第4話 呪符の使い方
「ま、お前も土御門の次期当主になるわけだし。それなりには出来るはずだぞ。」
「まじ!じゃあさっきみたいなのも出来るって事!?」
「そうだ、だが俺と違ってお前はまだ雑魚だからこれを使わねぇとああいうのはできねぇ。」
すると一枚の模様の書かれた細長い紙を取り出し俺に持たせる。
「こいつは符、と呼ばれる紙だ。この絵柄に沿って気を流すだけで魔術を使える。
一回やってみろ、人差し指と中指で挟んで、紙に血を流すイメージだ。」
「え?全然風が出ませんけど!」
「あほか、そんな簡単に出来るわけねぇだろ!おーいこいつに稽古付けてやってくれ!」
「えぇー!すぐにバーン!とかズドーン!とかできないの!?」
「出来るか馬鹿やろう!普通はお前がやってる気を出す事ですら一生かけても出来ねぇような奴だっているんだぞ!」
そう言うと彼は部屋を出て上へと向かっていった。
「え!教えてくれないんですか!」
「あぁ、少ししたら帰るから待っててくれ。」
「頑張りましょう、これを無意識で出来るぐらいにはなって零様を見返してやりましょう!」
「絶対無理だって!誰かぁ!助けてくれぇ!」
俺はドアを閉めて上の店の方へと向かう。
「助けてくれって。拷問されるみたいな言い方すんなよ。」
あの叫びようを少し笑いながら俺はとあるものを探していた。
ああいう符の絵柄には規則性がありそれを理解する事で個人で好きなように術を組める。だが威力が高かったりすると流すのには高度な技術や大量の気を要する。そこでその気を溜めて使えるようにする道具もあるのだ。
「お、あったあった。これ使うの何年振りだっけ?」
俺は埃を被ったそれを使いある屋敷の庭に転移した。目の前には巨大な平家の豪邸が広がり、縁側からは枯山水も見える。
そこで庭を整備している奴らの中に見覚えのあるやつがいたので話に行く事にした。
「あれ!兄様!兄様じゃないですか!いつ帰られてたんですか!弟子の話はどうなりました?」
「やっぱり紗枝か!身長高なったなぁ!弟子は…また後で話そう。ババアはいるか?」
「もう兄様!ババアって、稲荷様をそんなふうに言わないでください!そこの広間に居られますよ。じゃあ後でまた新しい術見せてくださいね!」
狐面を付けた少女、紗枝と最後にあったのが5年前でそん時12歳だったから今は17か。
20で面を取れるから後3年だな。
稲荷家、土御門家の分家として何百年も稲荷神に仕えてきた陰陽道の世界の五つの一族の中心。
「よぉ、ババア。随分と老けやがって、前に会いにきた時は留守だったから200年振りか?」
「黙れ年寄り。仏国に逃げたと思ったら出島からこっそり日本に帰ってきたお前と比べればピチピチの若者じゃ。」
その女は稲荷神だった。この日本の中で数少ない動物から神に昇華した存在で、1200年前に森でボロい祠で倒れてたのを助けたのが運の尽きだった...くそっ、こんな事になるんなんだったら無視して踏んづけとけば良かった。
「はっ!もうお前と会う事は無いと思ってたんだかな。色々大変な事が起きたから知らせてやろうかなってな。良い方と悪い方どっちから聞きたい?」
「なんじゃ?あの稲荷の娘に手を出したのか?じゃあ良い方から聞こうかの。」
「そんなんじゃねえよ。あまりでかい声では言えないが…晴明の継承者を見つけた。」
「…嘘じゃ。我が息子の直系である一族はこの稲荷以外は応仁の乱で滅びたはず。」
「それがねぇ、この零さんが経営する的中率100%の占い屋に次期当主のガキがやってきてな。どうせ嘘だろうなって調べたら本当に本家にしか現れない赫眼も出たもんだからそりゃたまげたよ。」
俺はあいつの前に胡座をかいて座ると茶を出してきたからすぐに飲み干す。こいつ茶を入れる才能だけはあるからな。馬鹿だから将棋とかの才能は皆無だが。
「相変わらず行儀のなっとらん奴じゃ。」
「はん、茶しか立てれない脳みそスカスカ稲荷神が行儀もクソもあんのかよ。あと悪いニュースだ。」
「しばくぞジジイ、それで?」
「酒呑童子の結界が崩壊しそうだ。」
「あれが?京都の街を巨大な符にしたあの化け物みたいな硬さの大結界が?」
こいつは心底驚いた様子でこちらを見るが、地盤強化の為に建物を作り替えて地面もそれなりに改装されたりしているから結界が傷つきまくっているのだ。
「二代目始祖の帰還に、災厄の帰還が重なっている。…遂に予言の時が来たってことだ。」
「あぁ、あの妖怪と陰の気で包まれた忌まわしき戦争から70年。平和になった日本がまた荒れ始めるぞ。」
するとタタタタと廊下を走っていく音が聞こえる。
「…稲荷さんよ。1200年前からずーっとこんなんだよなお前んとこ。子供に覗きをさせる教育でもしてんのか?」
「うーむ、こればっかりはワシも止められんのじゃ。」
「さっさと注意しにいけ。周りに話されたらたまったもんじゃねぇぞ。」
「いだっ!お主レディのお尻を叩くでない!」
「あぁ?昔散々人のことバカスカ殴って来るレディとやらは何処のどいつじゃあ!?バカぎつねぇ!」
「女には優しくするもんでしょうか!クソ零のバカァ!」
俺達が火花をばちばちに散らしている時…
「ほら!そこに流しきれてないですよ!もっと集中して!」
「全力でやってますよ!もうこれで精一杯なんですって!」
「本当に下手くそですね!もっと上手くできないんですか!?」
「そんなに言わないでも良いじゃないですか!こっちも必死でやってるんですよ!」
その頃地獄を見ていたとさ。
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