4 グレート・トレンブル
新魔法暦219年のある日、ルーカス、アオイ、ベン、ユーは学校で昼食を食べていた。その日の授業内容が歴史系ばかりで、その復習をみんなで行っていた。
「新魔法暦と旧魔法暦って、何が変わったんだっけ?」
ベンがノートを閉じてテストをするように質問を投げかけた。
「見ればいいじゃん。旧魔法暦のときは古典魔法で、新魔法暦になったら現代魔法に変わったのよ」
ルーカスは呆れるように言った。すると、すぐにベンが切り返した。
「その古典魔法と現代魔法って、何が違うんだっけ?」
「自然系魔術がなくなって、特殊魔法の分類ができたんだよ」
今度はユーが答えた。
ああ、そうだった、とベンがうるさく返事をしているのも、もうルーカスにとって煩わしいことではなかった。
それぞれが違う魔法属性を専攻しており、互いの魔法の違いを理解し合っていた。属性によってできることやできないことが分かれており、それを理解し合うことも大事なコミュニケーションだった。
アオイは笑って皆の顔を眺めていた。ルーカスとユーは、ベンの連続的な質問に答えていた。その周りのテーブルでも、愉快なざわめきが広がっていた。皆笑っていた。
——事件は突然に起きた。
テーブルの上の銀食器が小刻みに揺れたかと思えば、すぐに巨大な地の揺れがルーカスたちを襲った。
皆悲鳴を上げた。そして、頭を壁にぶつけたり、転けたり、テーブルに挟まれたりして、辺りは上を下への大騒ぎだった。
そうして、しばらく揺れが続いたが、いつの間にか気を失った。
◇◆◇
ルーカスは目を覚ました。首を右に左に動かし、周囲を見回した。頭上も見上げたし、手元も見た。しかし、何も見えなかった。暗すぎたのだ。
彼女はその場で立ち上がり、おーい、と声を出した。その声は悲しげに響き渡った。
「フィーレ」
11歳になったルーカスはフィーレを簡単に使えるようになっていた。その炎で足元や頭上を照らしたところ、足元には他の生徒たちが、頭上にはダラン総合魔法学校の食堂の屋根があった。
なんだ、ただの地震か。彼女はそう思った。
とにかく、今は他の生徒が気絶してしまっているから、外の様子でも見に行こう。そんなことを考えながら、食堂の出入り口に向かった。
……あれ、夜?
扉を開けた瞬間、ルーカスが思ったのはこうだった。見渡す限り、闇。まさか、昼から陽が沈むまで気を失っていたのか。
とりあえず、外の様子を調べてみよう。ルーカスは食堂から出て、学校中を歩き回った。いつも授業を受けていた講義室は扉が外れ、壁のレンガが崩れ落ち、窓は割れていた。昼休憩だったからであろうが、教室には3人しか生徒の姿はなかった。しかし、割れたガラスの破片が彼らに無惨に突き刺さっており、彼女は思わず痛々しい現実から目を離した。
実習室は非常に丈夫な素材で作られていたため、教卓が倒れているだけで他は無傷だった。しかし、そこまでの道は大変だった。廊下の床には亀裂が入っているところがあったし、場所によっては壁が崩れ落ちているところもあった。
実習室から出ようとしたとき、誰かの声が聞こえた。
「何が起こったのでしょう。とても嫌な予感がするのだが……」
この声はヘルベルトだ。ルーカスは声のする場所に近付き、声をかけた。
「ヘルベルト先生、ルーカス・ダランです。嫌なこととはなんですか?」
「ああ、ルーカス。無事でよかった。……いや、なにもないのですが、何人かの教員を探してみたところ、ここにいる人といない人がいるようです。生徒はどうですか?」
互いの炎がその場を暗く照らした。
「私の友人はもう見つけました。しかし、そんなことってありますか?」
「いや、私もよくわからない……。とにかく、今は学校内にいる人を探してみましょう」
「そうですね。私も同行します」
ルーカスは辺りがより見えやすくなるように手の平の炎を大きくした。しかし、ヘルベルトは彼女の肩を叩いて小さな声で言った。
「ダメです、もっと弱くして。もし敵がいたらここにいるのが気付かれますし、応戦するようになったとしても無駄な血を使いたくない」
そうですね、とルーカスはすぐに炎を弱くした。実戦経験がない彼女は、その類の扱いが未熟だった。
しばらく歩き、いくつかの部屋を見て回った後、2人は食堂へ向かった。
「確かに、何人かはここにはいませんね。どうしてでしょう?」とルーカスが問う。
「いえ、わかりません。さらに驚いたことは、この学校の競技場もないことです」
「え、そうでしたか? それは気が付きませんでした。しかし、それは一体……」
2人が食堂に近付くと、生徒たちの小さな声が外に漏れ出していた。わずかに聞こえる声を聞いてみたところ、やはりそこにいる人といない人がいるようである。
食堂の扉は開いていた。そこから2人は入り見回したところ、生徒たちは各々が手の平にフィーレの炎を出し、辺りを照らしていることがわかった。さらにそこには、主に教員の指導を行う総合指揮官のベル・シュタインバーズや、副学校長のフィーフェ・ルー、学校長であり彼女の父でもあるイールス・ダランなどがいた。
「お父さん! これは何が起こっているの?」
ルーカスはイールスに近寄った。そのルーカスの様子を、フィーフェ・ルーはイールスの向こう側から睨みつけていた。
イールスはゆっくりとルーカスを見下ろし答えた。
「いや、まだはっきりわかっていないんだ。とにかく他の学校からの情報が集まらないとなんとも言えない」
ルーカスの後ろからヘルベルトが歩み寄ってきた。
「ダラン学長、ヘルベルト・アーノルドです。先ほど学校内を巡回しましたところ、競技場がなかったことを報告いたします」
「そうか、ありがとう。引き続き巡回を行ってほしい。そして、生徒たちを見つけたら中央講堂に集合するよう伝えてくれ。学校内のすべての場所を確認し終えたら、私に報告してくれ。先に行っておくから」
「かしこまりました」
ヘルベルトはそう言うと、食堂から出て行った。
イールスは食堂内にいる生徒に中央講堂へ移動するよう伝え、副学長及び総合指揮官と共に食堂から出て行った。
ルーカスは3人の友人を見つけて、駆け寄った。
「大丈夫?」
「みんな無事だけど……。何があったの?」
アオイが答えた。
「いや、私にもよくわからない。ただ、みんながここにいるわけではないみたい。競技場もなくなっているし」
「えっ? 競技場がなくなった?」
アオイが大きな声を出すものだから、皆が振り向いた。
「しっ、静かに。そう、なかったの。それに、教員や生徒もみんながいるわけではないみたい。この食堂内にいた人はほとんどいるみたいだけど」
「そうなんだ……。あ、ベンくん、今の聞いた?」
アオイの後ろにベンとユーがいた。
「ああ、聞いたさ。あのでかい競技場がないんだろ? そりゃあ困ったが、見間違えじゃないのか?」
「私も直接確認したわけじゃないんだけど、ヘルベルト先生がそう言ってて」
「なら間違いないか……」
「とにかく、今は中央講堂に向かおうよ」
ユーがそう言い、4人は中央講堂に向かった。
◇◆◇
中央講堂には、すでにたくさんの生徒が集まっていた。幸い、ここは大きな損害を受けていないようだ。空いている席に4人は並んで座った。
それから20分ほどして、イールスが前方にある大きな教壇に姿を現した。
「生徒諸君、事態は非常に深刻である。アールベストだけでなく、リラやプラルでも同様の問題が起こっているようだ。あらゆる魔法学校の教員が調査したところ、ここはこの星の内部であると予測された。つまり、私たちの頭上では、残された者が今も陽の光を浴びて生活しているということだ。まだ噂ほどのレベルで、確実なものではないが。……そこで、ここにいる私たちの問題点をいくつか挙げる。まずは、陽の光がないことだ。つまり、野菜などはほとんど育たない。そして次に、水がほとんど存在しない。アールベスト北部のアリル海はほとんど干上がったような状態である。したがって、各々水が必要になったときはアテールで補うように。さらに、これからの生活であるが、君たちの家がすべてここにあるかはわからない。よって、事態がはっきりしてくるまでは学校で過ごしてもらう。これに関しては、後ほど教員から連絡するようにする。それでは、初等部の者は担任の元へ、中等部から高等部の者は、実習棟の3階から5階の部屋で待機。なお、担任のいない初等部のクラスはここに残りなさい。それでは、解散!」
一斉に教室移動が始まった。ルーカスたちもその波に乗り、5階の実習室に入った。
とにかく、何が起こっているのかよくわからない以上、自分勝手な行動をすると危険である。
4人はいっぱいになった実習室で、とにかく身を寄せ合ってその日のことを振り返っていた。
実習室は最初真っ暗だったが、何人もの生徒がフィーレで辺りを照らしてくれたので、顔を見合えるほどになった。
実習室で1時間ほど過ごした。1人の教員が部屋に入ってきた。
「部屋の説明を行います。5階は女子、4階は男子、3階は教室1番から10番が男子、11番から20番が女子でお願いします。それでは、移動してください。くれぐれも、勝手に外に出歩くことのないように」
教員はそう言って出て行った。ベンとユーの2人は4階の部屋に向かった。だが、その前に4人は、他の生徒たちが寝た頃に4階と5階の間に位置する踊り場で落ち合い、校庭でこの問題を探ろうと話をしておいた。
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