第33話



 話は続くが、この最高戦力の十二使徒第三席、蒼天のミルファさんについて。

 今回の作戦が上手くいくよう、教会のミルファとかいうお姉さんと戦ってる時は、バルザックのことをこれでもかと裏から魔法で支援してたから、勝てるのは当然といえば当然だ。


 こういうのは教会相手にどれだけ強敵感を醸し出せるかが、冒険者たちを戦力として解放するための根拠になるからね。

 もう全力でサポートしましたとも。


 斬馬刀の一振りで十数人にもなるエリート聖騎士をぶっとばしたのも、そのためである。


 なにせ能力が永続的に全て向上する例のバフに加えて、ちょっと体力が落ちてきたら即座に回復させる回復魔法まで併用していたのだから。

 そりゃあ無敵だったってわけだ。


 ちなみに、バルザックは最終的に勇者ノアちゃん相手に負けてしまったが、教会側をこれでもかとおちょくれて大満足だったみたいだよ。

 今も「腐れ外道どもが冒険者を解放するときの、あの苦渋に満ちた顔! くぅ~!」とか、「がっはっはっは! 第三席っつってもたいしたこたぁねぇな! ズルだろうがなんだろうが俺様の勝ちだ!」とかいって上機嫌である。


 よほどストレスが溜まってたんだろうね。

 もう酒をガブ飲みしながら会心の笑顔だよ。


 バルザックは鬱憤うっぷんを晴らせて満足、レオン少年側は冒険者を救出できて満足、冒険者たちは名誉を獲得できて満足。

 そして俺とツーピーは宴会ができて満足。


 敵も味方もまるごと、けっこう丸く収まったんじゃないだろうか。


 そして最後に、処刑されるバルザックを意思の無いそっくりさんなホムンクルスと入れ替えて、代わりに首を落とさせることで万事解決と相成ったのであった。


 おまけとして、ゴールド・ノジャーのちょっとしたイタズラで、レジスタンスに向けて発破をかけるような言葉を操作したが、まあ些細な問題だろう。


 内容としては、この大悪党が頭を張るレジスタンスは今日で解散だが、お前らは別に直接的な罪を犯したわけじゃねぇ、まだ間に合う。

 これからは真っ当に生きろ。


 みたいな感じ。

 こうすることでいままでの罪を全て処刑される一人にもっていったというわけである。


 また、そのレジスタンスの頭を降りたバルザックはというと……。


「見ろよこの若々しいボディ! イカした頭髪! 俺様の筋肉! ピッチピチだぜノジャーさんよぉ! お前さんの魔法は世界一ィイイイ、ってか! はーーーーっはっはっは!」


 四十代半ばから十代後半にまで若返り、ついでに髪の色まで変えた新生バルザックが大喜びしていた。

 もちろん俺の魔法によって肉体改造をした結果だったりする。

 若返ったように見えるが、肉体によって定められた細胞分裂の回数とかは増えていないので、直接寿命が延びたわけじゃない。


 せいぜい健康になったから長生きしやすいだろうね、という程度である。

 見た目は完全に変わっているので、自ら正体を明かさない限りもうバレることはないだろう。


 ああそれと、最後に勇者たちがバルザックを打ちのめしたっていう噂を広めたのは、何を隠そうこのゴールド・ノジャーである。

 結局、最初から最後まで茶番だったっていう話だね。


「バ、バカな……。いや、現にその通りになっているから、そうなのだろうが……」

「正直、ちょっと信じられないくらい突拍子もない話なのは確かね。バルザックがそこに居る通り、全て事実なんでしょうけど」

「う~ん。ウチは助かったならなんでもいいかな~?」

「然り。極めた魔導に限界などありはしないのである」


 そして、一部始終を聞いた冒険者たちの反応はこんな感じだ。

 みんなそれぞれ思うところはあるものの、かねがね真実として受け入れられている。


 ちょっとビックリしているだけで無理に納得してるようでもないので、以降この件に関してこちらから語ることは特にない。

 あとの想像はご自由に、というやつである。


「で、その話題の中心たる大悪党さんはこれからどうするつもりなんだ? 俺たちはあくまでも冒険者ギルドで任務を受けた、しょせんは臨時の勇者の導き手だ。今回のことで分かったが、聖国へと案内しきった以上、ここから先にまで勇者ノアの旅に口出しするつもりはない」


 冒険者パーティーがリーダーである戦士ダインの言葉に対し一様に頷く。

 どうやら勇者ノアの旅についていくには実力不足だったことが分かっているようで、役目を果たした今無理に同行するつもりは無いようだ。


 むしろこの任務を完遂させて彼らのパーティーは一躍有名になった。

 これからは別の方向で身の丈に合わない依頼が舞い込んでくるだろうし、いつまでも新米勇者のお守りをしているばかりでは身が持たないだろう。


 たとえば勇者に実力を認められた彼らを護衛任務に就かせたい他国の王族とか、そんなのはもう腐るほどいるだろうからね。

 というか、教会側も冒険者ギルド側も、彼らをそういったオイシイ話に利用しないはずがない。


 まあ、それでも両者の縁が途切れることはないし、これからも命を預け合った仲間として会う機会もあるだろうけど。

 もともと彼らは魔族と人類の領土争いが激しい帝国からやってきた冒険者だ。

 最終的にはそこに集うことになるだろう。


「おお、そのことか。そのことなんだがなあ……」


 少し歯切れの悪いバルザックがぽつぽつと語る。

 なんでももうレジスタンスは解散してしまったし、戻るところも無ければ身バレするきっかけを作るわけにもいかないということで、勇者ノアとレオン少年の旅に同行することにしたらしい。


 ただこんな犯罪者を勇者という正義の味方に同行させていいのかという、そこが本人にとってネックになっているらしい。

 主に腐った教会への嫌がらせとしてだが、色々と悪事に手を染めておきながら変なところで潔癖なやつである。


 だが……。


「私は構いませんよ。ね、レオン様」

「もちろんだ。バルザックほどの男がこれからの旅に加わってくれるのならば、僕も心強い」


 なんと、彼を最初に受け入れたのはレオン少年大好きな勇者ノアちゃんであった。

 てっきり二人きりの時間が~とかいうのかと思っていたけど、こういうところではしっかりしている。


 新米とはいえ勇者なだけであって、何が本当に正しいことなのかを直観で理解しているのかもしれない。

 まあ、正しさなんて人それぞれだが、ここでバルザックを受け入れることが一番丸く収まり、誰も傷つけない選択であることは間違いない。


 いやはや、さすが勇者、器の大きさにあっぱれである。

 この三人であれば、しばらくの間は安定した旅が送れるだろうね。


 さて、それじゃあ話もまとまったことだし、この辺で俺はおいとましようかな。

 そろそろマルクス君のところに戻って、最後の仕上げと魔法学院の入学を見届けなくてはならない。


「というわけで、あ~ばよ~、なのじゃ!」

「イェーーーーーーー!」

「あ、ちょっ! 勝ち逃げは許さないわよツーピー!」

「イェーーーーーーー!」


 宴会で完全に酔ってしまったのか、ノリと勢いだけで頭が回って無さそうなツーピーと共にこの場を去る。


 まあ、またちょくちょく様子は見に来るから、そのつもりでってことでね。

 さらばじゃ~。




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