第22話
今にも食って掛かりそうな勇者ノアと、肩をすくめてやれやれしているツーピーがにらみ合うことしばらく。
己が誇りをかけてバチバチに圧力をかけ合っている二人を放置して、残った者達には今回のお披露目会の意図を説明する。
ちなみに盗賊は既に息絶え全滅しているし、襲われていた人は勇者たちにお礼を言いつつも、ツーピーに恐れをなしてそそくさと去っていった。
「なるほど。ではあの幼女は神様の力で作り出した分身みたいなものなんですね」
「おいおいおい。ホムンクルスって言やぁ、帝国の研究所で一時期話題になってた魔導人形のことじゃねぇか。確かあの研究では量産できない上に、元となる生命体に強さが左右されるってんで、凍結されたはずだが……」
そう語るのはレオン少年と冒険者のリーダーである戦士ダイン。
帝国というのは中央大陸への侵略者である魔族と、最前線でやりあっている最北端の国のことだ。
特殊な生い立ち故、レオン少年は帝国のことをあまり詳しく知らないみたいだが、幼いころに社会の勉強で俺自ら世界のことはある程度伝えていたので話にはついてこれる。
そして冒険者側はいわずもがな。
もともと北の方から教会の意向で南に移動してきた、勇者の導き手たちである。
帝国のことを知らないわけがなかった。
そんな彼らの語る帝国の知識は本物で、確かに数年前までは魔族との闘いに戦力として投入するため、人間のコピー品たるホムンクルスを創造する研究が行われていたのだ。
だがこのツーピーを見てわかる通り、少なくとも素材としては超一流であるゴールド・ノジャーの遺伝子と、完全な技術で整備された魔力回路があっても、しょせんはホムンクルスが本体を超えることはないのである。
俺は別に戦力目当てでツーピーを創造したわけじゃないから問題はないが、戦争に利用したくて莫大な資金を投入していた帝国側が残念な結果になったのは言うまでもない。
長年研究していた分、計画を放棄するのはかなり苦渋の決断だったみたいだよ。
まあ、元となった本体より戦闘力が低くなってしまうのでは、どうあっても使い物にはならないからね。
魔王も攻撃をしかけてきているし、研究なんてしている場合じゃないし仕方がないんじゃないかな。
ホムンクルスを人間が一から作るのには多額の資金と時間的なコストが必要だし、もともと帝国でも天才の名を欲しいままにした研究者しか成功した例がなかった。
今後その研究者が量産に成功するか、ホムンクルス作成のコストや難易度を下げないと、実践への投入はもう無理だと思われる。
「確かにその研究は既に凍結されておる。しかし、それを儂が引き継いではいけない理由はないのう」
「はえ~。ってーことはなに? あの強さをもった幼女ちゃんを作り出したあんたは、それより遥かに強いってこと?」
「ほうじゃよ」
「分かっていたことだけど、規格外にやっべーわねあんた」
ざわざわ。
本体より弱いはずだというホムンクルスの条件から、俺の実力を推測してしまい動揺する冒険者一同。
彼らの中にはあらゆる憶測が飛び交っていることだろうが、ふとあることに気づく。
それはいまも勇者ノアとにらみ合い、お互いにあらゆるポージングを取りながら相手を煽り倒しているツーピーの頭部にあった。
そう、何を隠そう。
ツーピーは巻き角のカチューシャをつけていないのであった!
「なるほど……。ホムンクルスっていうのは、誕生するときに魔族の要素を受け継がないのか。これは新たな発見だな」
「そうみたいね……。もしかすると魔族と人類の違いっていうのも、実はほんのわずかなのかもしれないわ。実力以外は人間にしか見えないツーピーちゃんがそれを証明しているもの」
とのこと。
レオン少年は神様が魔族なわけないじゃん、みたいに首を傾げていたり。
魔法使いエルロンに至っては、魔族の角というものは体内の魔核によって生まれる特殊な魔力回路の云々かんぬん……、故にその戦闘力によって角の有無が……。
みたいに力説しているが、実はかねがねその通り。
誰も魔族の素材をホムンクルスに代用したことがないので情報不足だが、アカシックレコードがはじき出した演算結果でもエルロンの考察と同じ結果になったのだから。
なんでも、魔族を素体にして生まれたホムンクルスには魔核が無いため、角が生えないのだとかなんとか。
要は魔族にとって心臓ともいえる魔核の有無以外は、肉体の構造的にほとんど人間と変わらない存在なのであった。
別にそんなことを伝えたくてツーピーのお披露目会をしたわけじゃないのだけども、なにかこの世の真理を垣間見たみたいな感じでうんうん頷いているので放っておく。
微妙に認識がすれ違っているような気がしなくもないが、世の中こんなもんだ。
「ありがとう、ゴールド・ノジャー殿。俺たちは貴女の導きにより、新たな真実に気づくことができた。この情報はなんとしてでも聖国へと持ち帰り、上層部へと掛け合ってみようと思う」
「なんのこれしき。儂は貴様らにちょこっと、新たな家族を紹介したかっただけのことよ。気にするでない」
いやほんと、深く考えなくていいよ。
こっちはただのお披露目会のつもりだったんだから。
「謙虚なのだな、貴女は。だが、ここまで恩を受けてなんだが、俺たちに返せるものは何もない。その代わり、必ずこの真実を伝えると約束する」
「ほうかほうか。ま、それなりに頑張るとええじゃろ」
よくわからないことを戦士ダインがいっているので、適当に聞き流す。
気分はもう、近所のお婆ちゃんモードだ。
そうこうして話はまとまり。
いまだお互いに煽り合い、ツーピーに至っては挑発のポーズなのかなんなのか、逆立ちして回転しはじめているのを回収して彼らとは別れた。
たぶん挑発に必要なポーズのストックが切れたんだろうね。
もはや路上パフォーマーと化していたツーピーだったが、やり切った顔をしていたのでよしとする。
どうやら勇者ノアをライバルと認め、次は圧倒できるよう、ポーズにさらなる磨きをかける予定のようだ。
本人がそう言っていたので間違いない。
なんのことか分からないけど、そうしたいならいいんじゃない?
そんな感じ。
ちなみに勇者ノアには、ちゃんとツーピーの路上パフォーマンスが効いてて顔を真っ赤にしていたので、もしかしたらこの二人は意外に感性が似通っているのかもしれない。
知らんけど。
とにもかくにも再び尾行モードへと突入した俺は、アカシックレコードで勇者一行らの旅路でぶつかる強敵や障害をいくつか確認し、聖国へたどり着くまでに致命的な敗北がないことを知り安堵する。
よって、ちょっと寄り道になるが、いまもオーラ侯爵領で研鑽に励んでいる第二の弟子。
頑張っているマルクス君への手土産的な感じで、魔法王国ルーベルス内部で発生しているマルクス君風評被害の件に着手することにしたのであった。
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