幼馴染と、星と。 〈前編〉
仲も深まった中1の秋。
明日は待ちに待った文化祭。
クラスのみんなも心なしかそわそわしてる。無関心そうなのは「勉強が恋人」って言い張る唯星だけ。
いや、そんな唯星も、ダンスパフォーマンスがあるからか、心なしか楽しみそう。
明日はどこ回ろうかなぁ…。明日だけは私服もOKだから、何着ていこう…。あ、そうだ、唯星のダンスも楽しみだなぁ…。
あれこれと明日のことを考えていると、一つのメールが届いた。
「明日、行けそう!」
送り主は「セトケン」とこ「
賢と私とは保育園、いや、赤ちゃん、もっと言えばお腹の中にいるときからの付き合いだ。
と言っても、生き別れとかではなく、単純に二人の母が大学時代の友人同士であり、幼い頃からよく一緒にいたというだけのこと。
でも最近はお互いに忙しくて——特に賢は、名門私立の翼学園に行ったから私の何倍も——会っていなかったから、久しぶりに会えそうでうれしい。
あ、でも先に断っておく、うれしいっていうのは幼馴染と会えるからであって、賢のことが好きなわけではないから。
そんなわけで楽しみが一つ増えて迎えた当日。
いつもより30分くらい早く家を出て、学校へ向かった。自然と早足になっていて、結局、いつもより45分くらい早く学校に到着。
階段を上っていると、見慣れた後ろ姿の少女を見つけた。小さくて華奢な体つき、2つに結んだストレートの黒髪、体と比べて大きすぎるくらいの学校規定のリュックとそこについた私とおそろいのてるてる坊主のキーホルダー……。唯星だ!
私は階段を一段とばしにして親友に駆け寄る。
「唯星!」
私が声を掛けると、彼女はくるっと振り返り、ハルジオンみたいな笑顔で、
「萌花!おはよ!」
と言った。
やっぱり私は唯星の、花みたいなふわっとした笑顔が好きだ。
「ねぇねぇ萌花!私服似合ってるよ!てか奇跡だねえ!」
また白くてふわっとした花が咲いた。
「うん、ホントね!色違いの、持ってるなんて。」
そう、昨日の夜、唯星とメールをしていたら、たまたま同じ服の色違いを持っていることが発覚したのだ。
そして、今日は二人ともその服を着て、いわゆる「双子コーデ」にしたのだ。
私は自分の服装と唯星の服装とを交互に見やる。
唯星いわく、私は白、唯星は黒のピューリタンカラーの襟付きの7分丈のブラウスに、私は紺、唯星は白のプリーツスカートという服装。らしい。言語化できる唯星に感心した。
でも、唯星は、「そんなすごいことじゃないよ、」と言った。
「ただ、おえかきしてるから勝手に覚えてっただけだよ。
萌花もあるでしょ?ほらあ…?えっと、萌花は歌が好きでしょ?
長いこと聞いてると習わずともベースの楽器が分かってきたり、作曲家ごとの特徴——例えば音域、速度、Cメロの入れ方、前奏の有無や長さ、歌詞の特徴や比喩表現、ジャンル——をつかんできたり、サムネとかMVの特徴、覚えちゃったりするじゃん?
それの、私版みたいな感じ。」
おぉ、力説だ…。相手の立場や趣味に合わせて話を展開させて共感を得る…。やっぱり、さすが唯星だ。
あれこれと話をしているうちに教室に到着。
教室の中に入ると、すでに数人の生徒がいた。
みんな、私服可愛いな……。
数人のこと挨拶を交わし、自分の机へ向かう。
そして、荷物をかたずける。
今日の荷物はいつもと違って、スマホや財布など、普段は絶対に学校に持ってこないものばかりだ。
謎の罪悪感を覚えつつ、それらを持ち運び用のポーチに詰める。
あ、いけない。ダンスパフォーマンスのチケットを入れ忘れてた。唯星に怒られちゃう…。
うちの学校、
私のクラスは、教室でカフェを行う。
主なメニューはハーブティー。唯星が育てた(らしい)ハーブを使って淹れるつもりだ。
試食(?)会ではみんな舌づつみを打っていたっけ…。
有志の人が行う出し物は毎年人気があり、観客席は予約制だ。
予約は、先着にすると近海が丘の生徒が有利になってしまうので、抽選で決まることになっている。
実は私、今年は運悪く抽選で外れてしまっている。
今年は後日配信させる動画で我慢しないとなのか…と落ち込んでいると、唯星がご自慢の人当たりの良さを使って、運営の人に特別に1枚、チケットを発行してもらえた。
だから私は、チケットをまるで宝物のように(いや、宝物と言っても過言ではない)丁寧に扱った。
そして、なんと偶然、賢は当たったらしいので、一緒に見る約束をした。
本当に運がよかった。唯星と友達で、本当によかった…。
さて、そんな唯星をちらりと見る。
私以上に荷物が多いみたい。それもそうか…。クラスのカフェで使うハーブとダンスパフォーマンス用の衣装。それから常日頃彼女が持ち歩いている「応急処置セット」。そうそう。「応急処置セット」の品揃えが豊富すぎて、一時は「移動保健室」なんて呼ばれていたとか…。
そんなわけで人一倍荷物の多い唯星も、もう片付け終わったみたい。
さて、絡みに行くか笑
「ゆーいーほっ!ダンス、楽しみにしてるね!」
「わあ、ありがとぉ、ちなみに、萌花の家族とか、くるの?」
「ううん、でも、幼馴染なら来るよ。一緒にダンスとか見るの。」
「へえ…!いいねえ!ちなみに誰?私の知ってる人?」
私が「瀬戸内賢って人」と答えようとした瞬間、誰かのやけに大音量なスマホの音がが鳴り響いた。
音の主はどうやら、「堀ひなの」という一人のクラスメイトみたいだ。
音の正体はメールの着信音みたい。それにしては大きすぎないか……?
彼女はみんなに対してぺこぺことお辞儀をしながらメールを確認する。
そして、確認したかと思えば急いで唯星に駆け寄った。
「ゆーちゃん!大変大変!太田さん、急に今日来れなくなっちゃったって……!」
「え、みくる?ええー困ったなあ…。」
半ば泣きそうになっているひなのと一緒に唯星は大急ぎで教室を出ていった。
みんなはきょとんとした顔で、終始2人を見守っていた。
「あ!ステージ、楽しみにしてて!」
と一瞬だけ唯星が顔を出して私に告げ、そのまま走ってどこかへ行ってしまった。
2人の話に出ていた「太田さん」「みくる」というのは、「太田みくる」という実行委員の少女のことだろう。
彼女は確かダンスパフォーマンスの紹介のアナウンスをする予定だったはず……。
あ、そういうことか、アナウンスがいなくなったから、代理を立てる必要があるのか…。
道理であんなに急ぐわけだ…。
しばらくしてひなのが帰ってきて、チャイムが鳴った。
私たちの店は午後の部だから、これから店を回ったり、パフォーマンスを見たりするのか……。
その後、担任の先生がやってきて、諸注意などを手短に話していく。
あぁ、先生も楽しみなんだな。
「あくまでもマナーを守ったうえで、全力で楽しみましょう!」
担任の先生の言葉とともに、文化祭が開幕した。
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