったあの男がラムであると認識した。
「……ああ、そうだ。彼は、なんたることか、世界皇帝を殺害した。私も詳しくは知らないが、ハワード・セリウスは確かに彼に殺害された。それを、私は、この目で見てしまったのだよ……。――彼と一緒に」
「彼とは?」
ルーカスはすぐに切り返した。だが、彼は咳をするばかりで何も答えなかった。
「わ、わかりました、なるほど。ところで、先生はこの後どうするのですか?」
彼女は続けて尋ねた。
「私はこの後、現代魔法研究所に向かうため、まずはエビルの森まで行こうと思っていたが、……病気を患っているらしく身体が持ちそうにない。きっと、もうすぐ死ぬだろう。……君たちは何を?」
そう言ったヘルベルト・アーノルドの声はもうかなり弱かった。その格好も汚れており、彼がこの先長くないであろうことを示していた。
「私たちはヘルロンの洞窟へ行こうとしています。先生はそれがどこか知っていますか?」ルーカスが答えた。
「私もそこに行こうと探していたところだが、詳しくは知らない。……このヒールフル地方にはヒールフル魔法学校という学校があったはずだ。もしそこの生徒に運良く出会えたなら、きっと彼らはその洞窟の場所を知っているだろう」
「ありがとう、先生。……あまり頑張らないで」
ルーカスは一言残し、その場を離れた。他の3人もヘルベルト・アーノルドに一言ずつ残し、その場を去った。
4人は懐かしき教師との訣別を告げ、再び後世への歩みを進めたが、最後にユーは他の3人が思いも寄らない言葉を放った。
「先生も、あの力を持っていたんだね」
◇◆◇
しばらく進むと、再び前方に、次は3人組が歩いているのが見えた。魔法学校特有のローブを羽織っている。きっとヒールフル魔法学校の生徒だろうと思い、4人は彼らに近付いた。
「ちょっと、失礼。この辺に洞窟があると思うんだけど、行き方を知りませんかね」
ベンが彼らに尋ねた。しかし、彼らは顔を見合わせた後、こう言い放った。
「なるほど、ヘルロンの洞窟に行きたいということですか。一体、あなたたちはどうしたのですか?」
「いや、俺たち、そこの洞窟にいる蛇を退治しようと思うんだ。それで、その洞窟はどこにある?」
ヒールフルの学生はまた顔を見合わせ、この人たちは頭がおかしくなったのか、と言いたげな顔をした。
「それでは、教えますから。いくらいただけますか?」
「は? それぐらいいいだろ。一緒に来てほしいとか手伝ってとか言わないから」ベンは一瞬驚いたが、すぐに冗談だと思った。
しかし、実際には違った。
「そうですか。私たち、お金がないと働きません」
そう言って、彼らは4人の横を通り過ぎようとした。
「ちょっと待って、いくらだったら教えてくれる? 少額なら私たちも考えるわ」
ルーカスが彼らを呼び止めた。
「うーん、40アールで考えますよ」
「…………」
4人は言葉を失った。アールという単位で金額を表すが、基本的には50アールといえばかなり高額という感覚だ。つまり、まだ15歳でそれほどお金を持っていないルーカスたちにとって40アールは、到底考えられないほどの高額だ。
「もう少し安くはならないかしら?」
ルーカスは笑顔で交渉を試みた。
「いいえ。最低40アールで。場所を言うだけならそれで構いませんよ」
4人は顔を見合わせた。この法外な高額取引商人と40アールで取引するかを相談するためだ。
結局、場所を聞くだけで40アールを支払うという結果に至った。この窮状において、背に腹は変えられない。
「はい、確かに40アールいただきました。嘘はつきません、確かにお答えします。ヘルロンの洞窟は、このヒールフル地方の南西部、この場所から見るとちょうど南部にありますよ」
「そこに行くのに、注意することはあるか?」
ベンが再び質問した。
「そうですね、行き方や注意事項については非常に有益な情報ですので、50アールでいかがでしょう?」
4人は、目を丸くして再び顔を見合わせた。この質問が最後になるだろうから、もう支払ってしまうか、またはこの場所を離れるか。彼らは小さくて重い選択を迫られた。
このときも結局、行き方を聞くことにした。これで合計90アールを消費した。
「ここから南にあります。しかし、それは海に面しているので、西側の海沿いを南下するのがいいでしょう。注意事項は、……特にありませんね。歩いて行けばいいだけです」
「着いたらすぐにわかるか?」
ベンがまた尋ねた。
「どうでしょう。詳しい外観は20アールで言いましょう」
4人はまたもや顔を見合わせた。
「どうする?」とベン。
「いや、もうやめましょう。私たちはすでに所持金の半分を消費してしまった。これ以上ここで消費するのは望ましくないわ。この人たち、情報を売って商売しているのよ。だからその情報を細かく区切っている」
ルーカスの意見に他の3人は賛成した。情報を聞いた後に戦って取り返す、という案もベンから出たが、ヘルロンの洞窟に行く前に下手に血液を消費することは良くないし、ましてや相手の強さがわからない以上、多大なリスクを背負うことになるとして、その案は却下された。
ルーカスたちは、このヒールフルの学生たちと別れを交わし、その場を後にした。その後、海沿いまで行き、そこから南下を始めた。
前は確かに海だったのだろうが、今はそのようには見えなかった。海水はなく、もちろん波が浜辺に打ち寄せるようなこともない。しかし、そこは確かに海だったのだ。証拠に、足元には海藻や貝殻が落ちていた。
海沿いをしばらく歩くと、前方に大きな岩山の陰が見えてきた。高く聳え立っている。4人は急いでその岩石へと向かった。
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