#9 

「声劇部でーす!興味のある人いませんかー?」



翌日。

今日がラストの勧誘日。


俺たちは花宮を獲得した勢いのままに手作りのプラカードを手に廊下を練り歩く。


折角なら衣装とか着てもよかったか?あーでも衣装班にブチギレられるかもしれない。ただでさえ都大会出場に向けてデザイン案に頭を悩ませているのに。


仕方ない、できるだけ足掻こう。

とは言ったものの……



「一年生全然いないね〜今年は3人で終わりかな?やばいね」


「少し出遅れたか?今年もやっぱ運動部に持ってかれたか」


「どこも二桁獲得だもん。羨ましい〜!!」


「二桁もいたら、もっと色んな作品ができるようになるよなぁ……」



「す、すみません!」



そんな俺たちの腑抜けた会話を遮るように響いた声。


俺の背後には、少し緊張した面持ちの一年生が立っていた。



「お、もしかして声劇部入部希望?」


「は、はい!ずっと声劇部に興味があって……!」



照れ臭そうにしているけど、ちゃんとはっきり自分の声を届けようとしてくれる。


これは将来有望かもな、いい調子いい調子。

声劇部に興味がある子なら、友達とか連れてきてくれたらいいんだけど。



「珍しいね、声劇部に興味があるなんて」


「前にここの文化祭に来た時に、声劇部の公演を見たんです。それで桜川に入学して声劇部に入ろうと思ってて…………ちょっと色々あって、入部届を貰いに行くのギリギリになってしまったんですけど」


「そんなのいいよいいよ~、公演見てくれたのも、入ろうと思ってくれたのも嬉しいからねぇ。よし、じゃあこれに必要事項書いて提出お願いしまーす!」


「あ、ありがとうございます!」



涼太から渡された入部届けを大切そうに受け取ってくれる。


そんな姿に俺はすごく嬉しくなった。



「知っての通り締め切り今日だから、すぐに書いてくれると嬉しいんだけど」


「もちろんです!今、書いちゃいますね」


「あぁ助かるよ」


そのまま壁に入部届を押し付け、サラサラと書いていく。


おお、こんな状況なのに字綺麗だな。



「……書けました!よろしくお願いします、!」


「お、早いな。ありがとう」


「じゃ、また部活で会おうね!」



達筆な字で書かれた名前は"桃井慶"


……特進クラスか。少し厄介なことになるかもしれないな。



「そうだ、!あの、ちょっとここで待っててください!今から友人呼んできます!」


「それは入部希望ってことかな?」



「うーん多分………?とにかく呼んできますね!」



その子が入ってくれれば、目標人数の5人達成だ。


無事に入ってくれるといいけど、その子も特進クラスだったら面倒だな。



「なぁ、涼太。向こうで大きな声で叫んでるのってその友達ってやつかな」


「そ、そうかもね……」



段々人影が近づくにつれて大きくなっていく声。



「だーかーらー!演劇は無理だって!

俺は演劇とか向いてないだろうし、嫌だよ。別のところなら一緒にするから、慶も考え直そ?」


「無理、もう入部届出したから……あ、お待たせしました!僕の友人の一ノ瀬未玖です!」


「は?入部届出したって、それにこの人たちもしかして先輩?」



自慢げにニコニコとしながら、頷く桃井。


見かけによらず強引で頑固そうな奴なのか……まぁ、悪くないけど。



それに友人という一ノ瀬未玖。


男子にしては声が高めで、顔立ちも中性的。もしかすれば、ミシェルの次をいく演者になれるかもしれない。


ぜひ入ってほしいけど……困り顔の後輩に、部長としても人間としても強要するわけにはいかないしなぁ。

5人ほしかったけど、仕方ない。



「あの、無理して入ることはないからね。桃井くんもあんまり強く言い過ぎてもダメだよ」


いつもおちゃらけてる涼太でさえ、こんな様子。

俺も何か言わないと、うーん……


さて、どうしようかと思っていたその時。

目の前の一ノ瀬が一つため息をついて、こちらに手を伸ばした。



「………先輩、入部届ください」


「未玖!!」


「仕方ないから入ってやるよ。これ以上先輩を困らせるわけにも行かないし。

でも俺に合わないと思ったらすぐやめるからな。


すみません先輩、ペンあります?荷物置いてきちゃって」


「あぁ、もちろん」



胸ポケットに入ってたペンを貸すとさらさらと用紙を埋めていく彼。


どうやら彼は特進クラスではないようだ。一安心。

特進クラスは国公立大を目指して、一年からずっと勉強づけの日々を送る。

クラスの中には週一の部活に入る人がほとんど、と聞いた。


桃井は大丈夫なのか……?演劇が好きとはいったけど、途中でいなくなる可能性も考えておかないといけないかもしれない。


その点、一ノ瀬は今はまだ演劇の楽しさを知らないだろうから、早く好きになってもらえるといいけど。



「はい、じゃあこれで。よろしくお願いします」


「あぁ、ありがとう。また部活初日にな」



「うっす。……おい、慶!おまえ、放課後付き合え。甘いもの食いに行くぞ、お前の奢りな」


「え!僕、甘いの苦手なのに…………すみません、先輩方!失礼します!」


お辞儀をして去っていった二人にこちらも会釈を返す。


俺らから少し離れたところでもギャーギャー騒ぎ立てている二人。

仲が良いのか、悪いのか……よく分からないけど、きっと桃井にとっては一ノ瀬がいると安心するんだろうし、一ノ瀬には桃井が演劇の楽しさを教えてくるだろうから、良いペアなのかもしれないな。



「……なんか、嵐みたいな2人だな」


「ね。でもこの新入生5人ならいい風を吹かせてくれそうな気がする!」


「俺もそう思うよ。まずは花宮の実力チェック。抜かりなくやろうな」


「もちろん!」



もう二度と誰にも散った桜なんて、枯れた強豪なんて言わせない。


俺たちは全員でもう一度咲き誇るんだ。



「よし!久しぶりに2人で練習するか!」


「おっいいねぇ〜」





新生桜川高校声劇部、スタートだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る