星と花。
私と唯星との出会いは、今になって考えれば少し不思議なものだったと思う。
初めて出会ったのは中学生の時。
同じ中学校、同じ学年、同じクラス。奇跡的に集められ40人ほどの生徒の中に彼女はいた。40人ほどの小さな籠の中で一人の少女と仲を深める、それは至って普遍的なことだろう。
しかし、私と彼女は、籠の中ではほとんど――お互いになかを深め、「親友」と呼び合うようになるまで――関わることがなかった。
唯星と初めて話したのは中学一年生の夏休み。その日、私は学校から数百メートル離れたところにある、白鳥海という名の海の海岸に沿って歩いていた。
すると、たまたま海岸にそって、(私とは違い)ゆったりと歩いていた彼女を見つけた。いや、歩いていたというより「漂っていた」というような感じだった。
きっとそこに私は違和感を覚え――彼女はいつもせかせかと歩いていて、とてもゆったり歩くようには見えない――声をかけた。
「小野さん…?」私はおそるおそる声をかけた。
「誰…?」
彼女は無表情、表情が抜け落ちたとはこのことを表すのだと思える顔で振り返った。
かと思えば、私の姿を確認するなり表情は一転。ぱっと明るく、向日葵、というよりカモミールの花のようにやさしく微笑み、そして少し困ったような笑みを浮かべた。
「あぁ、えっと、あ!おいしそうな名前の子!」
悪びれる様子もなく、満面の笑みでそう言った。
さすがに私は呆れた。
確かに私の名前は「
それにしても、人の名前の覚え方にしては適当すぎるし、それを本人の前で堂々と言うのはちょっと…。
「三浦萌花です。」
私が改めて名前を伝えると、彼女はすぐ腑に落ちたような表情になり、「あ!萌花さん…!やっと思い出したかも!」「そうそう、可愛い名前だなって!」と言った。
完全に予想外。まさか名前のことで褒められるなんて。なんかうれしい…。
「あ、ありがとう」ほぼ条件反射的に答えると次は彼女が自己紹介を始めた。
「あ、私は、小野唯星です!って知ってますよね…?唯星とか、ゆーって呼んで!」「じゃあ唯星。私のことは萌花でいいよ。」「うん、萌花!ありがと!」「いえいえ。」
軽く返事をしながら、ふと疑問に思っていたことを口にしてみた。
「どうしてここに来たの?」
一瞬彼女の表情が曇った。
あれ、もしかして聞かないほうがよかった…?
今さらながら軽く後悔をしていると、それを察してか否か、少し焦った様子で、「ん-とね、なんとなく!なんか、ここに来ると落ち着くんだ。」と答えた。
私は少しびっくりした。自分自身も同じ理由でここに来ていたからだ。
最初は表情がなかったり、変な名前の覚え方をされていたりと、なかなかこの子とは合わないと思っていたけど、案外そうでもないのかもしれない。
それから、よく白鳥海沿岸で会い、話すようになった。
そして、2学期が始まるころには、お互いを「親友」と呼び合うまでに仲良くなった。
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