第一章 一つの世界

1 入学

 新魔法暦212年、この年も盛大な入学式が各校で行われていた。4歳になると、子どもたちは、魔法学校への入学か一般学校への入学かを決めなければいけない。もとより、魔法に適性がなければ、魔法学校に入ることはできない。


 入学というものは、その選択によりその後の人生がいろいろと変わるのであるから、幼い子どもにとっては大きすぎる選択であった。多くの場合親が決めていたのであるが。


 アールベスト地方のダラン総合魔法学校でも、他校に劣らず非常に盛大な入学式が行われていた。在学している初等部、中等部、高等部の学生は皆、あらゆる魔法で新入生を魅了していた。ルーカス、アオイも魅了されていたうちであった。4歳になる2人は、家が近くにあるためよく遊んだものだった。そして、その後の人生も共に歩むべく、この学校を2人とも選んだのであった。


 2人には、共に畔を走り回って領主に怒られたり、川で遊んでいたら流されそうになったりと、思い出がたくさんあった。そして、今日もまた「入学式」という大きな思い出を共に作るのであった。


 入学式では、保護者は立ち入ることができなかった。マージとオームのどちらなのかがわからないからだ。


 魔法学校の多くには、オームが入ってはいけないという規則がある。これは後セリウス時代にできた規則で、それまでは興味本位で魔法学校に入ったオームが罪を犯したり、魔法の訓練に巻き込まれて死亡したりするケースなどがあったからだ。当時の世界皇帝のハワード・セリウスがこの規則を作ってからは、そのような事例は少なくなった。




    ◇◆◇




 ルーカスとアオイは短い式後、早速魔法適合検査を受けなければいけなかった。これは、入学後、本当に魔法の勉強や訓練をしても大丈夫かを確かめる検査だ。さらに、その後分かれていく魔法属性を決定するのにも影響する。


 先にルーカスが検査を受けることになった。部屋に入っていくと、そこにはいかにも医療魔法を使いそうな男がいた。なぜか苛ついた様子で、ルーカスが部屋に入るとすぐに「早く腕を出せ」と言った。ルーカスはこの男に怯えながら恐々と腕を出したものだから、男はまた「ちゃんと腕を出せ」と苛立つのであった。


 最初の検査は一瞬だった。ほんの少量の血液を採取しただけで、すぐに次の検査へと移った。しかし、まだ幼いルーカスにとっては、一瞬の採血であっても注射針の痛みは堪えるものであった。


 次の検査は、言語運用力を試すものであった。入学試験でもやったのに、と思いながらも、ルーカスは数名の監督と対話をした。これはルーカスにとって全く苦ではなかった。情緒がつくとすぐにアオイと話をするようになったから、この検査の言語運用力など容易いものであった。


 最後は、身体能力の検査だった。いくら魔法を使うとはいっても、身体能力は高い方がいいに決まっている。検査では20メートルを走った。タイムはほとんど関係なく、まっすぐ走り切れるかが検査の重要な項目だった。


 入学試験の言語運用力と魔法に関する基礎知識の試験に比べたら容易な内容であったが、ここで不適合になると入学を取り消されるのであるから、適当に済ませることはできなかった。毎年1割ほどはこの検査で不適合となり、入学取り消しになるらしい。


 検査が終わり、ルーカスとアオイは互いに顔を見合わせ、そして笑みを浮かべた。2人とも問題なかったようである。


 こうして、丸一日かけた入学式が終了した。


 その日、2人は翌日からの学校に備え、いつもより早く眠りについた。

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