Act.1 Re:start
#10
「瑞貴ー今日も練習?」
「おう……なにニヤニヤしてんだよ」
「いやぁ?やっぱり一番近い友人が、何か一つのことを頑張ってるってすげぇ嬉しいし、俺も頑張ろうって思うんだよ」
「……お前すげぇな、よくそんな恥ずかしいこと言えるね」
「ちょっと!そんな言い方すんなよな〜」
まぁ累の言う通り、今は練習が楽しくて仕方ないし、また演劇を頑張ろうって思ってる。
シンプルに発表まで後2日くらいだし、そろそろ大詰めだ。
望美さんと話してから、一度考えていたことを全部クリアにして再構築した。
自分でも驚くほどにすんなり感触を掴めているから、熱いうちに打っておきたい。
そんなことをぼんやり考えながら教室を出た時、
「……君も声劇部なの?」
どこからともなく声をかけられて、顔を上げれば知らない顔。
声劇部の新入生か、まさか先輩か?二年にはあったことないしな。
まぁここにいるってことは同級生だと思うけどな。
失礼かもしれないけど、仕方ない。
「え、ああ、そうっすけど……えっと、ごめん。誰?」
「あ!ごめんなさい、僕桃井です。一年の、桃井慶。このクラスの一ノ瀬未玖に会いにきたんだけど、2人の会話が聞こえちゃって」
同じ声劇部に入部する人なら仲良くなりたいなーって!とへらりと笑ったこいつ……桃井の勢いに若干たじろいでしまう。
「一ノ瀬……?」
「えっと、ほら!あそこにいるピンク髪の!」
あー!と累が声上げて、桃井と仲良さげに話している。本当にコミュ力高いな、こいつ。
「あのさ、君の名前、花宮瑞貴って言ったよね。もしかしてさ、あの……!
「親父の話?それとも俺の子役時代の話?まぁどちらでもいいけど、あんまり話されるの好きじゃないんだよな、悪い」
「そうだよ〜桃井くん。その話をするには俺を通してくれないと」
「お前は俺の何なんだよ」
累が変なことを言ってるけど、まぁ無視無視。
桃井のキラッキラッした目の期待に応えてやりたい気持ちもあるけど、教室に人がたくさんいるこの状況であまりそういったことを話されるのは好きではない。
というか嫌。
少々ぶっきらぼうな言い方になってしまったけど許してほしい。
正直、累がノッてくれて助かった。ちょっとは中和された?え、されてない?
まぁ、細かいことは気にしないでほしい。
チラッと桃井を見れば、ひどく申し訳なさそうな顔をしていて少し気まずい。
「……ごめん、そうだよね」
「あーいいって。俺も強く言っちゃったし。別に人が少ない時なら話してもいいからさ」
「えっ!本当?僕聞きたいことがたくさんあるんだ」
こう見えて結構演劇オタクなんだよ?と桃井がなんだか誇らしげにするから、ちょっと面白い。
演劇オタクかぁ……そりゃあ俺のことも知ってるよな。嬉しい。
なんなら累が瑞貴のことを知りたければ、俺と仲良くなること!と連絡先を交換し始めている。
流れで俺も交換すれば、アイコンが劇場と作品パンフレットなところにちょっと笑ってしまう。
「これから宜しくな、桃井」
「そうだ、花宮くんさ歓迎会のやつ何やる?」
「あー……俺は今先輩に頼まれたことで手一杯だから、まだ決めてないわ」
「頼まれたこと?」
「そうそう。部長の宮崎さんにちょっと面倒なこと頼まれてて……ま、じきにわかるよ」
ふーんと少し楽しそうな桃井を見やれば、ドア越しにこちらを見ているピンク頭。
さっき言ってた一ノ瀬って奴か?
「なぁ、慶。この2人誰?知り合い?」
「え?あ、未玖!こっちは花宮くんで声劇部の同輩だよ!」
「え、ちょっと俺は?」
「累、先輩が呼んでるぞ」
「あ、え、もー!瑞貴、一ノ瀬の連絡先も、後で教えろよ!」
ドアの方へすっ飛んでいった累と引き換えに俺たちの方へやってきた一ノ瀬。
……なんか声も高いし、中性的な奴だな。
女役をやりたくて入ったのか?
「どーも、一ノ瀬です。花宮って、同じクラスだよな」
うわ……ちょっと取っ付きにくいタイプか。
「声劇部で一緒なんだって」
「ん。慶、帰ろーぜ」
あ、行っちゃった。ま、いいか。
一ノ瀬の方はあんまり演劇に興味はないけど、桃井が入るから入るって感じなのかな。ちょっと付き合いにくそうだけど、演劇好きになってくれるといいな。
「……あれ、二人とも帰ったん?」
「おう。先輩に呼び出されるなんて、お前もう何かしたのか?」
「してねぇよ!!今日一年も含めて簡単にゲームするんだって。だから帰んなよ〜ってさ。
途中まで一緒に行こうぜ」
今はまだ一年は本入部ではなくて、活動に参加してい奴はする、みたいな自由な期間。
ただこうして親睦を深めるために一年のことも誘ってくれる部活が多いみたいだけど。
「そういえばさ、声劇部に入ること親父さんは何か言ってんの?」
屈託のない声で聞いてくる累と対照的に俺は言葉に迷ってしまう。
こいつは俺が色々あったのも大体は知ってるけど、全部話す必要はないだろうし、うーん。
「あ〜その感じ何かあった?」
「……まぁな。親父さ、もう演劇はいいんだと。それに俺にも目を覚ませって」
目を合わせずに昨日あったことを話せば、累の顔もだんだん沈んでくる。
そりゃそうだよな。こんな重い話誰も好んで聞きたくないだろうし。
それに累は本当に俺のことを思ってくれてるんだって昨日気づいたから尚更。
「なんか悪い、こんな空気にするつもりはなかったんだけど」
「いや気にすんなよ。多分親父さんも、強がってるだけだって。
瑞貴が一生懸命演劇をしてるところ見たら、また元のかっこいい親父さんに戻るよ」
累のこういうところ、本当に尊敬する。
俺はこんな風にかっこよくなれないけれど、自分の演劇で誰かに夢を与えられるようになりたいんだ。
だからこれからは何があっても絶対に諦めたりしない。
「そうだよな!」
「おう!俺も楽しみにしてるし。ちゃんと出る舞台とか教えろよー?」
じゃあ俺部室向こうだから!と駆けていく累を見送って、俺も第一音楽室へ向かう。
明日が本番だ。最終調整、頑張らないと。
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