第二章 前世

1 小さな会議

 4つの人影が4階に現れた。彼女らは辺りを見回してから、1つ下の階、また1つ下の階へと下りていった。そして、1階に着くと、校庭の端にある小さな小屋に入った。そこはここ数年使われていない物置小屋だった。以前は、火炎魔法の訓練用の蝋燭や薪が置かれていたとか。


 今は全く使われていないため中はもぬけの殻だが、あちこちに埃が溜まっていた。


「それで、何が起こったと思う?」


 ベンが最初に口を開いた。


「この星の内側だということは、そうだと思う。それを信じないとどうしようもないんだけど」とルーカスは答えた。

「だよな。で、犯人は?」

「それは見当が付かない。けど、考えることはできるわ。最近何が起こっていたのか、もう一度考えよう」

「そうだな。まず、今年は魔法運用協議会が開かれたはずだ。それで、どうなったっけ?」

「今年はダランのイールス・ダラン学長がカクリスのダン・カクリス学長のマージ主義政策を止めるように言ったとか。まだ世界皇帝は何も決定していないみたいだけど」

「それでキレたダン・カクリスがこうやったのか?」

「それはないんじゃないかしら。最初に疑いをかけられるのはわかるだろうし」


 ルーカスとベンの会話にユーが参加した。


「そういえば、現代魔法研究所ってなんだっけ?」

「え? そんなの授業でやったっけ?」


 ルーカスは聞いた覚えがなかったが、突然言い出したユーはその言葉を聞いたことがあるらしい。だが、詳しいことは知らないのだとか。


「なんとなく覚えているのは、確か、現代魔法の中でも、特殊魔法の研究をしているとか」

「そうなの、ユー? でも私、特殊魔法を研究しているとか聞いたことがないわ」

「たぶん公開していないんだよ。ほとんどが未知の研究所だよ」


 そうは言われても……。ルーカスは非常に困った。


 旧魔法暦から新魔法暦に変わったのは、魔法属性の分類が古典魔法から現代魔法に変わったときだ。そのときに自然系魔術という括りがなくなり、特殊魔法という属性が作られた。それは自然系魔術が非常に稀にしかみられないためだったと習っている。さらに、その頃古典魔法のどの分類にも属さない魔法が何度か開発され、それらをすべて一括りにするため特殊魔法という分類ができた。


 この特殊魔法は数が多すぎて、今となっては何があるのかすべてを把握するのは無理がある。したがってこれを細分化する声も上がっているが、未だそれはなされていない。


「話を戻すが、イールス学長はカクリスや世界皇帝に対して何を提案しているんだ?」


 沈黙を破ってベンがルーカスに聞いてきた。


「以前の政策の復活よ。もう少し詳しくいうと、後セリウス時代までは学校はあくまで学校で、魔法運用協議会の前身のような会議に参加したのは、各属性のトップの人、それと何人かのオーム。けど前ロマンス時代からは違う。魔法運用協議会に参加するのは魔法学校の学長と各属性のトップの人。つまり、オームの意見は取り入れられていない。魔法学校がある意味世界の動きを決める実権を握ったようなものよ」

「第4代世界皇帝のエンベル・ルードビッヒは、どうして方向性を大きく変えたんだろう。第3代世界皇帝の時代に何かあったのかな」


 突然のユーの質問は他の3人の頭の思考容量を食っただけだった。


 しかし、この質問は考えられて当然だし、当時もきっと持ち上がったはずである。それでも、現状はそのままだ。


 世界皇帝がセリウス家からルードビッヒ家に変わったことも疑問だった。どうしていきなりそのようなことが起こったのか。


「お父さんに聞いてみると、他にももっとわかるかも」


 ルーカスはそう言って小屋から出ようとしたが、アオイに肩を掴まれ止められた。


「ダメよ、今はダメ。それに、そもそもまだいろんなことがはっきりしていないと思う。時間はあるから、私たちで考えられることを考えよう?」


 彼女の言うとおりだ。


「ごめん、一旦落ち着くわ」


 ルーカスはそう言って、入り口前にしゃがみ込んだ。


「明日になれば、これから学校がどうするかきっとわかるだろうし、もっと情報が入ってくるのを待とうよ。気が付いたことがあったらすぐに共有しよう」


 ユーの提案だ。


 今焦って問題を解決しようとしても、何も始まらない。とにかく情報収集から始めなければ。そして、この事件の全貌を解明してやる。


 ルーカスは拳を握りしめた。




 ルーカスは少しだけ扉を開いた。すると、2人の教員の話し声が聞こえた。顔は見えなかったので、誰なのかはわからなかった。


「生徒ができるだけ怖がらないようにしないとな。生徒の中で混乱が起きたら、さすがに教員でも止められない。だから、授業とかはこれまでと同じようにすればいいと思うんだ」

「俺もそう思う。しかし、本当のことがわからないと、落ち着いていられない生徒もいるだろう」


 ルーカスたちもそのうちである。


「とにかく、今は俺たちも情報を集めないと。カクリスはほとんど落ちてきていないみたいじゃないか。その辺をもっと、詳しくね」

「ってか、そろそろ巡回再開しないと怒られるぞ。俺はこっちを回るから、そっち行ってくれ」


 2人の教員は手分けして巡回を始め、すぐに暗闇の中に姿を消した。


 4人はまた1つ、大きな情報を手に入れた。カクリスはほとんど落ちてきていない? ダランは競技場以外はほとんどすべて落ちてきているのに。


 この違いは何なのか。たまたまそうなったのか、意図的にそうなったのか。考えられるのはいくつもある。しかし、結論に辿り着くにはもう少し時間がかかりそうだ。


 4人は辺りを警戒しながらそっと小屋から出た。

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