第34話



 バルザックの件が解決してから数日後。

 もうすぐマルクス君の家庭教師として復帰しようと試みている俺は、気が早いことに入学祝いにマルクス君でも使える超つよつよアイテムの製造に着手していた。


 マルクス君にも使える、といっても、人間にしては規格外の大魔力を持つ天才のことであるからして、それなりにパワーのあるアイテムが製造できそうであった。


 ここをこう……。

 ちょちょいのちょい、とな。


 うむ、いい感じに超つよつよなスゲー杖になりそうである。

 たぶんマルクス君が最大魔力を込めたら、大国の首都がふっとぶレベルの大爆発が起きるくらいの代物だ。


 ちょっとやりすぎ感が否めないが、第二の弟子が一生涯使える最強装備と考えれば、妥当ではなかろうか。

 なお、まだ出戻りするには二か月くらいの期間があるので、この後も使いやすさとパワーを求めて研究を続けていく所存である。


 やれるところまでやってしまおうの精神だ。

 魔法学院組には黄金のバフをかけていないし、このくらいの装備というアドバンテージがないと勇者組に一歩も二歩も劣ってしまう。


 よって、これは良い悪乗りなのだ。


「つんつん」

「何じゃ?」

「つんつん。のじゃロリ、お前いま、ちょっと怪しいのよ」


 ……ふぁっ!?

 な、ななな、なにが怪しいというのだろうか。


 くっ、くそ。

 まさかツーピーに悪乗りがバレたのか?

 いや、こいつ賢さのわりにポンコツだから、そんな鋭い直観なんて持っているはずがない。


 きっと気のせいだ。


「な、なんのことかのう」

「ふ~ん、なのね~」


 くっ、なんだその信じてませんよーみたいな顔は。

 いつからこのちびっこは親を疑うように……!


 ……いや、それは最初からか。

 うん、そうだったね。


 俺の負けだよツーピー。

 お前はいつでもどこでもマイペースな奴だった。

 認めよう、それがツーピーの個性であると。


 だが、この研究だけは譲れない。

 かつて魔道具には頼らないと誓った俺だが、あれからも成長を続けているのだよ。

 今度こそうまくいくはず、そう、今度こそね!


 アカシックレコードを応用して生まれた知識に間違いなどあるはずがないのだ。

 たとえそれがまだ未発見の知識だとしても、ベースとなる情報が限りなく正しいのだから問題ない。


 そう、この杖にあとちょっと、もうちょっとだけ空間魔法の魔力を注げば、最強のマルクス装備が完成するはずなのだ!!


 まかり間違って空間魔法の魔力を思いっきり混入させない限り、あとちょっとで────。


「しんちょ~に、しんちょ~に……」

「…………。…………。…………フッ」


 こちょこちょこちょ~。


「ぶふぇぁあああはぁっ!!! ちょ、何するんじゃツーピー!? 不意打ちすぎて笑ってしもうたわ!」

「仕方が無いのよ。わたち何日も放置されてて、暇だったのよね~。それよりも、なんかその杖、ちょっと挙動がおかしいのよ?」


 ────ふぁ?

 ────え?


「のじゃぁあああああああ!?」

「イェーーーーーーーーー!!」


 次の瞬間。

 込め過ぎた空間魔法の力が大暴走した。


 研究所にしていた無人の大森林のログハウスとどこかの空間が直結し、魔力暴走を起こした杖が吸い込まれていく。


 幸いなことにどこかと繋がった空間は一瞬で閉じたものの、杖はそのまま消えてしまった。

 というかあの勢いだと、たぶん繋がった先でとんでもない空間の大爆発を起こしているよなぁ……。


 そういう仕様で作った杖だったし。

 さて、どうしよう。


「まっ、やっちまったものはしゃーないのじゃ、儂、しーらない」

「すごい魔力暴走だったのよね~。わたち、ちょっと興奮したかも」

「いや、お主は少し反省せい。一週間はオヤツ抜きじゃ」

「…………っ!!」


 そんな顔してもダメだよ。

 いくら何度でも作り直せるといっても、いまのはちょっとやりすぎ。


 とはいっても、ツーピーをずっと放置していた俺にも多少の責任はあるので、オヤツは俺も一週間抜きで過ごす所存。

 こういうのはお互いの連帯責任だよね。


 ま、次だよ次。

 やっぱり暴走や破損のきっかけを持つ魔道具に頼るのはよくないね。


 マルクス君に渡す魔法杖は、そこそこのやつにしておこっと。

 プレゼントは奇をてらい過ぎず、慎重に、だな。





 その日、聖国の聖都セレスティア上空に、とてつもない大魔法が展開された。

 この世の終わりを連想させるエネルギーの塊は渦を巻き、特定の教会勢力を飲み込んで全てを無に帰していく。


 狙われた教会勢力は全て、今回の事件の発端であるゴールド・ノジャーなる魔族を絶対の敵として認識し、無き者にしようとしている過激派の者達だ。


 冒険者たちがもたらした聖なる魔族という情報は一部の狂信者、そして魔族に敵対することで権力をむさぼっている者達には都合が悪かった。

 故に教会側はゴールド・ノジャーを亡き者にしようとする過激派と、勇者が認めたのならば手を出すべきではないという穏健派の二つに分かれていたのだ。


 そして、その結果は……。


「……なんてことだ」

「天罰だ……! 天罰だぁああ!」

「ゴールド・ノジャーが神々の使徒だという話は本当だったのだ! だから私はあれほど反対して……!」


 突如上空に現れた強大な地獄に対し、口々に責任を擦り付け合う教会の者達。

 ある者は地に頭をこすりつけ神に懺悔し、ある者は逃げまどい、ある者は泣き叫ぶ。


 まさにこの世の終わりであった。


 彼らは一様に思う。

 あの冒険者たちが言っていた情報は本当だったのだと。


 ゴールド・ノジャーは神に選ばれた救世の使徒。

 決して手を出し手はならない者だったのだと。


 そうしてしばらくの間、上空で渦巻いていた強大なエネルギーは徐々に落ち着きを取り戻し。

 ゴールド・ノジャーを絶対の敵としていた勢力は、ほとんど全てが壊滅的状況に追い込まれる。


 また、僅かに生き残った敵対勢力も、既に歯向かう気概など無いのだろう。

 地にへたり込み、ただただ己が罪を悔い改めるのであった。


 もちろんこの状況を起こした本人がアカシックレコード経由で知るのは、もう少しあとのことである。


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